3月31日、ノアの後楽園ホール大会に出向いた。
一番の目的は、小橋建太に会うため。
当日の第5試合終了後、小橋がリングに上がり、
本人の口から引退試合(5・11日本武道館)
の対戦カードを発表するというからだ。
リングに上がった小橋は、
選手ひとりひとりの名前をあげた。
対戦相手は小橋の遺伝子を継ぐ男たち…
つまり小橋の付人を歴代務めてきた
金丸義信、潮崎豪、KENTA、マイバッハ谷口の4選手。
パートナーはライバルであり同志でもある
武藤敬司、佐々木健介、秋山準の3選手。
秋山戦では2004年にベストバウトを獲得し、
健介戦は翌2005年のベストバウトを受賞、
また武藤とはタッグを組んで2011年のベストバウトに輝いている。
「自分も悩んだ末に決めました」
そう小橋は言った。
小橋自身が決めたカードなのだから、
これがベスト!
異議なしである。
5・11まで、残り1カ月半を切った現在の心境、
コンデションに関して、小橋はこう語る。
「あと41日しかないですけどね。
本当に時間が過ぎるのは早い。
楽しみというのはないです。
もうちょっと時間がゆっくり過ぎてくれればいいかなと思うぐらいの気持ち。
こんなに早く時が進むということは、これまでなかったですね」
このセリフだけで充分かもしれない。
これ以上、なにかを聞き出そうとするのは野暮というもの。
だけど、私にはどうしても聞きたいことがあった。
2007年12月2日、腎臓がんを克服し、日本武道館に帰ってきた小橋。
546日ぶりの復帰戦(三沢&秋山vs小橋&高山)に挑み、
精根尽き果てるまで、目いっぱいの試合を見せてくれた。
試合後、日本テレビのアナウンサーがこう問いかけた。
「小橋選手にとってプロレスとは?」
「わかりません。
オレが聞きたいです。
なんだろう?
答えがわからないからリングに帰ってきたんです。
わからないからリングに立つし、
プロレスをやめるまでわからないと思います。
だからリングに立つんでしょうね」
小橋の返答を聞いて、背中に電流が走った。
それが、1年と6カ月の空白の答えだった。
決して饒舌なわけではないし、表現力に長けたタイプでもない。
それなのに、小橋の口から出た「わからない」は本当に重く響いてきた。
あのセリフが、今も私の耳底にハッキリと残っている。
だから、小橋に問いかけてみた。
「腎臓がんを克服してリングに帰ってきたときに、
『プロレスには答えが見つからないから戻って来た』と言いましたよね?
その答えを見つけるために最後まで闘うんですか?」
「そうですね。
でも見つからないと思います。
現役のうちは見つからなかったですけど、
やめたあとも追求していくと思いますよ。
自分はプロレスが好きなんで…。
やめたあとも『プロレスとはなんだ?』というのを追究していくと思います。
ただ、どこまで行って、どうしたら答えが見つかるのかがわからないです。
プロレスというのはそれだけ奥が深いし、
そんな簡単に答えが見つかるものではないですから」
「ある意味、余計なことを考えないで、
出たとこ勝負という感覚もありますか?」
「やっぱりいつも自分の精神としては、
全力で一生懸命リングに立つというのがあって。
そのためにも、いいコンディションを作って
リングに上がりたいと思います」
小橋はプロレスラーそのものであって、
永遠に旅人なのだ。
プロレスに答えが見つからない。
だから、引退してもそれを探し続けるという。
いや、いま5・11まで残された短い時間の中でも、
彼はその答えを見つけようともがいているのだ。
5・11のリングで答えを見つけるために、
必死にもがき、必死に自分を磨いているのだ。
小橋建太の旅はまだまだ終わらない――。
◎5月11日(土) 東京・日本武道館
■小橋建太引退記念試合
佐々木健介
秋山準
武藤敬司
小橋建太
vs
金丸義信
マイバッハ谷口
潮崎豪
KENTA