ジュネーブでの話です。


少し前ですが、ようやく車を買いました。私は43歳で免許をとり、プリウスしか運転したことがありません。とても不器用なのでプリウス、それも自分が買ったシリーズのプリウスしか運転する自信がありません。しかも、フランス、スイスは左ハンドル!本当に運転できるだろうか、と不安がいっぱいです。


これまでバスに乗るたび、交通標識を注意深く見てきたので、ほぼスイスとフランスの交通のシステムはわかります。レンタカーを借りたこともあるので、自分がここで運転するのも不可能ではないらしい、ということもわかりました。まずは自宅周辺から職場まで運転してみて、少しだけ自信もつきました。


しかし、プリウスはスイス、フランスではとても高価なのです。中古で探しましたが10万キロ走行のものがようやく1万ユーロ(約140万円)を切るくらいです。さらに、この辺りを少し走ってみてわかったのですが、ここでは旧市街など道が狭く、しかも路上駐車が多くて、狭いスペースにむりやり縦列駐車をしないといけません。

そんな芸当をするのに、私はとても不器用なのです(くどいですが)。これはやはりプリウスをあきらめて小型車を買うしかない、と思いました。


そこで、まずは職場から近いトヨタのディーラーさんへ。プリウスより小さい車、さらにもう一サイズ小さい車を試運転してみました。本当に運転しやすいと思いました。フランス、スイスではみなさんあまりオートマチック車を運転せず、マニュアル車が多いのです。また、ガソリンよりもディーゼル車が多いと思います。レンタルでフランスのディーゼル車(ルノーとシトロエン)を運転してみましたが、私にはとても運転しにくい車でした。


「やっぱり日本車だな!」と思った私は即決でプリウスより2段階小さな「ヤリス」という車を買うことにしました。日本では「ヴィッツ」という車にあたると思います。


さて支払いを、となり、書類に自分の名前、職場、自宅の住所などを記入していき、ふと「ところで、私はフランスに住んでいるんだけど、大丈夫ですよね?」と聞いてみました。すると、担当のディーラーさん、「えっ!フランス??フランスに住んでいるんですか?職場はスイスですよね?」

「はい。職場はジュネーブなんですが…。なんか問題ですか?」

「フランスに住所があると、スイスで車を購入したらフランスに車を『輸入する』ということになります。とても面倒なので、やめておいたほうがいいです」と言われました。

なるほどー。車を買ってわざわざ輸入しないといけないんですね・・・。


ものを知らない、というのは時間を無駄にする、ということですね。ディーラさんの時間も無駄にしてしまいました。


その後、改めてフランス側のトヨタさんに出直しました。ジュネーブ市街を南下し、ジュネーブとフランスの間の国境を越えてガイヤールという街に入ります。入ってすぐに、トヨタのディーラーさんがあります。


すでにスイスのトヨタで試運転をしていたので、ヤリスを注文しました。


車を注文してすぐ、車の保険会社から電話があったのですが、たどたどしい英語で難しい話をするので全く分からず、その後一方的に保険の申込書が送られてきましたが、すべてフランス語で書いてあるのでこれも全く分からず、途方に暮れてしまいました。


職場の日本人の同僚は「保険なんて、どうせ日本語でもわからないし、保険会社のいうとおりにサインすればいいんですよ」という人もいますし、「保険のことだから、ちゃんと内容を理解したほうがいい」という人もいます。本当に迷いましたが、やはりちゃんと理解したい、と思い、後者の日本人に相談して、スイス暮らしの長い、フランス語がほぼネイティブと同じくらい話せる、という日本人の同僚を紹介してもらいました。


カフェに来てもらい、コーヒーをごちそうさせていただいて保険の申込書を見てもらいました。しかし・・・。


「この申込書に書いてあるここの文書は、スイスのフランス語にはない表現ですね」とか「ここに『添付の資料をご覧ください』と書いてあるのに、添付されていませんね」とのことでした。


「なーーんてこったーい!」がっくり!


そうなんですよね、スイスの中でもジュネーブのあたりはフランス語を話すのですが、微妙にフランスのフランス語とは違っているらしいです。スイスの人は「まったく同じ」と言うんですけどね。


しかし、「添付書類をご覧ください」といいながら書類が添付されていない、といういい加減さはスイスにはあまりないと思います。一部のスイスの人はそう言います。「私たちはフランス人とは違う」と。「一緒にしないで」と。


とにかく、このままではサインできません。保険会社に「どのような事故でもすべてカバーできるような保険をお願いします」「私以外の誰かが運転した際もカバーできるようにしてください」などの項目を書いてメールを送りましたが、なしのつぶてでした。


今度はトヨタのディーラーさんにメールして事情を説明し、保険証券を全部英訳しなくてもいいから、数点を確認させてほしい、と伝えました。


すると、保険会社の女性から電話がありました。「私は英語を話すから、私から説明します」というのですが、うーん。たどたどしい・・・。


「あなたの誕生日は?」

「○○年○月○日です」

「まー!あなたって若いんですね?」

「は?いやー、若いですかねー?」

「あなたは私より若いですね」

「あのー、私あなたの年齢知りませんから・・・」

「で、○月、ということは・・・今月生まれた、ということですね?」

「そ、そうですね。今月誕生日でした」

「で、○日、というのは、数字の○、ですよね?」

「そうです、そうです。○、という数字です。(うううっなんか、すごく不安)」

「・・・うーん。あなたのパスポートの誕生日の載っているページをデータ化して送ってください」

「そうですね、そのほうがいいですね(こらっ!最初っからそうせい!)」


とまあ、もっとながーい会話で、ほとほと疲れたのですが、あまり長く書いても読んでいるほうが疲れると思うので省略。


結局日本の免許証の画像、ジュネーブの日本領事館で作成してもらった免許証の翻訳証明書、パスポートのコピーなどを送り、メールでやり取りして、なんとか自分が確認したかった項目を確認し、保険証券にサインをして、ようやく受け取る段取りをつけました。


ディーラーさんからは、7月18日(金)に車を取りに来てください、と言われました。「えっ!自宅に届けてくれないんですか?」

「(ディーラーさん、きょとーんとして)ええ、車を取りに来てください」


日本だと、車を買ったら指定したところに持ってきてくれるのではないかと思いますが、フランスでは取りにいかないといけません。しかしこれは、私のケースだけかもしれませんが。


とにかく、7月18日に車を取りに行く、という予定にして、それから指折り数えて7月18日を待ちました。


そして、7月11日(金)。職場に行くと、緊急メールが職場の全スタッフ宛に来ていました。


「車を利用している人に連絡です。本部の地下駐車場の天井に崩落の危険があります。現在駐車場は立ち入り禁止です。詳細と今後の対応は追ってお知らせします」というのです。


「ななな、なーんてこったーい!一週間後に車来るのにー」


そして翌週月曜日の7月14日、全スタッフ向けの会議が開かれました。地下駐車場の上部、地上部は遊歩道になっており、たくさんの桜の木が植わっています。桜の木は年々太く育ち、重くなっていました。また、遊歩道の周りは道路で、駅から職場までのバスが何台も停まることがあるのです。さらに、荷物を運ぶための大きなトラックが停まることもありました。それらの重量に駐車場の天井が耐えられなくなり、今にも崩落寸前になってしまった、ということでした。


そんなこと、前もってわからなかったのかなあ、と不思議に思いましたが、とにかく今は全面的に進入禁止になっている、とういことでした。気の毒なのは、現在駐車場に車を停めている人たちです。立ち入り禁止になってしまったので、取り出すこともできません。


地下駐車場が使用禁止になってしまったので、大変な駐車場不足に陥ってしまいました。地下駐車場は、駐車料金を払って場所を指定しますが、地上の駐車場は駐車料金を払わない代わりに、「自分の駐車場」というものはなく、場所取り合戦を毎朝しないといけません。


しかし、最近国連では人員整理を進めていることもあり、駐車場は余っている状態だったのです。ところが今回の崩落騒ぎで、突然駐車場合戦が過激になりました。


朝早ーくくれば駐車場をゲットできますが、出遅れたらもう駐車場はありません。私のように朝起きるのが苦手な人間に、そんな芸当ができるわけがありません。ぐるぐるぐるぐる、毎朝駐車場を探して時間を無駄にすることなどできません。


結局、18日に車を取りに行き、ようやく車通勤ができると思ったのに、相変わらずバス通勤をしています。


地下駐車場の天井は、夏の間に8週間をかけて補修する、というのですが、このあたりの人たちが夏に8週間も働くのかなあ、というと、私は甚だ疑問です。


フェルネーに二つあるパン屋さんの一つは、7月24日から8月20日くらいまで、ほぼ一か月バカンスに入る、とのことでお店のドアに「みなさん良いバカンスを!」というメッセージが書いてありました。


バカンスシーズンに駐車場の工事をする人を探すのはさぞ大変だろう、と思います。


いやはや・・・。車通勤を夢見ていたのに・・・私の人生ってこんなタイミングばっかりですね。ま、もう少し早く車をゲットしていたら、地下駐車場に意気揚々と駐車してしまい、今頃「せっかく車を買ったのに地下駐車場に閉じ込められたー!」とブログに書いていたかもしれません。


私ってラッキー!と思ったほうがいいですね。


ウサギ