カメラがモタラシタモノ 11-03 | 和楽衣生活

カメラがモタラシタモノ 11-03

 しばらく一緒に歩くと俺の役割は終了とばかり「それじゃ俺はそろそろ帰るわ。」と伝えその場を去ろうとすると、長門は「これ…」と言って手にしていた景品のカメラを差し出してくる。

 「カメラがどうかしたのか?」

 「あなたに…」

 「これはお前が当てたんだろ。俺が貰ってどうする。」

 「私は補助券が足りなかった。五分の三の補助券を補てんをしたのはあなた。これは、あなたが有する権利がある。」

 「ねぇよ。」

 「ある。」

 「あのなぁ長門、俺は使う当てのない補助券をお前のために使っただけだ。それにカメラを当てたのはお前だろ、だからそのカメラは長門お前のものだ。それに俺だってデジカメくらい持っている。」

 「しかし、わたしはカメラを必要としない。わたしが経験した事は脳内のメモリーに蓄積・保存している。」

 「はぁ…、なら聞くがお前の記憶は他の奴が見る事が出来るのか?その記憶は俺やハルヒ、朝比奈さんや古泉そしてお前が一緒に写った映像としてあるのか?」

 「・・・第三者が見る事は不可能。また、わたしが見た映像であるため私は存在するが、そこに私が第三者として共に記憶する事は無い。」

 俺は記憶と写真の違いについて長門に出来る範囲で説明していた、そんなところに鶴屋さんが俺たちの言い合いに何事とばかりにやってきた。


 「うむうむ、なるほどね~。確かに長門っちは記憶力が良さそうだけどね。」

 いや良いってもんじゃないんですよ。なんせ595年を正確に記憶する奴ですから…

 「でも、やっぱり写真と記憶じゃ全く違うんよ。記憶って本人しか分かんないっしょ。説明しても他人にはイマイチ伝わんないしさ。でも写真は見ると、みんなが『あーこの時はこんなんだったな』とか『あんな事やったよな』なんて、誰が何を説明しなくても同じ思いや記憶を共有できたりするし、言葉以上の表現力があったりするもんなんよ。つまり写真ってのは記録や表現方法であって記憶とはまったく別物ってことさ。」

 そう言うと、鶴屋さんはコーヒーをゆっくり口に含んだ。

 言い忘れたが、今は商店街の片隅にあるクラシックな喫茶店の中である。

 昔ながらの木のテーブルに角砂糖の小瓶、時代を思わせる球体の星座占いも置いてある。店内は花形のライトで薄らセピア色に染まり、カウンターではアルコールランプ式サイフォンがポコポコ音を立てていて、一昔にタイムスリップしたのではないかと思ってしまう。

 長門は鶴屋さんの話しにじっと見つめ耳を傾けていた。

 俺がした写真の説明が、なんと情けない事か…

 「それにせっかく貰ったんだから使いなよ。高いカメラじゃないんだけど、そこそこ良いヤツだと思うんだけどな。」

 「へぇ、どんなカメラが入ってるかよく知ってますねすね。」

 「そりゃそうさ。なんたって、あたしが選んで買ってきたやつだかんね。」

 なるほど、そりゃ知ってて当たり前だ。

 「やっぱ口で説明するより、実際に撮ってみた方が分かるっしょ」

 そう言うと、鶴屋さんはカメラの包みをゴソゴソと勝手に開け始めた。

 「ジャーン!どうにょろ、なかなか良いっしょ!」

 鶴屋さんは両手で黒い小さなカメラを持つと、俺と長門の前に差し出した。

 「ああ、そのカメラ…」

 「ん!?キョン君、このカメラがどうかしたにょろか?」

 「俺、それ持ってます。色違いですけど…CanonのIXY410Fですよね。それ…」

 「そうそうIXYの410Fさ。キョン君も同じの持ってたんだ。で、使った感想はどうだい?」

 「使いやすいですよ。レンズも広角24mmで景色とか撮りやすいですし、ズームも光学で5倍、デジタルズームも合わせると20倍まで拡大出来ますからね。室内や夜なんか暗い所でも結構写ります。あと高速連写機能とかがあって良いですね。それにフルハイビジョン動画も取れるんですよ。何より起動が早い上に薄くてポケットに入れていける感じが良いと思いますね。」

 「キョン君、語るね~」

 「いえいえ、ただの感想ですよ。」

 「でも、長門っちはキョン君の語りでカメラに興味が湧いたんじゃないかな?」

 そんな事をいう鶴屋さんの視線の先には、長門が手にしたカメラをじっと見つめていた。

 長門は少なからずパソコンにも興味を持ったんだ、ならデジカメに興味を持っても不思議じゃない。

 活字を好み、パソコンを好み、カメラに興味を示す宇宙人。まったくアナログなのか、デジタルなのか…

 「キョン君って、たまに長門っちを見る目が優しくなるにょろね(クスッ☆)」

 「べべべつに、そんな事ありませんよ。いたって普通です。」

 「あはははは、キョン君顔が赤いにょろ。」

 二人のやり取りに、長門は俺と鶴屋さんの顔を交互に見て首を2ミリ傾げた。

 「長門っちカメラ使ってみていいかい?」

 そう言うと鶴屋さんはカメラの底をパカッと開けバッテリーとSDカードを差し込んだ。

 (※実際はバッテリーは充電する必要があります。SDカードも付属しておりません。小説の成り行き上の設定です。)