「ジャム・バンド」と呼ばれるロックのサブジャンルがある。グレイトフル・デッドに代表されるスタイルで、即興を多く取り入れ、一つの楽曲を長く演奏することが特徴だ。メディアでの露出を目的として完璧にアレンジされたロックへのアンチテーゼでもある。グレイトフル・デッドは60年代にスタートしたバンドだが、同じカテゴリに分類されるフィッシュが90年代にブレイクし、ジャム・バンド・シーンが盛り上がった。このジャム・バンド・シーンにアプローチしたジャズ・ミュージシャンがメデスキ、マーティン・アンド・ウッド(MMW)である。名前のとおりトリオ編成のバンドで、ジョン・メデスキがオルガンを、ビリー・マーティンがドラムを、クリス・ウッドがベースを担当している。

 

 ジャズ・ピアニストとしてキャリアをスタートしたメデスキだが、すぐにエレクトリック・ピアノを取り入れるようになり、その後、ハモンド・オルガンをメインの楽器とするようになる。MMWのサウンドは、オルガンとヒップホップのビートが中心だ。この音楽を演奏する場として、クラブやジャム・バンド・シーンがあったのが良かった。MMWはジャズマニアではないファン層を築き、長く活動することができた。

 

 90年代にブレイクしたバンドで、当時もアルバムを聞いていたが、少し物足りなく感じていた。きっとライブで踊りながら聞けば気にならないのだろうが、数曲聞いていると、オルガンのサウンドに飽きてしまうのだ。このアルバムではギターのジョン・スコフィールド(ジョンスコ)が加わることで、サウンドも、即興演奏もより多彩になっている。

 

 ジョンスコは、80、90年代のジャズの立役者の一人で、パット・メセニー、ラリー・カールトン、リー・リトナーなどを人気を分け合ったギタリストだ。ジョン・メデスキよりも14歳年上となる。多くのジャズ・ギタリストと同様に、ジャズだけでなくブルースやロックにもルーツを持ち、セミ・アコースティックのギターを使い、音を少し歪ませた独特のサウンドで幅広い音楽を演奏した。2014年当時、62歳だったジョンスコの熟年のプレーがこのアルバムを面白くしている。

 

 暖かい日に友人の家で談笑しているような、リラックスした雰囲気のアルバムだ。「こんな感じで始めるのでいいかい?」というジョンスコの呼びかけから、気の利いたギターのカッティング・リフ(コードをミュートしながら弾くこと)が鳴らされ、アルバムがスタートする。ジョンスコの音は、年代物のワインのように枯れていて、それでいて瑞々しさもあり、滋養豊かだ。ロックのようにシンプルなコード転回の上で、オルガンやギターがリラックスしたソロをとる。ドラムとベースのリズム隊も、心地よいビートを生み出している。

 

「Louie Louie」をベースにした「Juicy Lucy」や、ドアーズの「Light My Fire」など、ちょっとしたリスナーへの目配せもある。特に「Light My Fire」の最後のギター・ソロは聞き応えがある。ジョンスコの技術と経験を持ってすれば、いくらでも盛り上げることができるはずだが、少し抑制を効かせて、ノスタルジックな演奏をしている。