普段は話さない、挨拶さえしない、目だって合わせてくれない。
男の人には、媚びた目をする同僚から合コンに誘われた。
女の子は私と一緒にいると普段の何倍も可愛く見えるらしい。
誰かがトイレでそう言っているのを聞いたことがある。
だから週末になると、いつもは関わりのない女の子から声をかけられる。
ブスで気も使えない、面白いことも言えない私のような子が混じっていて、相手の男の子に悪いって思う。
でも、誘いを断る勇気がないから、気持ちに重い蓋を乗せて閉じ込める。
空気のような存在になればいい。
心を空にして、相手に不快な印象を与えないことだけを心掛けて、数時間を過ごす。
そうすればまた翌日には静かな日常が戻ってくる。
「相手はね、芸人さんなんだよ。ダンガンシュートっていうコンビと、もう1人はピンの人。そのピンの人ね、今ネタ番組に出だしてて、ブレイクしそうなの。しかもめっちゃカッコいいんだよね。私狙ってるんだ」
「うん」
「だから、よろしくね」
「うん」
同僚は私の顔なんて一瞬も見ない。
小さな鏡に映る自分の顔を、いろんな角度から見つめながら言った。
定時に仕事を終え、もう一人同僚が加わって3人でお店に向かった。
2人とも仕事が終わってから着替えたみたい。
一人は花柄のミニワンピ。もう一人はパンツ姿のセットアップで、トップスは背中の部分がざっくりと開いていた。
2人ともグロスをたっぷり塗って、唇ぷるぷる。
私だけ仕事のときのまま。
白シャツに紺のカーディガン、ひざが隠れた黒のスカート。
唇もカサカサ。
夜の街に出ると、私だけが別世界から迷い込んできた人みたいになった。
都会の夜は私にはまぶしすぎる