泥濘(ぬかるみ)タイガー日記


最近ベッドに入ると嫁が耳元で


「うっふん、アナタ、あたしマツタケが食べたいの。マツタケが食べたいの」と、


しつこく囁くので、仕方なく週末に出掛けて来ました。


ところが、車に乗ろうとすると左の前輪が妙に潰れています.....


確認してみると、案の定タイヤから+の皿ネジが生えていました。


「ホラ、セツ子(仮名)こんなのが刺さってるよ。今日は出掛けない方がいいて

神様が言ってるんじゃない?」


私は眠くて退屈なドライブを出来れば思い止まってくれる様、嫁を促しますが、

しかし、まぁ、こんな事でマツタケを諦める様なタマじゃない事も分かっています....


「ハイハイ、行けばいいんでしょ....」


テンション下がりまくりで近所のタイヤ館さんへ車を持ち込んで修理して貰い、昼前に

ようやく出発。


ネットで調べてみると、今の時期、家からそう遠くない岐阜の恵那辺りで地元で

採れた松茸料理が食べられそうです。


豊明ICから東海環状道に入り、豊田勘八ICで高速を降り153号へ、紅葉にはまだ

早いのかシーズンになるといつも大渋滞するこの道も、幸い今日はスムーズに

流れています。


途中道の駅どんぐりの里いなぶで休憩し、257号へ入り女城主とカステラで有名な

岩村を経て1時半を回った頃、恵那に着きました。


大した当ても無く、山の方へ車を走らせていると突然路肩に据えられた



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松茸喰った!喰った!の看板が目に飛び込んで来ました....



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更に松茸まつり喰った!喰った!の文字も....こ、これは行くしかありません。

助手席のセツ子(仮名)も白目を剥き、髪を振り乱して激しく頷いています....



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スロープを上がってやって来たのは恵〇ラヂウム温〇館さん....


玄関の受付には白髪のロングヘアーを後ろで束ねた老人が座っており、コースの説明を

してくれます...


「おすすめはこの松茸と飛騨牛のコースね。お一人様6000円で、松茸は地物で土瓶蒸も

付きますよ。お風呂は別料金で500円です。うひひひひひひひ」


内心、し、しまった....これは何となくヤバい所へ迷い込んでしまったと思いましたが、

小心者の私達は、もう引き返す事も出来ません。


「あぁ、じゃあ、それを二つお願いします」私は妖術に掛った様にそう答えてしまいました。


ちなみにこちらは一応旅館ですが、昼食や日帰り入浴も出来るそうです。



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案内された食堂はこの時期すでにストーブが焚かれ、数組の先客が料理をつついています

私と妻は長髪の老人に促されるまま、6人掛けのテーブルに腰掛けました。


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運ばれた来た料理を仲居さんが説明してくれますが、最初っからデザートの梨が

乗せられている所なんぞ、期待が激しく萎みます....



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「こちらが松茸と飛騨牛のすき焼きです。お野菜から水分が出ますので、しんなりして

来たら、そちらのお砂糖としょう油で味付けして頂いて、玉子でお召し上がり下さい。

うひひひひひひひひひ」


仲居さんはそう説明すると厨房に戻って行きました。


こ、これが松茸喰った!喰ったか.....


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松茸はは1/2本、飛騨牛は100グラムと言うところでしょうか....


これで喰った!喰ったは!はちょっとキビシイかも知れません....いや、かなり

キビシイです.....


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まぁ、いいや。すき焼きが出来る間、こちらの小鉢でも頂きましょう....


フンフンフン♪~これはな~にかな.....


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こ、これは、高級食材のヘボじゃにゃ~きゃ!ま、またの名を蜂の子....


実を言えば、私は以前にもコレを食した事があるので、そうは驚きませんが、嫁のセツ子

(仮名)は老眼の為、正体が分らぬまま「アラ、何かしら?香ばしくて美味しいわ」などと

ほざいてパクパクと食べています。


世の中には知らない方がいい事もある....私は52年の人生で既にそれを学んでいます。


嬉しそうに〇じ虫そっくりの高級食材を箸でつまんでは口に運ぶ嫁の顔から黙って目をそらし、

傍らの湯のみのお茶をずずずと音を立てて啜るのでした。



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コースの料理はイマイチ香りに乏しい土瓶蒸しと


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栗が混ざった松茸ご飯で終了です。


ビミョーね。


食事を終えたセツ子がぽつりと言いました。遠くでカラスが鳴いています....


「いやいや、美味しかったよ。うん、だって国産の松茸だぜ。それに飛騨牛だし、こんなもんじゃ

ないか?あははははははははははははは」


必要以上に明るく振る舞う私を無視してセツ子は携帯をいじっています。


「そうだ。お風呂に入ろう。お風呂はいいらしいよ」


私達は席を立ち風呂と書かれた案内板に従い歩き出しました。



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風呂は食堂のある母屋を一旦出た場所にあります。


庭にはかつて鯉や川魚でも泳いでいたのか、今は手入れもされていない池が

あり、壊れた水車や傾いた野点傘などが独特の風情を醸し出しています....


嗚呼、日本の詫びここに極まれり.....そんな感じでしょうか....


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更に奥の方は離れになっており、これまたビミョウな雰囲気を漂わせています。


所々に宿の方が考えたキャッチフレーズでしょうか、


「山は富士お湯はラヂウム」などと素敵な言葉が書かれた札が立っています。


私も「山は富士男は餃子」などと己にもう少し自信が持てれば、また違った人生を

歩めたのかも知れません....



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浴室はつげ義春が泣いて喜びそうなチープで昭和レトロがぷんぷん薫る素敵な佇まいの

建物です。


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お風呂は貸し切りみたいで脱衣場に客の気配はありません。普段は何となく得した

気分のこの状況も今日は何だか寂しいのは何故でしょう....



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それにしてもラヂウム温泉ってのは小学生の頃伝記を読んだあのキュリー夫人が

発見した原子番号88のアレの事ですかね?


何々?ロイマチスに効くって....え、え~!!恵那温泉剤って....入浴剤?


温泉の筈なのになぜか浴室の壁にはこの様な看板が掲げられています。


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宿自慢の洞窟風呂は定員2名ほどですが、私的にこの囲まれ感は嫌いではありません。

しかし赤の他人とこのスペースを共有するとしたら、それは拷問と言えるかも知れません...

他に小さなが湯船が二つ有りましたが、こちらは特筆すべき点もありませんでした。


入浴を終え、外に出ると既に4時を回っています。


やっちまったな....お互い口には出しませんが言いたい事は分かっています....



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私達は気分を変える為に駅近くの寿やさんに寄って栗パフェと


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栗しるこを頂いて帰りました。やさしく濃厚な栗の味に折れた心が癒されます....



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さぁ、高速に乗って家に帰りましょう。


「なぁ、セツ子、朝のパンクはやっぱり家に居ろってお告げだっただろ?」

私は助手席で鼻ちょうちんを膨らませイビキをかく妻の顔を見つめ、心の中でそう呟くのでした。


※この物語は架空であり登場する人物、店舗、食品は実在の物とは一切関係ありません。



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