YMO の全てのアルバムを改めて聴き直して、どのアルバムが一番好きか考えてみたら、結局、ファースト・アルバムだった。理由を列記してみる。

  • アナログ・シンセサイザーの音が良いから(日本版のミックスの方が好き)
  • コンセプトに忠実だから
  • 楽曲のバラエティが豊富だから
  • 人力による細かい工夫があるから
  • 「マッド・ピエロ」のイントロが好きだから
  • 演奏がファンキーだから

 YMO を聞いたことがない人に勧めるとしたら、最も YMO らしい「Solid State Survivor」を選ぶだろうし、YMO マニアと酒を飲んでいるときには「BGM」や「Technodelic」の話をするだろうし、「Technodon」もいまだに聴いている。だけど「Yellow Magic Orchestra」というアルバムは本当に特別だ。マインクラフトやレゴのように、限られた音で作られたパズルのような印象があるのだ。

 

 シンセサイザーの音が魅力的なのは、アコースティックの楽器とは違ってキーを押せば誰でも同じ音が出せるからだ。それも遠慮なしにビャーと出る。バイオリンやトランペットのように訓練する必要はない。肉体的な技術の習得が必要なければ、作品の差は純粋に思考の差になる。そんな幻想を抱かせるのがシンセサイザーやシーケンサーだ。

 

 でもこれは「幻想」である。音楽を作るのに必要な「音感」というのは楽器の習得時に育まれるからだ。楽器を演奏しない DJ だって、たくさんの音楽を聴き、たくさんの音楽をかけた経験がある。YMO にしても、クラシックの教育を受けた坂本龍一と、ポピュラー音楽を自分のフィルターで消化した細野晴臣がいたから生まれた音楽である。

 

 このアルバムでの作曲はとてもトラディショナルだ。これまで人間が演奏してきた音楽の一部をシーケンサーでの自動演奏にして、シンセサイザーの音をフィーチャーした音楽で、コンピュータ使用率は30%くらい(適当な印象)ではないだろうか。現代では、コンピュータ使用率が100%の曲なんてザラにあるのに、このアルバムの方が「機械っぽい」というのは面白い。デジタル化が進むとより自然界の模倣を細かく行えるようになって、区別がつきにくくなる。これは、まだドット絵の時代のアルバムなのだ。