海賊とよばれた男 | えのきち映画感想文

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しがない40代サラリーマンの映画レビューです。
ネタバレはないので宜しければどうぞ。

『海賊とよばれた男』を鑑賞。
山崎貴監督、岡田准一主演で贈る同名ベストセラー小説の映画化。

原作小説は百田尚樹による出光興産創業者である出光佐三をモデルにした物語。


石油の将来性を予感し、国岡商店として石油業に乗り出した国岡鐡造(岡田准一)であったが、同業他社や海外メジャーなど様々な妨害を受けるも決して諦めず店員(社員)達と共に乗り越えていく。

 

結論から言えば、がっかり。

 

原作小説は私自身何度も読んだが本当に素晴らしい。

終戦直後、奇跡的に空襲から逃れた国岡商店は石油業としての仕事ができなくなったが、鐡造の「一人の店員も首にはしない」と断言する所から物語は始まる。


鐡造は店員を家族だと断言し、どんな困難にも諦めず店員の為のみならず日本の復興、石油業の発展の為に尽力した人物である。

映画では戦後から過去のいくつかのエピソードを抜粋する形で表現されているのだが、これがいけない。

全く表面的にしか描かれていない為、そこに至るまでの経緯が全く伝わらない。

 

さらに戦後の展開についても同様で、いきなり登場する大型タンカー「日承丸」にはびっくりで、造船にあたり鐡造どれだけ苦労して、また、どれだけの思いをもって完成させたのかがまるっきり抜け落ちている。

 

タンク底のエピソードにしてもただ汚いというだけではなく、タンク内では有毒なガスが発生している事によりとてつもなく危険な作業だったのだが、そんな表現もなく、よくわからない社歌(山崎貴監督作詞)を謳いながら楽しげに行なっている。この社歌が実に鼻につく。
常に前向きに店主(鐡造)を信じてついてくる店員の姿は、どれだけ困難であったかを丁寧に描く事でしか表現できない。

 

原作未読の方には「困難を乗り越えた」というよりは「たまたま成功した」ようにしか見えないだろう。

 

とは言え、上下巻で構成された長編小説を2時間半で描ききる事自体が不可能なのであり、取捨選択にはかなり神経を使われたであろう本作であるが、私の感想としては、最も描かなければならないものが抜け落ちており、原作のダイジェストを2時間半かけて見せられている感覚。原作小説の満足度に比べればせいぜい2割といった所。

 

本作を鑑賞して国岡鐡造(出光佐三)に興味を持たれた方がいれば、是非前作小説を読んでいただきたい。
真に熱い志を持った男の物語はこんなものではない。