◎「くみど」

「こうみづよ(子生み強)」。「こう」は「こ」になりそうですが、これはこの「こう」の「こ」はいわゆる上代特殊仮名遣いの甲類で表記されるような音であることが影響している。「こうみづよ(子生み強)→くみど」は、子の生みが強くなったことを表現する。意思とは関係なく子の出産や子が生まれることがすすみ迫っていることを表現する。「久美度邇(くみどに) 此四字以音 興(おこ)して生(う)める子(こ)」(『古事記』:「興」は他の部分では「起」とも書く)。「くみどに興(おこ)して生める子」…子が自然に生まれるような表現です。これは『古事記』にある表現であり、「いざなきのみこと」と「いざなみのみこと」の関係や「すさのをのみこと」と「くしなだひめ」の関係で言われている。これらは通常の人間の性行為→出産という過程ではないということでしょう。

一般にこの語は「こもる処(ところ)」の意であり、夫婦の寝所のことと言われています。「くみ」という語に、なんとなく、籠(こも)る印象があったり、それを、男と女が「くむ(組む)」という印象でとらえたり、ということでしょうか。しかし、「くみ」に籠る意はなく、これは子が生まれることを表現しており、夫婦関係のある場で生まれたことを表現すること(→「組み処」)に意味はなく、その「くみ(組み)」が強い状態で生まれたこと(→「組み強」:弱い状態で生まれることもある)を表現することにも意味はないでしょう。

 

◎「くむしら」

「くみゆしひら(組ゆ為平)」。「ゆ」は経験経過を、この場合は手段・方法を(「徒歩(かち)ゆ詣でけり」)、表現する助詞。「くみゆしひら(組ゆ為平)→くむしら」は、組み合わせ、配合により(組みゆ)、何かを成し遂げること(為(し))が、平安(困難無く容易:ひら(平))であること。「(その地は)衣食(きものくらひもの)の源(みなもと)は二儀(あめつち)の隩區(くむしら)なり」(『日本書紀』天智天皇元年十二月:(その地は)自然条件の組み合わせが良く衣料・食べ物どちらも容易に手に入る。「隩(アウ)」は中国の書に「隈也」「隱也」「藏也」などともありますが、『集韻』に「本作墺」とあり、「墺」は『説文』に「四方土可居也(四方、人が住める)」とあるような字。ようするに、漢字表現は、人が住むによい地、ということでしょう。その字を、「あめつちのくむしら」、(衣食に関しても)自然条件の良い地、と表現することに用いた)。

この語は一般に、「くむ」に「くま(隈)」が連想されたりもし、奥地、や、隠地、と解されています。

「隩 ……久牟志良」(『新撰字鏡』)。