golden(以下g):「スザンヌ・ヴェガやトレイシー・チャップマンといった60年代フォークを思わせるような女性たちがデビューしてきた一方で、パンクの影響を強く受けたいわゆるビート系のバンドを演る女性たちもこの80年代後半にいくつかブレイクしてました。」
blue(以下b):「プリミティヴスがカッコよかったな。」


The Primitives / Lovely(1988)


g:「ジャカジャカジャカジャカっていうカッティング中心のシャープなギターに、シンプルなビート、キュートなヴォーカル。」
b:「シンプルなビート感がええし、ヴォーカルのトレイシー・トレイシーだったっけ?敢えて舌足らずに歌うてる感じが60'sっぽい。

g:「60'sのガール・ポップをビート感増してパンキッシュに演ったっていう感じ。」

b:「1曲2分ちょっととか、ギターソロ一切なしとか、イキオイだけで突っ込んでいくのもエエ感じやった。」

g:「ラモーンズの影響だろうね。」
b:「っていうか、スタイルとしてはモロにブロンディーやけどな。」

g:「なるほど、コンパクトなビート感もそうやし、キュートでセクシーなヴォーカルのスタイルはもろにデビー・ハリー。」

b:「パンクの荒野の後に芽吹いた花としては、めっちゃええ感じやと思うで。」



g:「この同時期、ちょうど日本でもレベッカが大ブレイクしたりキョンキョンがガンガンロック演ったりしたあとで、キュート系の紅一点女性ヴォーカルのバンドがどこの大学の軽音にも山ほどいました。」
b:「みんなハーフのGジャンで髪に大きなリボンつけたりしててな。」

g:「ちょっと前までは女の子がロック演るなんてよっぽどだったのが、一気に普通になった。」
b:「女の子がロックなんて、よっぽどのアバズレ感があったからな。」
g:「ピーッ、アバズレ、NGワードです。」
b:「あかんのかー。」
g:「性的差別用語です。男性に使わない言葉は女性蔑視と見做されます故。」
b:「でも、ブロンディーにしてもそうやし、敢えて女っぽさを売りにしてたバンドもぎょーさんおったけどな。この時期やとトランスヴィジョン・ヴァンプとかな。」

g:「あー。トランスヴィジョン・ヴァンプの登場も衝撃的にカッコよかったねぇ。」

b:「このバンドもブロンディのレイト・エイティーズ版ではあるんやろうけどな、これカッコええやんっ!って思うたな。」
g:「T・レックスのノリ+ニューヨーク・ドールズのいかがわしさ+セックス・ピストルズの粗っぽさ+ブロンディのビート感をミックスして、マドンナのあざといセクシーさを追加した、みたいな。」
b:「めちゃくちゃイキオイあって、めちゃくちゃあざとかった(笑)」


Transvision Vamp / Pop Art(1988)


b:「この“Trash City,Trash,Trash City”っていうコーラスの既視感な(笑)」
g:「これはパクりとかではなく、オマージュというやつです。」
b:「いや、ええねんで。ロックなんかパクッてなんぼ、カッコよかったら何でもありや。」
g:「ヴォーカルのウェンディ・ジェームスだったっけ、インパクトあったよね。」
b:「今の世の中だと性を売り物にしてると叩かれそうなくらい、あざとさまるだしで。」
g:「確かにあざとい。でも華があるよね。」
b:「いや、華があるだけやのうて、ヴォーカリストとしてもなかなかのもんやと思うで。パンキッシュなシャウトからヤバめの低音からセクシーなウィスパー・ヴォイスまで変幻自在で。」
g:「バンドの目指すものと自分の立ち位置がよくわかった上で演じきってるよね。」
b:「そのへんのカッコいいロックを全部ぶっこんでアマチュアっぽく雑に演ってるように見せつつ、かなりのクオリティー。ある意味プロの仕事やと思うわ。」


g:「いやー、カッコいいねー。ロックのカッコいいところを全部まとめたみたいにカッコいい。」
b:「そうやねん。そうやねんけどな、この時期くらいから、元ネタがわかりすぎるバンドが増えてきたんよ。」
g:「いわゆるルーツをリスペクトしてっていう点ではいいことなのでは?」
b:「リスペクトはええねんけどな、80年代半ばまではな、とにかく新しい音を、っていうのがあったんや。リスペクトするにしても自分たちなりの消化があってんけど、ここから先に出てくるロックバンドはほとんど○○風そのまんまとか、△△と□□をミックスしてみましたとかな、そーゆー既視感が出てくるねん。」
g:「ロックの誕生から30年、あらゆるものが出尽くして、あとは劣化コピーが増えていく、っていう。」
b:「まぁ、ひとまわりしたんやろな。」
g:「ロックという文化が成熟へと向かっていく。」
b:「いや、成熟っちゅーのは腐敗の始まりなわけよ。そーゆー意味では、ロックはトランスヴィジョン・ヴァンプで終わったんや。いや、終ってたもんにトランスヴィジョン・ヴァンプが留めを刺したっていうかな。」
g:「終わったかどうかはともかく、次のステージへ進んだことは確かだろうね。」