「真夜中の電話」(後編)

中編はこちら。


とりあえず、私はママの家(つまり社長の家)を訪問し、Aさんのことを話し、
いくらか前借りしたいと頼みました。

もちろん、ママは彼女の家に行く事に反対し、
私が彼女に寮の電話番号を教えたことも不満だったようで、いつものごとく、
彼女はAさんのことをけなし、私に「止めときなさい」と繰り返しました。

しかし、なぜだか社長は「行って来い」と言うので、最後にはママが折れて、
私はとりあえず一万円前借りしました。
この時にはまだ銀行の口座にはお金が入ってましたが、
日曜日の早朝だったので仕方がなかったのです。

今思えば、従業員(ニューハーフ)に前借りをさせて、
お店を辞め難いようにするのが水商売の経営手法でもあったわけですが、
当時の私には正直「一万円くらい」なんて気持ちがありました。
それにAさんはもちろん、「お金は一切かけさせない」と言ったので、
使うことも無いけれど一応持っておこう、と言うくらいのお金だったのです。

寮の自分の部屋に戻った私は一時間ほど眠り、
それからタクシーに乗って出かけました。

基本的にうちのお店のママや社長は、
私が「外の世界」を知ることも非常に嫌がっていましたので、
私はまるで来た事の無い辺りに不安を感じながら、
Aさんとの待ち合わせ場所を目指しました。

やがて道路に立っているAさんを見つけ、私はタクシーを降りました。
その途端、彼女は私を思い切り抱き締めて、
ありがとう」とかなんとか言ったようでした。
彼女は本当にうれしそうな笑顔を見せていました。

しかし、彼女は結局タクシー代を払ってくれることもなく、
私は「あれ?」と思ってしまいました。
昼間とは言え、都会のタクシーですから、それ相応の金額だったのですが、
私はなんとなくそのことを言い出せませんでした。

笑顔を見せた彼女は私の腕を取り、
とりあえず彼女の家であるマンションの一室に向かいました。
その途中、彼女は道路の端から端までふらつきながら歩き、
その様子はママの言った「中毒」という言葉を思い出させました。

その部屋は割りときれいに整頓されたワンルームで、
思っていたよりAさんはつつましく暮らしていることを想像させました。
そしてその理由は、机の上にあった写真立ての中身でいくらか推測できました。

そこには小さな赤ん坊を抱くAさんと、旦那さんらしい若い男性が写っていました。

彼女はその写真に目を止めた私に気づき、いくらか説明してくれたので、
もちろん、全部ではありませんでしたが、
私は彼女の寂しさの原因を知ることになりました。

そして更に、私がふと床に転がった一冊の教科書を見つけると、
彼女はそれを恥ずかしそうに隠しながら、自分の将来のを教えてくれました。
それは年齢は少し遅いものの、決して不可能な夢ではありませんでした。

それから私たちはいろいろなお話をしました。
私の悩み、彼女の悩み、本当にいろんなことを打ち明けました。

そしてふと彼女は立ち上がり窓のカーテンを閉めて、私の前に座り直しました。

ちょっとごめんね
そう言って彼女は、私の服の中に手を入れて、私の胸を触りました。
もちろん、私はびっくりしましたが、それは本当に軽く触れるくらいの感じだったので、
嫌な気持ちはしませんでした。

んじゃ、私のも触ってごらん
次に彼女はごそごそと服の中でブラジャーを外したようで、私の手を取り、
自分の胸を触らせました。

ね?えんじぇるちゃんの方が大きいでしょ?
もっと女の子として自信を持っても良いと思うよ?

うん
私は何だか夢見心地で、いえ、
私のことをそんな風に言ってくれたことがうれしくてたまりませんでした。

さらに彼女は、
唇が荒れてなかったら、キスの味も教えて上げられたんだけど
と笑いました。

そう、その頃の私は、まだファーストキスすらしたことなかったのです。


気付けば時間はもうお昼になっていたので、
私たちは近くのファーストフード店でハンバーガーを買い、
その出来上がるまで近くを散歩しました。

そして一軒のCDショップに入り、何気なく見て回っていると、
彼女がある映画で使われていた曲を知らないかと聞いてきました。

それはちょうど数日前に廉価版で再発されたと言うことを私も知り、
その時に私自身も「あ、この曲ってあの人の曲だったんだ」と思った歌だったので、
私はそれを探してあげて、せっかくなので彼女にプレゼントしてあげました。

彼女はとても喜んでくれましたが、
相変わらず帰りは道路の端から端までふらつきながら歩くので、
私は少し恥ずかしい思いをしました。

ハンバーガーを受け取って部屋に戻り、私たちはお昼を食べ、
それからまたしばらくおしゃべりをして、私は彼女の部屋をお暇しました。

彼女は「お友達なんだからいつでも遊びにおいで
なんて言ってくれたので、
私はこちらに来てから初めてのほぼ同世代のお友達ができたと、
とても喜びました。

しかし、、、もちろんそのままハッピーになるような人生は、
決して送らせてもらえるわけのない私でした。
 
 (おしまい:その後はご想像にお任せします(^^;)

マイク・オールドフィールド
チューブラー・ベルズ
↑あの時、私が彼女にプレゼントしたCD。
某映画のテーマソング。

。。。。。

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