golden(以下g):「80年代の中期以降というのは、いわゆるオルタナティヴ・ロックの胎動が聞こえてきた時代でもありました。」
blue(以下b):「90年代に入るとそういう系統のバンドがぞろぞろブレイクしていくねんな。」

g:「ソニック・ユース、ダイナソーJr.、ニルヴァーナ、パール・ジャム、スマッシュ・パンプキンズ・・・」
b:「ひととおりは聴いてんけどな、どうもハマらんかってん、あの手のバンドって。」
g:「ロンドンパンクとニューヨークパンクに80年代のインディーズ的な動きがぐしゃっとミックスされたみたいな音って、聴いてきたものからすると好きにならないはずがないんだけどね。」
b:「そやねん。そのはずやねん。でもあかんかってん。」
g:「どうしてだろうね。」
b:「なんてゆーかな、既視感があったっていうか。」
g:「うん。」
b:「例えばザ・カルトとか、ジーザス&メリーチェインとかな、出てきた頃にはウォッ!って思うたんよ。」
g:「独特の存在感がかっこよかったよね。」
b:「でもな、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドとかストゥージズとかMC5とか聴くと、もっとエグいねんな。」
g:「そういう既視感ね。確かにああいうバンドの強い影響化にあったんだろうね。」

b:「いっぺんそういうオリジナルを聴くとな、いろんなバンドが全部エピゴーネンでしかないと思えてくる。」

g:「なるほどね。」

b:「まぁ、そういうエピゴーネン的なバンドも多く生まれた中で、なんか独特というか、ルーツへのリスペクトを感じさせつつオリジナルな独自の世界を構築してたんが、R.E.Mやな。」

R.E.M / Life's Rich Pageant(1986)

g:「1986年リリースの『Life's Rich Pageant』。たぶん最初に聴いたR.E.Mはこれだったかな。」
b:「インディーズなのにすごく売れたっていう。」
g:「R.E.Mって、オルタナティヴというよりは、後のオルタナバンド群がリスペクトしてたバンドっていう印象があるけど。」
b:「まぁ、そうなんやけどな、ただオルタナティヴっていうのはいわゆる“代替の”とか“別の選択肢の”とかいう意味やん。」
g:「“主流に取って代わるべき亜流”みたいな。」
b:「パンクやディスコのムーヴメントさえも飲み込んで巨大マーケットとなっていく80年代のロック産業から敢えて一歩距離をおいたスタンスでインディーズでプレイし続けた、っていうのは、つまりは主流に与しないっていう意思やと思うねん。」
g:「なるほど。」
b:「そういう点ではやっぱり当時のショーアップされたポップミュージック界とは違うオルタナティヴやったんやろうな、と。」
g:「メンバー一人一人も地味だし、曲そのものも売れ線狙いじゃなくて地味だもんね。」
b:「いわゆるカレッジ・ラジオのチャートで全米各地に拡散して。ポップではあるんやけど、狙った感がない。」




g:「なんていうか、主張がゆるいんだよね、R.E.Mって。」
b:「ゆるいくせに頑固っぽくって、ロック一筋みたいな暑苦しさは皆無なのに一徹感はあるっていう。」
g:「基本的に、売れたい、スターになりたい、儲けたいっていう匂いが薄いっていうか、そういうところを最初から諦めてるような深い諦念のようなものが根底あって、でもだからといって“俺は絶望してるんだぁー”って叫んだりしないんだよね。」
b:「“俺は絶望してるんだぁー”って叫ぶうちはまだ絶望してへんわけやな。」
g:「念仏みたいなヴォーカル、淡々としたメロディと進行、これがなぜかクセになる。」

b:「不思議な存在感があるねんな。」



g:「カレッジ・ラジオのチャートからヒットしたといえば、印象的だったのがスミザリーンズ。」

b:「ええバンドやったな。めっちゃポップで。」

g:「このバンドもポップではあるんだけど、狙った感がないんだよね。」

b:「こういう音楽を生まれた頃から聴いてきた、ナチュラル・ボーン・ポップっていう感じがする。」


The Smithereens / Especially For You(1986)


g:「ジャケットの幽幻な雰囲気からはプリファブ・スプラウトみたいな感じかなと思ったら、めっちゃポップで。」

b:「アメリカのバンドっぽくない洗練されたメロディーと、イギリスのバンドにはないパワフルさっていうかな。」

g:「いわゆるパワー・ポップっていうんでしょうか。ギターもベースもドラムもパワフルでちょっとパブロックっぽくもある。」

b:「コステロっぽいひねりも入ってたり、ちょっとエスプリが効いてて速球派に見えて変化球も得意っぽいんだけど、その一方でものすごい豪速球を投げてきたりもするねんな。ポップでパワフルで、クレバーなのに馬鹿もやれるっていう。」




g:「R.E.Mもスミザリーンズも、ニルヴァーナのカート・コバーンが大ファンだったらしいね。」

b:「カート・コバーン、同い年やねんな。誕生日も10日ほどしか違わへん。」

g:「カート・コバーンがこういうポップなバンドを好んでいたというのは、意外な気もするし、なるほどという感じもある。」

b:「スミザリーンズはメロディーはポップだけど、演奏そのものはかなり骨太でワイルドやしな。」

g:「いわゆる商業主義の売れ線狙いでも最新流行のトレンドでもないところで、地味に自分の音楽と向き合おうとするような姿勢がね、カート・コバーンがリスペクトしたとすればそういう部分なんじゃないかな。」

b:「『Nevermind』が全世界で大ヒットしたことをカート・コバーンはすごく恥じていたっていうからな。」

g:「R.E.Mとスミザリーンズの共通点がカート・コバーン。」

b:「まぁそれくらい後進に与えた影響力が大きかったっていうか。」

b:「R.E.Mなんかは、このアルバムはまったくキャリアの序章でしかなくて、90年代になってから『Out Of Time』『Autmatic For The People』『Monster』と次々とメガヒットを飛ばしていくわけやからな。」

g:「マイケル・スタイプ以外のメンバーがウォーレン・ジヴォンと演った『Hindu Love Gods』もカッコよかった。」

b:「マディ・ウォータースとかハウリン・ウルフのカヴァーとか意外やったけど凄かったな。」

g:「スミザリーンズもその後もビートルズのカヴァーアルバムをリリースしたり、着実に活動していたようで。」

b:「『Meet The Smithereens』っていうアルバムな。カヴァーしてるんがビートルズの初期の曲ばっかりで。」

g:「聴いてなかったんじゃなかったの?」

b:「いや、そりゃ一応はチェックしとかんとな。若い頃みたいには夢中にならんかっただけで。古い音楽ばっかり聴いてたら老け込むのん早くなりそうやろ?ジジイになるんはまだもうちょい早いからな。」

g:「80年代のロックについて語り合っているっていうだけで、じゅうぶんジジイの会話だと思いますが、、、」