最近、街でよく見かけるようになったウーバーイーツなどの配達員。その配達員は飲食店から顧客に食品を運送する業務を行う、いわば「出前代行サービス」である。この会社の特徴的な点は、その労働形態にある。
飲食店に例えば、ウーバーイーツでの配達を希望する客からの注文が入ると、依頼を受けたいとON状態にしている配達員の所持するスマートフォンなどの端末に注文が飛ぶ。その仕事を受けるかどうかは配達員の自由であり、注文を受けなければ別の配達員に注文が飛ぶ。引き受ければ、飲食店で商品を回収し、それを客に配達する。そして、一回の配達ごとに報酬が配達員の銀行口座に振り込まれる。このように単発の仕事をその場で受けて仕事の報酬をもらう労働形態をギグ・ワークと呼ぶ。これは企業側と労働者側、双方の需要から世界的に大きな広がりを見せている。
タイトな配達スケジュールと人員不足からクロネコヤマトをはじめとした従来の運送業者から業務の引き受けを拒否されたamazonは配達員をギグ・ワーカーに置き換え、一回の配達ごとに仕事を個人に直接依頼をすることで人件費を抑えながら配達を効率化し、既存の運送業者では解決できなかった苦境を打破した。現在では、運送業界大手のクロネコヤマトも宅配員をギグ・ワーカーに置き換えようとしている。
労働者にとっても、ギグ・ワークの自由な労働形態は魅力的である。自分の裁量で気軽に仕事を引き受け、あるいは拒否できるのは、突然空いた隙間時間にも仕事ができるので、大きなメリットである。フリーランスやアルバイトといった従来の自由を売りにしてきた労働形態も、ギグ・ワークほどのものではないだろう。
しかし、問題も大きい。現在、ギグ・ワークはいつ仕事が入らなくなっても収入を保障するものはどこにもない。このままギグ・ワーカーが労働者として認められなければ、一方的に報酬を引き下げられても、労働契約の引き下げとして訴えることもできない。また雇用保険も労災保険も適用されない。もちろん厚生年金も健康保険にも入れない。企業側の目論見は、やはり労働者の福祉コスト削減と雇用責任の放棄である。そして一方的な労働者へのリスク移転である。
ギグ・ワークという労働形態は今後とも広がるに違いない。それは同時にフリーターから派遣社員、業務請負と雇用形態が変遷したときと同じように、労働者の権利を確実に削られてきたことと地続きである。当初は、フリーターも派遣も新しく自由な働き方として賞賛されもてはやされた。そして今、従来の雇用労働者でも自営業者でもない、第三の働き方として登場したギグ・ワーク、私たち労働組合は、労働組合の立場、経験から、労働者としてのギグ・ワーカーの権利を獲得するために立ち上がる必要がある。