今日はようやく金曜日。

今週は火曜日午前中に来週の会議のための準備を走り回ってやり、午後フランスのニースに飛行機で飛び、水曜日と木曜日に行う大学医学部での小児環境保健についての教育プログラムの準備をし、夜は講師が集まってホテルの会議室でおつまみを食べながら講義と翌週のジュネーブでの会議の内容について議論に議論を重ねました。欧米の方たちは皆さん主張するので、会議の主催者としてはとんでもない方向に持っていかれないように軌道修正をしながら話を進めて行かないといけません。

「英語が母国語だったらなあ」と思うのはこんな時。みんなが興奮しだして早口になると議論についていけないし、軌道修正しようとしても適切な言葉が出てこなかったりするので頭の中が真っ白、とはこれか、というくらい真空状態になってしまいます。

とにかく水、木と大学で講義をしてまあまあ成功の裡に終わり、金曜日の今日は午前中ホテルの部屋で背中が固まるかと思うほどずーっと仕事をしていました。

ジュネーブでの会議は内容を論文にして出そうと思っているので、英語のネイティブスピーカーの女性を記録係として雇用するのですが、今朝、その方から「契約書はいつサインするのかしら」とメールが来たのです。

「え?月曜日の会議に来てもらうのに、まだ契約書にサインしていない?」

あわててジュネーブの秘書に問い合わせると、「これから部内の2人に回して部長に回してそれからクアラルンプールの人事部に回してサインをもらわないといけないのでいつ契約書ができるかわからない」というのです。ちょっとちょっとちょっとっ!!ちーがーうーだーろー!来週月曜日の朝に仕事が始まる人の契約書がそんな状態でどうするの?!ねえ、どうするつもり!と聞きたかったのですが、そんなことをじっくり聞いている暇はないので、大至急その「部内の2人」にメールで「いったい今契約書はどこにあるの?部長のサインをどうしても今日中にもらいたいのだけど」と問い合わせました。

心臓がどきどきしてめまいがしてきます。実はそのライターの方はアメリカ人。アメリカ人は契約書にサインするまでは絶対に仕事をしない、と聞いているので、もし契約書が月曜日の朝までに用意できなければ、仕事を拒否される可能性があります。

さて困った。部長のサインは可能でも、その後クアラルンプールでのサインをもらうのに一体何日かかるやら。ライターに仕事を拒否された時どうするかも考えておかねばなりません。

すると、私が「この部の希望の光」と心から頼りにしている秘書さんからメールが来ました。「ウサギ、部長のサインを必ずランチの前にもらってあなたの秘書に回すから」とのこと。あー、やっぱりこの人は「マダム・希望」だわ。さて、でも12時にサインをもらえたとしてもクアラルンプールはもう5時を過ぎています。もうサインはもらえないでしょう。すると大至急送ってジュネーブ時間の朝までに送ってもらえていれば、会議の開始に間に合う。でも今までの経験でクアラルンプールの職員もしょっちゅう休みを取り、メールを送ると「私はお休み中だから、緊急のことは○○ちゃんに依頼してね!」という自動返信が来て、じゃあ「○○ちゃん」にお願いしよう、とメールを送ると同じく「私は今お休み中です!」というメールが来て今度は誰にも依頼できない、ということがあるのです。いやはや、いったいどうなっているのやら。

また、会議では、これまでに私の所属している部で出しているポスターをカラーできれいに印刷して壁に並べるので職場の印刷部に2週間前にオーダーを出していたのです。これがまた遅い!ただではお願いできないので、価格の見積もりを取ろうとしても全然返事が来ない。印刷してほしい図のデータを送り、印刷できるかを聞いても返事が来ない。いらいらしながら待っていたのですが、今日秘書から連絡があったのは、「何を印刷していいかわからないから印刷してないんだって」とのこと。おいおいおいっ!ちーがーうーだーろー!そんなの2週間前にまとめて送って「これを印刷してください。いくらでしょうか。」ってメールしていたのにずーっとほったらかしだったんでしょう?

もう目の前真っ暗です。午後2時15分の飛行機に乗るためホテルをタクシーで出て、空港のWiFiにつないでメールチェックしようとしてもなぜか全然つながらない。飛行機は格安航空会社だったので搭乗のため並んだのですが20分遅れ、ずーっと立ちっぱなし。ジュネーブ空港に到着し、タクシーを飛ばして職場に到着してセキュリティに並びました。その時点で午後4時15分。

入館バッジを2週間ごとに更新しないといけないのです。ところが…。「あなたの名前は登録されてません」。ええっ!ちーがーうーだーろー!そんなはずないだろー!ほら、私の敬愛するマダム・希望に聞いてよ!「ああ、マダム・希望のリクエスト?あったあった」ほら、あったでしょ?ところが…。「うーんコンピューターがエラー起したな。今日は何もできないから月曜日にまた来て」

え?

 「私のせいじゃないからね。コンピューターのエラーだから」

そんなー!だって私は大至急月曜日からの会議の準備をしないといけないから戻ってきたのに。「なんとかして!」「なんともならない」と押し問答していると、そこに日本人女性の同僚で私がひそかに「女優」と呼んでいる美しい人が来ました。なんでも落とし物をしたので届けに来たとか。「あらウサギさん、どうしたの?」「女優さん、かくかくしかじかで本当に私困っているの」「まあ、大変。とにかく今日は私と一緒に建物の中に入るか、一日だけの訪問バッジで入ったらどうですか?」と美しいお顔とお声で微笑みかけてくれました。この人がほほ笑むとお顔の周りにお花がパーッと咲くという幻が見えます。

アドバイスに従い、一日だけの訪問バッジで建物の中に入りました。「ウサギさん、大丈夫ですよ。あなたの部の人にとってあなたはとても大事な人なんだから、きっと誰かがなんとかしてくれますよ」と優しく励ましてくれました。ううっ今の私は優しい言葉に弱い。「うん、ありがとう」と言って自分のオフィスに走りました。

まだ仕事していたマダム・希望に「なんとかしてー!」と泣きつくと、マダム・希望は「ひどいわねー」と言いながらすぐ電話してくれて、セキュリティに事情を聴くと、なんとさっきの男性が、「あー、今コンピューター直ったから、今ならバッジ発行できるよ」とのこと。ほんとかーっ?もちろん、パスポートをひっつかんでセキュリティに走り、バッジをもらいましたよ。これで月曜日の会議当日に長々と並ばなくて済む!

 そうこうしている内に、時間は4時40分。急いで秘書の所に行って進捗状況を聞かなければ。すると、まさしくその秘書からメールが入りました。「うさぎ、私、もうオフィス出ちゃったから。また来週ね。週末はゆっくりしてね」って、ちーがーうーだーろー!まだ5時じゃないでしょう!なんで帰っちゃうの?

 でももう帰ってしまったものはしょうがない。ここでは「あきらめる」ということを覚えた私です。

 まだ5時までには時間がある。印刷部にメールを送り「大至急印刷してください。出来たらすぐに取に行くから」と督促しつつ、電話もしましたがずーっと誰も電話を取らない。もう帰ってしまったのかも。金曜日だから。皆さん金曜日は早めに帰るんですよねー。本当に困る。

 またもやマダム・希望にすがりつきます。「ねえ、印刷部ってどこにあるの?もう直接走って行ってドアを叩くわ」。「まー、ウサギ、もうきっと印刷部の人は帰ってしまっているわよ。それに私も実は印刷部がどこにあるか知らないのよね」えーっ!

 しかし、さすがはマダム・希望。「ウサギ、ちょっと隣の部の人に聞いてみましょうよ」と言って、隣の部長の秘書さんがまだ残っていたので事情を話して聞いてくれました。するとなんと、その秘書さん、「ああ、印刷部の人なら良く知っているからすぐ電話で直接聞いてみましょう」と言って、電話してくれました。なんと、今度はすぐに男性が出ました。「かくかくしかじかなんだけど、ポスターの印刷できてる?」と秘書さんは聞いてくれました。すると、「できてるよ」とのこと。ほんとかーっ!?隣の部長秘書さんは印刷部の場所も教えてくれました。マダム・希望といい、この秘書さんといい、ちゃんとした人は本当にちゃんとしていて、親切なんですよねー。

 エレベーターまで走り、きれいに印刷されたポスターをもらってオフィスに戻りました。いやはや、本当に疲れた。ご飯も食べずにこんなに走り回っているんだからちょっとは痩せるといいのになー。でも痩せないんだろうなー。

 今日は朝から何度も頭を打ちのめされるような目に遭いましたが、その都度、本当に親切な方たちに助けられる、という経験もしたジェットコースターのような一日でした。いやはや…。

私の人生みたいな一日だったなー。しみじみ。ウサギ