カメラがモタラシタモノ 11-01
カラン、カラン、カラン
夕方の雑多な商店街の片隅でハンドベルが鳴り響く。
いや、ハンドベルと言うと聞こえは良いが、鳴ってる場所は商店街の名前が入ったテントの中で、しかも鳴らしているのは赤い法被をまとったハゲ親父。
つまりはハンドベルの音楽会なんて高尚なモノではなく、ただの商店街の福引きの鐘の音である。
年末年始はとうの昔に過ぎ、今日は4月の第4日曜。
季節外れの福引の賑やかさを横目に、俺は買物袋を片手に福引き補助券に目をやる。
俺の持ち札が3枚、福引きを1回するには補助券5枚が必要だ。補助権1枚貰うのに500円以上の買い物…話にならねぇな。
どうせ福引きをしたところで、ハズレのポケットティッシュを貰うのが関の山だ。
その為に無駄金使う気は更々無い。俺の財布は裕福じゃないんでな。
補助券を無造作にポケットに突っ込みその場を立ち去ろうとすると、福引きの列に見知った人物を発見した。
なんだ、あいつ福引きなんかに興味があるのか?
「これ…」
一言そう言うと見知った少女は色白の手に握られていた補助券を係員に差し出したが、券を受け取った係員は少し困った表情を浮かべ、頭を掻いていた。
「あちゃ、お嬢ちゃん補助券2枚じゃ足りないわ、これは5枚無いと福引き出来ないんだよ。すまないね。」
そう言う係員を少女は凝視し、凝視された係員はというと金縛りにでもなったかのように困り顔のまま固まってしまっていた。
もちろん少女は無言の脅迫をしている訳ではなく、ダダを捏ねている訳でも無いだろ。おそらくは、何も考えて無い…んだろうな。
このまま状況を見守っていても良かったのだが、結果は見えている。少女の凝視に根負けした係員が『ええい、お嬢ちゃんには負けた。大サービスだ一回引いて行けい!』と言うに違いない。あいつの凝視に耐えられるのは俺たちSOS団員くらいだろうからな。
しかしだ、それではあまりにも福引きのオッサンが不備だし、SOS団内で一般人に迷惑をかけるのはハルヒ一人で十分だ。やっぱり、ここは助け船を出してやるべきなんだろうな。
「すみません、足りない分はこれで…」
俺は少女の頭の上から係員に補助券を渡した。
「長門、これで1回福引き出来るぞ。」
長門は振り向くと、そのアメジストのような瞳に俺の顔を映し出し無言のままガン見してきた。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「長門さん。俺を見られても困るんですが…」
「・・・・・」
「いや、あの~…待ってる人もいることだし、まずは福引き回そうか…」
長門の後には既に福引き待ちの人間が、3人ほど並んでいて、さすがにバツが悪い。
長門は俺の問いかけにひと頷きすると、福引器の八角形のガラポンの前に移動した。
その行動に係員はホッとしたのか、俺に有難うと言わんばかりの表情を見せ、待ちの人間は『やっとか』という表情をしていた。
受付からガラポンの前まで数メートルという短距離を長時間かけてたどり着いた長門だったが、またガラポンの前でゼンマイの切れたブリキの玩具の如く動きを停止させてしまった。
「どうした、長門?籤、引いていいんだぞ。」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「長門。一つ聞くが、やり方分かるか?」
そう言うと、ガラポンを見つめていた長門は首を左右に振った。
なんだ、やり方も分からずに挑戦しようとしてたのかよ。好奇心旺盛というか、チャレンジャーというか、その行動力だけはハルヒ並だな。
俺は感心すると同時に脱力し額に手を当てヤレヤレとばかりに長門同様に首を左右に振った。
そんな時、テントの奥から聞き覚えのある声が話し掛けてきた。