アメリカで買ったこのアルバムの CD には「The Most Comfortable Music on Earth」と書かれている。「世界で最も心地よい音楽」という言う意味で、いとうせいこうが付けたニックネームだと思うが、彼ら自身が「地球一番快適音楽」を標榜していることは Google 検索でわかったものの、それを言い出したのがいとうせいこうであることはわからなかった。別のアルバム(「In the Gargen」)に、いとうせいこうのライナーノーツが英訳されて載っているので、それを和訳してみたい。

 

 

 ゴンチチの音楽を「亡命の音楽」と呼んだことがある。南半球だろうと北半球だろうと構わない。ゴンチチの音楽は亡命した先で聞きたい。君がルーマニアに、ぼくはタイかザイールにいたとして、ゴンチチの音楽は自分の国から遠く離れて完全に自由なときにだけ、その価値が本当にわかる。

 

 

 さすが、いとうせいこう。ゴンチチの音楽の核心を詩情豊かに表現している。だけど、「Devonian Boys」には、この解説は当てはまらない。このアルバムは、ゴンチチのパートナーであったマニピュレーターの松浦雅也(PYS・S)の色が最も濃く出ているからだ。半分の曲を松浦が作曲しているし、打ち込みもいつもより過激である。

 

 アコースティック楽器とシンセの打ち込みをフィットさせるのは大変なはずなのだが、松浦はそれを見事に成し遂げている。打ち込みとアコースティック・ギターがとても有機的に絡みあって、「旋律とカラオケ」ではなく、一つの音楽(ポリフォニー)になっている。アレンジもミキシングも素晴らしい。

 

 ギターのサウンドについては、ゴンザレス三上がナイロン弦をピックで演奏しているのが特徴的だ。クラシック・ギターの「いい音」とは違うけど、独自の表現力がある。ジャズのフレーズを弾いているときは、ちょっとジプシー・ギターのようでもある。

 

 ぼくなりにゴンチチの音楽にニックネームをつけるとしたら「箱庭のギターデュオ」にしたい。ゴンチチの世界が心地いいのは、そこが現実ではなく、細部まで完璧に作り込まれた空想の世界だからだ。すべてが計算されていて割り切れる世界。曖昧な感情も不安もない音楽。だから日本のテレビにぴったりなのである。