昨日、日本将棋連盟の通常総会が開催され、以前から大論争となっていた「プロ棋士資格の新ルール案」について、一つの結論が出ました。
結果は「否決」。
私はこの結果を見て、将棋界が「プロとしてのプライドと公平性」を守り抜いた、極めて冷静で妥当な判断を下したと感じています。
あらためて、これまでのルールと今回の新ルール案を整理してみます。
【従来のルール】
-
プロ棋士を相手に公式戦で「勝率6割以上(10戦以上)」を達成した者は、プロ編入試験の受験資格を得る。
-
試験官(新四段のプロ棋士5人)と対戦し、3勝すればプロ棋士(四段)になれる。
これに対し、今回提案されていた【新ルール案】は、 「上記の受験資格(1)を3回獲得すれば、編入試験を免除して棋士資格を与える」 というものでした。
ネット上では、この新ルール案に対して多くの反対意見が噴出していました。
「共通テストの足切りを3回クリアしたら、2次試験を免除して合格にするようなものだ。これではプロとしての実力の担保があるとは到底思えない」と。
まったくその通りだと思います。
では、なぜ連盟はこのような新ルールをあえてねじ込もうとしたのでしょうか。
実はこのルール、すでに2回受験資格をクリアしながらも、いずれも編入試験で敗退している福間香奈女流五冠を念頭に置いたものと言われており、実質的な「女性優遇施策」の側面が強かったのです。
一般のアマチュア棋士は、そもそもプロ棋士と公式戦で対戦するチャンス自体が非常に限られているため、受験資格(10戦で6勝)を得ること自体が至難の業です。
一方で、女流棋士の上位陣は公式戦でのプロとの対戦機会が圧倒的に多く、受験資格を得るチャンスがはるかに高いのが現状です。
そのため、この新ルールの恩恵を男性のアマチュアが受ける可能性は、限りなくゼロに近いと言われていました。
元奨励会三段である福間(里見)女流五冠の実力は、下位のプロ棋士(高齢なプロ棋士など)を凌駕しています。
対戦の巡り合わせが良ければ、通算6勝4敗(勝率6割)を達成することはそこまで難しくありません。
近年の「社会的な女性優遇の風潮」は将棋界にも強く押し寄せており、「史上初の女性棋士誕生」を連盟としても後押ししたいという思惑が見え隠れしていました。
実際、昨年(2025年)の総会では、女流タイトル「白玲」をこれまでに通算5期獲得して「クイーン白玲」となった者に、試験なしでプロ(フリークラス)編入資格を与えるという規定が賛成多数で可決されています。
しかし、これは女流棋戦だけの成績を対象としたものです。
極端に言えば、「プロ棋士に1勝もしていなくてもプロになれる」ルートが開かれたことになります。
この決定には、あの藤井聡太竜王・名人からも「(編入にあたって)棋力の担保はあるのか?」という極めて真っ当な疑問が呈され、大きな話題となりました。
今回の新ルール案は、昨年の「クイーン白玲規定」に比べれば、「男性プロ相手に何度も勝率6割を残す」必要があるため、ハードル自体は高く設定されていました。
「昨年のガバガバなルールが通ったのだから、それより厳しい今回の案も可決されるだろう」という見方が強かったのも事実です。
にもかかわらず、今回の総会で「否決」というブレーキがかかった。
私は、その背景に、今年行われた福間女流五冠のプロ編入試験の結果(3連敗)があったと考えます。
福間さんは1回目の編入試験でも3連敗を喫しており、試験の舞台では通算6連敗という結果になっています。
もし、今回の新ルールが適用され、「試験免除」でプロ棋士になっていたとしたら、周囲からはどうしても「棋力の担保がないプロ」という目で見られてしまったことでしょう。
それは本人にとっても決して本意ではないはずです。
「女性活躍」や「多様性」という大義名分を推進するにしても、プロの世界における最低限の「実力の担保(公平性)」だけは絶対に譲れない――。
棋士の先生方が、目先の風潮に流されず、極めて冷静な結論を下したのだと思います。
そして、この「立ち止まって考える」という流れは、将棋界だけでなく、様々な分野で始まりつつあるのではないでしょうか。
これまで「アファーマティブ・アクション(積極的格差是非策)」として、半ば盲目的に女性優遇を推進してきた日本社会ですが、ここにきて大きな「揺り戻し」が来ているような気がしてなりません。
無制限に下駄を履かせる時代は終焉を迎え、これからはあらゆる世界で、改めて「個人の実力の担保」がある程度厳格に求められる時代へと原点回帰していくのだろう。
そんなことを考えさせられた、興味深いニュースでした。


