カメラがモタラシタモノ 11-04
「ほらほら、キョン君、長門っち、並んで。」
「あのぉ鶴屋さん、何をなさる気で?」
何をなさる気も何もなかった。見たまんまである。
鶴屋さんはカメラのスイッチをONにして、レンズをこちらに向けているのである。これでシャッターを押さなければ、それこそ何をする気でって事になってしまう。
「いや、その鶴屋さん、別に俺と長門を撮らなくても…」
「キョン君つべこべ言わない。おねえさん怒っちゃうよ。」
「はい…」
ハルヒとは別の意味で、この人には逆らえそうにない。
俺が長門の隣に座ると、鶴屋さんのカメラのモニターを見る目に力が入る。
「もう、二人の間に隙間が出来ちゃってるじゃないか。長門っちキョン君にべったりくっ付くにょろ。」
長門が俺の顔を一瞥すると腰をずらし俺にくっついて座ったしかも俺の腕に絡みつくように…
「ああのぉ長門さん?何もそこまでしなくても…」
「彼女に、ただ『くっ付く』のではなく『べったりとくっ付く』ように指示された。」
ししかし…
「キョン君、長門っち、良いにょろよ。それじゃレンズ見て…」
『カシャ!』
鶴屋さんの右手人差し指がボタンを押すと同時に喫茶店内にシャッター音が響き、すぐに再生ボタンを押すと鶴屋さんはクククク…と声を殺して笑い始めた。
「なかなか、いい男に写ってる…よ。キョン…くん。」
カメラの画面に写っていたのは、真直ぐカメラを見つめる長門と口を真一文字に結び明後日の方向を見つめるアホ面の俺が写っていた。
「つ鶴屋さん、消去して下さい。それだけは勘弁して下さい。」
「ダメにょろ。これも良い思い出になるさ。それにしても…あははははははははは」
そのアホ面画面を長門は少し嬉しそうに口元を緩めて見ていた。
ったく、長門よ。お前にそんな顔をされると無理にでも消去することが出来ないじゃないか。ただし絶対人に見せるんじゃねーぞ、その写真。
「ほらキョン君、またその顔。」
「えっ、俺また変な顔してました?」
俺は両手で顔を左右に引っ張った。
「案外、本気だったりするのかな?」
鶴屋さん、言ってる意味が分かりません。
「もう一枚撮るにょろ」
「ええ!もういいでしょう」
「遠慮しない、遠慮しない。3人で撮るにょろよ!」
俺としてはまったく遠慮をしているつもりは無いんだが、鶴屋さんも長門の横に座ると俺と鶴屋さんの顔で長門の顔ををサンドイッチにした状態でシャッターを押した。
撮れた写真を確認すると、長門のちょっと驚いたようなまん丸な目が印象的な写真が撮れていた。
長門、その写真も消すなよ。その顔は貴重な一枚だ!なんならプリントアウトして欲しいくらいだ。
その後、鶴屋さんの『もう一枚』は続き、長門にもカメラの使用方法を指導しながら、結局30枚くらいは写していたいたようだ。
長門なら取扱い説明書を見れば一瞬で理解しそうなものだが、珍しく鶴屋さんの説明を頭をコクコクと縦に振りながら熱心に聞いていた。