最近、フードデリバリーサービス企業ウーバーイーツ労働者の集まりによく参加するようになった。職場の同僚と呼べる人がいないウーバーイーツでは、こういったグループを自発的につくらないと仕事について話し合う場がない。


 そこで話し合われる内容は、兼業している電子マネー会社で雇用関係のない飛び込み営業やインターネットのサイト勧誘事業、中にはマルチの勧誘も……
 有名な起業セミナーの出身者などもいて、そこでは、どのようにして起業で成功するかの話題が中心となっていた。皆が起業家志望である。
 この集まりだけではない。ウーバーイーツに関連するTwitterアカウントやyoutube動画を見ても、起業家志望者が多く、自分が事業主としての自覚を持つことを熱弁する言説が数多く並んでいる。

 もちろん、夢を追うこと自体は悪いことではない。
 しかし、ウーバーイーツは配達先も選べないし、会社相手に仕事内容の交渉もできない、どう考えても対等な取引関係ではなく、それ自体は雇用関係と同義するものである。
 しかし、ウーバーイーツ労働者のなかでも自らを事業主だと豪語する人の中には、その事業主としてのまやかしの階級意識の自覚を他人に強要し、そこに順応するように仕向ける者も多い。
 東京にあるウーバーイーツ労働組合のTwitterアカウントに対しても、そういった事業主としての階級的地位の自覚にあふれる人たちから発されたこの仕事を選んだお前の自己責任だという言葉や、「対立ではなく融和が事業のあるべき姿だ」といった立場的格差があるのを無視したお説教が並ぶ。

 ギグ・ワークの流行は、ちょうど非正規労働が「フリーター」という名で「自由な時間の使い方」と喧伝され、「夢を追う人のための働き方」と注目を集めていたこととよく似ている。しかし、フリーターは雇用関係を否定していない。そこからさらに悪化しているのが現状である。

 待遇に差をつけながらも雇用関係は存在していたフリーター、雇用関係があやふやになった派遣社員、その次に到来したのが雇用関係を完全に放棄し、事業主として扱う偽装請負やギグ・ワークである。
 現在では非正規雇用は常態化し、フリーターと非正規労働者は同義語となっている。ギグ・ワークの将来はどうなるだろうか。働くものにとって働きやすい、働きがいのあるものにするためにはあくまで労働者としての自覚による権利獲得が必要であると思われてならない。