玄米
玄米(げんまい)とは、稲の果実である籾(もみ)から籾殻(もみがら)を除去した状態で、また精白されていない状態の米である。
自然乾燥の場合、籾殻がなくとも、種子としての機能を失っておらず、播種(はしゅ)すれば芽が出るが、市販のほとんどの玄米は加熱乾燥されているので、死んでいて発芽しない可能性がある。
精白とは、玄米から糠(ぬか)を取り除き白米にすることである。玄米は、白米よりビタミン・ミネラル・食物繊維を豊富に含むため、健康食品として用いられている。
玄米の概要
玄米の「玄」は、「くらい」または「色が濃い」という意味で、白米に対して色のついたお米という意味である。
ベージュ色または淡褐色である。
普通の炊飯器で炊くと、消化が悪く、食感も悪くてぼそぼそになる。
日本では、玄米は精白によって白米と米糠に分けてそれぞれ販売され、米穀店の店頭に玄米が置かれることはまれだった。
第二次世界大戦前から健康食として玄米食の支持者がいたが、近年は玄米がふっくらと炊ける圧力鍋が普及したことで、味も好まれるようになってきた。
現在では、玄米が選べる外食店もあり、健康のためでなく味で玄米食をしている人も多い。
玄米の炊飯に対応した炊飯器も市販されている。
農薬や重金属が糠の部分に残留する可能性が白米よりも高いが、残留農薬検査は玄米を対象として行われており、また農薬の残留は、通常定められた使用方法を遵守する限り問題とされない。
玄米段階で重金属(たとえばカドミウムに)残留が確認された米は工業用糊の原料に売却さえるなど、重金属は糠にも白米部分に同程度に残留する。
また、米糠の繊維はダイオキシン類の排泄作用が強いため、カネミ油症事件でも有効な治療法の一つとして考えられている。
玄米の栄養
糠の部分にキレート作用が強いフィチン酸を多く含む。フィチン酸はミネラルと結合してフィチン酸塩になる。
研究ではミネラルが著しく少ない食事においてフィチン酸が大量の場合にミネラルの吸収を阻害するが、通常の食事では問題がない。
この作用は必須ミネラルの摂取量が著しく低い開発途上国の子供のような人々には好ましくない。また、玄米にはビタミンB1が白米よりも多く含まれている。
現代のような飽食の時代にあっては、肉類を始めとして副食をふんだんに摂取するので問題がないが、大正時代以降、昭和初期にかけて脚気が国民病として流行したのは、十分な副食を摂らずに白米を常食したことに原因があったとされる。
明治時代には、石塚左玄によって提唱された玄米菜食による食養が実践され、食養会という食養実践団体ができた。
これはマクロビオティックとして継承され欧米でも普及し、アメリカでは医療の歴史として国営のスミソニアン博物館に収録されることとなった。
スミソニアン博物館には玄米も資料として収録されている。日本綜合医学会にも玄米菜食による食事療法が受け継がれている。
昭和初期以降、医師の二木謙三が玄米を完全食と呼び、健康のために玄米食を普及することに努めた。
1943年(昭和18年)ごろには大日本玄米連盟があり、1万人以上が加盟していた。
1942年(昭和17年)以降、大政翼賛会で国民を玄米に復帰させるとして議題となり、時の首相であった東條英機が玄米を常食していることも伝わり世論は玄米に傾いたが、川島四郎ら軍の栄養学者は、玄米の消化が白米に劣ること、炊飯に要する燃料や調理時間が増加することを指摘して、玄米食に強く反対した。伝染病研究所の研究者らが玄米食について研究し12月の「医界週報」での報告では、玄米食によって小食になったうえ下痢も減り仕事の耐久力が上がり、医療費は1/17に減ったが、炊飯に要する燃料は増加したと伝えたので、栄養学者も認めざるをえなくなった。 1945年(昭和20年)の「食生活指針」で、食べることを推奨された。
東洋医学発祥の地とされる中国では、玄米を特に有用視しておらず、素材として玄米を用いた中華料理ないし薬膳料理は一般的ではない。
これは東洋医学の理論が、大陸性の気候風土と漢民族の体質を前提としているため、東洋医学の理論と日本人の体質とが必ずしも合致しない一例とも言える。
1990年前後から、全粒穀物が健康に貢献するという科学的な根拠が蓄積されてきたため、各国の食生活指針として推奨されるようになった。
玄米の利用
玄米を炊いたり粥にしたりすると、胚乳は膨らみ、糠層は膨らまないので破れる。
圧力釜で炊けば、糠層も消化の良い分子になり、食感も良く、日本人好みの粘りがあるように炊ける。
といっても、白米に比べれば食物繊維が多いため消化が悪く、胃腸が弱っている場合は消化不良になることもある。
圧力釜が出現する前と同じく一晩水に浸けて吸水させた後、普通の炊飯器で炊くことも可能である。
トウモロコシの穀粒の皮と同様に糠層の消化が悪く、吸水時間が短ければ食感も悪くぼそぼそになるが、12時間以上浸けて、分量の1.5倍ぐらいの水で炊くと普通に炊けるようになる。 発芽玄米であれば、玄米炊きに対応していない炊飯器でもおいしく炊ける。
農産物検査法による公示の農産物規格規程で、籾の混入が、玄米は一等で0.3%以下と定められている。
茶碗一杯3000粒として9粒まで許容されている。白米は、0.0%と定められている(つまり最大で0.04%であり、茶碗一杯3000粒として1.2粒)。
この規格は、白米の原料としてのものといえ、玄米食用としての公的規格や業界団体の規格は無いので、玄米食用として販売されているもの以外は、籾の混入が多い。 標準の30kg袋入りは、玄米食用と断りのない限り、白米の原料である。
少量で販売されているものは、玄米食用と家庭用精米機による自宅精米用がある。発芽玄米は玄米食用として販売される。
レトルトの粥や、シリアル食品などにも加工される。発芽玄米では、白米と同様、無菌パックのご飯も市販されている。
白米との比較
圧力釜で炊けば栄養成分も味の成分も多く味わいが豊かで、食感も糠層がプチプチとした歯ざわりを持ち、白米の飯には無いおいしさがある。
砂糖における黒砂糖と上白糖の違いと同様である。
米は、保存性から玄米か籾で貯蔵される。日本では玄米で貯蔵する。
精白後の白米は、皮をはがれた状態であり、日数の経過と共に酸化等により劣化していくので、少しずつ購入する方が新鮮である。
これに対し、発芽玄米でない普通の玄米は時間経過に対する劣化が少ない。
玄米も白米も、低温貯蔵がより望ましい。害虫を防ぐには密閉容器が良い。
白米を好む虫と玄米を好む虫は異なる。
玄米は、白米より農薬が多く残っている可能性があるため、減農薬・無農薬栽培のものが奨められる場合がある。
玄米に発生する害虫
一般に玄米は、白米より大きな単位(30kgの紙袋が多い)で販売されているため、保存中に黒っぽい水玉模様のついた蛾やそのいもむしがわいて大騒ぎをすることがある。
これはノシメマダラメイガという昆虫で、気持ちは良くないが、とくに有害でもないので、精米して食べればよい。
ただ、東京以西の暖地では、梅雨時になれば必ず発生すると言ってもいいほどなので、時々天気の良い日に米びつと中身を陰干ししたり、米びつの中にたかのつめ(赤唐辛子の乾燥品)を入れておくと、発生を予防することができる。