大島義則「憲法の地図」 書評 | 「試験勉強」と「法学研究」の対抗を読む 

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H25年度予備試験に合格し、H26司法試験に合格しました。
法律、予備試験、司法試験のこととか書いてます。
辰巳法律研究所合格者講義
「要するにこう書けば合格。
趣旨・ヒアリングのエッセンス抽出講座」
担当してます。


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「人権総論(審査基準論や三段階審査、適用違憲論)の視点から司法試験答案の書き方を解説する書籍は多々見受けられます。しかし、人権の各条項に着目して司法試験の答案の書き方を解説する書籍はそこまでありません。」


これは、拙著「読み解く合格思考憲法」はしがき部分に記載した文章である。

もはやこのはしがきは改訂すべきであろう。


大島義則「憲法の地図」の出版によって、私が有していたこの問題意識は解消されてしまったからである。



「憲法の地図」は極めて特殊な書籍である。


第一に憲法の本なのに審査基準論や三段階審査論などの合憲性判定基準に関する総論的記述が存在しない。憲法を学びたい学生としては最も気になる部分である(ここが最も気になるというのは悪い傾向なのだが)が一切言及がない。ここには総論的に合憲性判定基準を学んだところで憲法訴訟に直接は役に立たないし、ましては司法試験憲法も十分に解くことができないことをあえて筆者は強調したかったのではないか。



第二に、では何が記載されているのかというと憲法の人権各論部分の理論構造や判例構造に関してである。
芦部憲法等他の憲法の基本書に関してももちろん憲法の人権各論条項の解説はなされている。しかし、どの書籍も憲法の人権各論条項の趣旨、規定の歴史的背景を述べ、判例を概観、もしくは判例を批判して終わり、という書籍が多かったように思われる。一方で、本書では、条文の文言解釈のところで最低限理論的背景は論じるものの、本丸は条文の文言及び現在まで存在している最高裁判例を元にモザイクアプローチ的に各人権条項から導かれる保護範囲を明らかにしていく点にあり、そこに新規性を見いだせる。そして、実務家としては条文・判例が実務に当たる中で最重要の原典であるわけだから、条文・判例に即して憲法上の権利の内実を明らかにしていくこのコンセプトはまさに実務家向けひいては実務家となるべく試験勉強に日々奮闘している学生にnarrowly tailoredな書籍と評価しても過言ではないであろう。
実務家は常の条文を思考の起点にするわけであるから、条文を起点にして体系を整理するという思考を取るのは当然ではある。しかし、不思議なことに憲法では条文はひとまずおいて違憲審査基準論や三段階審査論といった大上段の議論から演繹的に体系化を試みようとしてきたきらいがある。本書は憲法も条文から素直に解釈論を展開し、条文の中に審査基準論等従来グランドセオリーとして語られてきたことをギミックの一つにして解釈論を繰り広げようとする試みが見受けられ筆者の実務家としての矜持・強い意思が読み取れる。


第三に、本文と注の使い分けが絶妙な点があげられる。
本文では各人権条項ごとに種々存在する最高裁判例から読み取れる保護範囲、制約、合憲性判定基準はどういったものなのか、最低限理屈が通る程度の解説にとどめてある。これは最低限の知識を得たい、ないし整理したい人にとってはとても助かる。特に試験直前期の受験生は時間がない。時間がない受験生が憲法人権条項の最重要判例を概観することができる書籍はなかなか存在しないが、本書がまさにその役割を担っていくのではなかろうか(あと拙著)。
そして、注。最高裁判例調査官解説の中でも特に議論がまとまっていて、かつ、歴史的に読む価値のある極めて重要な文献を主として注に掲げられている。本文を読んでもっと理解を深めたいという読者はすぐに注に飛んで引用されている調査官解説を読めば確実に更に理解を深めることができよう。
そういった意味で、受験直前期の人、受験までまだ時間がある人とで相反するニーズに対しても本文と注を手がかりに、一冊の書籍で見事に役割分担がなされ、両者のニーズを的確に捉えているという妙味がある。


第四に、それぞれの人権条項ごとに○○条の地図と題してマインドマップを用いて憲法の人権条項の論点の体系まるでパンデクテン方式かのように整理され、可視化されている。憲法の勉強をしていて自分がいったい何を学んでいるのか立ち位置がわからなくなったときに、この地図を見れば自分が今どこに立っているのかすぐに確認できるだろう。


まとめ

以上本書の特徴的な点をあげたが、条文及び判例を手がかりにしてモザイクアプローチ的に人権条項・判例の体系化がなされており、本書の読解を通じて筆者による人権条項・判例の体系化を追体験し頭の中に自分なりの憲法の地図を描くことができれば、もう憲法訴訟(さすがに言い過ぎ)も司法試験憲法も怖いものなしといえるであろう。

※ちなみに、この追体験を自分なりに憲法の地図を描いてみせたのが拙著「読み解く合格思考憲法」であったりするので、ひとつの地図の描き方の参考例として手にとっていただけたら幸いである。


なお、筆者である大島先生とは懇意にしていただいており、上記評価はその人的関係の特殊性から純粋に客観的評価とはなりがたいことをお断りしておく。

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