カメラがモタラシタモノ 11-05
ひとしきり騒いだ後、喫茶店の店主に詫びを入れ店を出ると鶴屋さんとは別れ、少し遅くなった帰宅を長門と共にした。
長門は何度もカメラに保存された写真を繰り返し見ていた。
「長門、記憶と違って写真はいいもんだろ。ちゃんとそこにはお前がいるんだからな。」
長門はコクリと頷く。
「使い方はさっき鶴屋さんに教えてもらっていたし、お前の事だ、説明書を読めばすぐ理解できるだろ。その他に何か聞きたい事があったら相談に乗るからな。」
「分かった…ありがとう…」
「おう、じゃぁまた部室でな。」
何故だろう、長門の『ありがとう』で妙に顔が熱くなりドキドキしてきた。今までこんな事は無かったのに…
その夜、夕食もすませ自室でベッドに横たわり久々に俺のIXY410Fを取り出し眺めていた。銀色に輝くボディにはまだ傷一つ無い。
「今度長門を撮影旅行にでも誘ってみるかな…」
などと独り言を口にした俺は、顔が熱くなるのを感じた。
「いや、別に旅行って言っても日帰りだぞ、それに長門を誘うのは写真の楽しみをもっと知ってもらうためだ。別にデートとか長門の写真を撮りたいとかそんな事はこれっぽっちも思ってないからな。うん!」
俺がカメラに言い訳をしていると、何やら視線を感じその方向へ首を傾げると入り口に我が妹が立っていた。
何となく居た堪れない空気が流れ、俺を無視するかのように妹は静かに入口ドアを閉めると「おかぁさん、キョン君がカメラにお話する危ない人になってるぅ」などと叫びながら一階に降りていった。
妹の痛すぎる言いつけに俺はベッドから半身を力無く床にダラリと落とした。
一度妹にはプライバシーというものについて、よく話した方がよさそうだな…
ダラリと落とした上半身を起こそうとした瞬間、ズボンのポケットがヴヴヴヴヴ…と振動し始める。
「うわっ!」
俺は跳ね起きるとズボンのポケットに手を突っ込み、振動の原因と思われる携帯を取り出した。
「携帯をマナーモードにした覚えはないんだがな。」
そんなことを呟きながら携帯を開くとやっぱりマナーモードにはなっておらず通常モードのままだ。そして携帯の左下にはメールの着信アイコンが表示されていた。携帯をささっと操作しメールボックスを開くとそこにはメールアドレスの無いメールが届いていた。
俺はそれを見ても何の驚きも不安もなく、逆にバイブしか作動しなかった着信のことも含め納得した。
だってこんな事をしてくる…いや、できる奴を俺は一人しか知らない。
「長門か…」
メールを開くと二人で撮られた写真と鶴屋さんを含めた三人で撮った写真が添付されていた。律儀な奴だな…
すると突然携帯の画面がブラックアウトした。