オルガンそのものがなかなか手に入れられないので(笑)、代償行動としてオルガン本の収集に血道を上げたりします。
もともと入手困難なモノが多く、コレクターアイテムとしてマニア心をそそられるのもポイントが高いです。
教則本系で拝読したものをご紹介します。
そもそもこの手の本をやたらに乱読するのは先生をコロコロ変えるようなもので、百害あって一利なし。
混乱するだけで、一番たちの悪い生徒がやることです。
って、分かっていながら手にしているのは・・・、まぁ、その、趣味ですね(笑)
オルガン演奏の技術
ヘルマン・ケラー 著 所俊夫 訳 秋元道雄 監修
パックスエンタープライズ 1983.9 121p
ケラーさんはドイツの音楽学者にしてプロフェッサー、オルガニストの大家。いまや歴史上の人物の感があります。入手困難ではありますが、古典的教本として図書館等で拝読することはできます。
本書の序でいずれ時代遅れになるであろうと自ら記述していますが、教授の厳しくも断定的な記述は普遍的な真理として今も生き続けているものがあると思います。
手足の奏法・演奏法は勿論、教会旋法やネウマ譜にも触れており、構造・音栓配合技術や年表などオルガンに関する必要にして十分なことを網羅しています。
古典的名著。
オルガン演奏の方法
ハロルド・グリーソン 著 児玉麻里 訳
音楽之友社 1984.7 310p
グリーソン博士はニューヨークのイーストマン音楽院のオルガン課の長であり、リサイタリストであったアメリカの重鎮です。
手足共に初歩から段階的で適切な曲が豊富に盛り込んであり、また読み物としても興味深い事柄が沢山書かれています。
巻末にはシステマティックな音階練習曲ががっつりあり、付録としてコース別等級オルガン曲の目安、有名なオルガンのディスポジションの紹介など、一生モノの本です。
自分にとっては初めての入門書として巡り合いましたが、できればずっと手元に置いておきたい教本です。
オルガン演奏法
カワイ音楽教室/編
河合楽器製作所・出版事業部 1987 183P
入門書と言いながらバロック作品の有名どころのみならず、ラインハルトの練習曲からメンデルスゾーンやフランクの名曲までしっかり収録されており、次葉の「オルガニスト・マニュアル」に負けず劣らないボリュームがあります。
店頭で見かけることはまずありませんが、カワイのチャーチオルガンスタッフブログで紹介されていましたので、本家からは入手可能なのかな。
特徴としては、最終章に「電子オルガンへの応用」として、ポピュラーモデルの電子オルガンを想定した取組みについて考察しています。現在の主流はサンプリングオルガンに様変わりしていますが、考え方はそんなに変わっていないのかも知れません。
速修ペダル専科 ~教会オルガニストのための
リチャード・ヘンリー・コールマン 著
パックスビジョン 1992.11 24p
ドクター?コールマンによる、人間工学的観点から編み出された「タッチペダリングメソッド」の要点を編集し、説明を拡張したものとうたわれています。
アマチュアのサンデーオルガニストを対象に、奏楽演奏に必要な最低限度のペダリング技術を修得するためとはっきり書かれており、ある意味スガスガしい(笑)。
PCのブラインドタッチになぞらえ、黒鍵の間をホームポジションとして覚え、基準となるガイドキーを拠り所に音を取っていくメソッドとなっています。
本当は時間を掛けて両足の複合的な感覚を身に着けるのが理想でしょうが、オルガン奏楽を迫られたピアニストには最適な教本だと思います。
オルガニスト・マニュアル
ロジャー・E.デイヴィス 著 藤野薫 訳
パックスアーレン 1993 209P
オルガンの教則本として一番広く使われている本だと思います。
本家パックスマートでは品切れとなっていますが、中古本を含め市場で流通しており入手は困難ではありません。
入門書としては文句なく、楽器の構造・用語集などに及ぶオルガンに関する事項を細大漏らさずカバーしています。
掲載されている曲も手鍵盤用が26曲・ペダル付が40曲と圧巻のボリュームで、ロマン派・近代の作品も多く取り上げられており、なかなか攻略するのは手ごわいです。
一番心に響いた言葉は、序説にある「根気と自己訓練を伴わない情熱では、意図とは反対の結果を招くことになる」という練習についての注意でしょうか。はい、肝に銘じます。
アンのオルガン上達法
アン・マースデン・トーマス 著 千村泰子 訳
1995.6 聖公会出版 68P
菊版・68ページと、小冊子とも思えるささやかな書籍ですが、赤い表紙が印象的。
タイトル通り、上達の為の練習についての考え方・手順・方法についての「読み物」です。
譜例は最小限度に、確かな技術を身につけて自信にあふれた演奏をするための針路が書かれています。間違った学習者として4つのタイプが挙げられており、自分は自己認識のかけらもない「チャンピオン」でありました(悲)。
オルガンの周りに散らばっている雑多な教本や曲集を片付けて、この本のエッセンスを実践することが今の自分には一番必要な気がします。
オルガン奏法 ~キリスト教音楽入門
志村拓生 著
日本基督教団出版局 1997.3 102p
サブタイトルに「キリスト教音楽入門」とあるように、教会音楽史と讃美歌学・指揮法と並んで刊行された礼拝音楽に携わる人を想定して書かれたものです。
「オルガンの歴史と構造」「手鍵盤の奏法」「ペダル(足鍵盤)の奏法」「楽譜の読み方」といったチャプターがありますが、限られたページの中で譜例を基に解説文の割合がかなりあり、特にペダルに関して記述された情報量は随一ではないかと思います。
「ペダルの奏法はペダルを上から下に押し下げるのではなく、軽い前後運動を伴った足首の動きによるのである」←これが腑に落ちるまで5年かかりました。
オルガンペダル独習8週間 速習:ピアノからオルガンへ
アーサー B.ジェニングス 著 秋元道雄 監修 藤野薫 訳・編
パックスアーレン 1998.12 48P
ピアノの素養のある学習者向けにペダル技術取得に特化した本。
「独習8週間」というのはキャッチーな表題ですが、素直にしっかり実践すれば到達できる一つの目安でしょうか。
非常に重要な原則として、「黒鍵を音探しのよりどころとして利用してはならない」と明記されていました。「速修ペダル専科」とは真逆。
厳しいなあー。ちょっとは勘弁してもらえないでしょうか(笑)。
オルガン奏法(Organ Playing)
月岡正暁 著
パックスアーレン 2001.1 164p
パックスマートでは久しく絶版となっておりなかなか入手困難ですが、邦人の著したオルガン教本として広く紹介されても良い本ではないかと思います。
譜例が古典に限定されている事もありますが、「レガート奏法」「踵の使用」を例外的なこととして、「アーティキュレーションの多様性」「つま先の使用」が強調されています。
最終章「演奏について」で、デュルクの鍵盤教則本から紹介されている演奏全般に関しての記述は、平易で明快な記述ながら心を抉ります。
クラヴィス~むかしの鍵盤楽器(クラヴィーア)
大塚直哉 著
現代ギター社 2014.11 110p
「〔オルガン・チェンバロ・クラヴィコード〕を弾いてみよう」というサブタイトルがついていますので純粋なオルガン本ではありませんが、アーリーキーボードの奏法としては共通として、どの鍵盤楽器でも演奏できるとしています。教本というより曲集でしょうか。
特筆すべきは最終章で「数字付き低音入門」として相当な説明を割いて課題と有名曲を掲載しています。
オルガン奏法 パイプでしゃべろう!パイプで歌おう!
近藤岳 著
同和書院 2020.1 176P
現役オルガニストであり、作曲家である近藤岳氏による最新オルガン教本。
最初にごく初歩的な譜例で基本的タッチの説明がありますが、直ぐに大家の手加減なしの譜面がバンバン登場し、手と足が止まってしまします(笑)。
現代作曲家によるオリジナル曲が教材としてふんだんに盛り込まれており、実際に弾いてみると何とも予想外で不思議な響きが新鮮です。
最後の総合練習曲が本書の白眉で、オリジナリティーに溢れています。超絶技巧のペダルソロ曲は足でなぞっていくと不可能ではないですが、足自慢でないと歯が立たないのでは。
ボリュームはありますが、軽くて開きやすく、製本はとても良いです。
かつて大阪音楽大学楽器博物館に展示されていたオルガン