幻想の湖面に落ちるひとしずくの音
ベートーヴェンの「月光」
ルドルフ・ゼルキンが弾く「月光」の第一楽章は、
音の粒ひとつひとつに宇宙の息吹が宿っているようで
ピアノの鍵盤からこぼれる音は、
淡い月の光が湖面に映り込むかのように、
静かでありながら深く広がっていきます。
同じ音符であっても、
ゼルキンの指先から生まれる響きは毎回異なり、
それは水面に広がる波紋が二度と同じ形を描かないのと同じです。
時にその音は、霧のように柔らかく漂い、
時に夜空を切り裂く流星のように鋭く、
聴く者の胸の奥深くへ降り注ぎます。
彼の奏でる音は、ベートーヴェン自身が傍らに立ち、
ピアノを通して魂を語りかけているかのようで、
聴く人をひとつの神秘的な夢幻の世界へと導いてくれるのです。
ゼルキンの演奏に耳を傾けていると、
「音楽とは楽譜に書かれた記号ではなく、
ひとつひとつの響きの中に宿る生命そのものなのだ」
と思わされます。
月光の下に佇み、見えない風に心を撫でられるような、
そんな幻想的なひとときが広がっていきます。
☆ ピアノ:ルドルフ・ゼルキン「ベートーベン月光」第一楽章
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