◎「はつ(初)」
たとえば、「はつゆき(端つ雪)」。「つ」は、「時(とき)つ風(かぜ)」(そのときたる風)その他、空間的時間的同動・連動を表現する助詞。「端(は)」は部分域ですが、時間変動におけるその部分域の現れはその変動現象全体が現れること、その始まり、を意味する。その始まりたる何かが「はつ~(端つ~)」であり、この場合は雪。それは雪という自然現象の始まりを、以前にも始まり、そして終わったその現象の始まりを、意味する。「はつはる(端つ春)」、「はつはな(端つ花)」、「はつを(端つ麻:波都乎)」(万3468:この「乎(を)」には麻(を:アサ)、苧(を:カラムシ)、尾(を:鳥のヲ)の三通りの読みがある)…その他。そうした表現から「はつ」が現象の始まりたることを意味するようになった。たとえば「はつを(端つ麻・初麻)」(万3468)はその年初めて収穫される麻(あさ)。
「初垂り(はつたり:始垂)を からく垂り来て」(万3886:この「初垂り(はつたり:始垂)」は製塩の際の最初の濃い塩汁。これは蟹の身になっての歌であり。塩漬けにされている)。
「九月(ながつき)のその初雁(はつかり:始鴈)の使にも思ふ心は聞こえ来ぬかも」(万1614)。
「新ないしとの(内侍殿)よりはつとてしろ御うり(白御瓜)まゐる」(『御湯殿上日記』(天文四(1535)年四月二十八日))。
「初詣」。「初仕事」。「おはつに御目にかかります」。
◎「はちぶき」(動詞)
「ハチふき(八吹き)」。口が(上から見て)「八」の字になって、つまり口をとがらせて、吹く(何かを言う)こと。態度が不満げであったりふてぶてしかったりする。
「『………』など、そのあたりの貯へのことどもを危ふげに思ひて、髭がちにつなしにくき(口の中で憎げに舌打ちしているような)顔を、鼻などうち赤めつつ、はちぶき言へば…」(『源氏物語』:土地の収穫物を取られてしまうのではないかと気にしつつ、不機嫌そうに言っている)。
◎「はぢらひ(恥ぢらひ)」(動詞)
「はぢいりはひ(恥ぢ入り這ひ)」。恥じいった情況動態になること。
「幼き心地に、すこし恥ぢらひたりしが、やうやううちとけて、もの言ひ笑ひなどして…」(『源氏物語』)。