上海特急殺人事件 | geezenstacの森

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上海特急殺人事件

著者 西村京太郎
出版 実業之日本社 ジョイノベルス

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 東京で起きた連続女子大生射殺事件。下着姿で殺された彼女たちに共通点はなく、捜査本部は変質者による犯行と推定したが、十津川は引っかかりを感じる。一方、上海の黄浦江で日本人の女性ジャズシンガーが扼殺体で発見された。中国警察の協力要請を受け、二つの事件の類似点を追い、十津川は上海へ飛んだ!--データベース---

 2003年発表の十津川警部シリーズの一冊です。殺人の影に殺し屋が存在し、日本と中国で同時期に女性が殺されるという事件が発生します。強引な事件の共通性の結びつけが何で?という疑問を生み、はたまた、政治がらみと思われるストーリー展開に往年の活躍を期待しますがあにはからんや、尻つぼみの結末にがっかりのストーリーです。

 なんかテーマが未消化のままで、この事件で日本側の捜査を担当していた三田村刑事が誘拐され監禁暴行を受けるのですがその件の解決には全く触れられていません。そして。事件の鍵を握ると思われる財団法人「新世紀」とフジヤマ・コネクションという存在が登場し、それがらみで経理関係の男が自殺するのですがこの件もあやふやなままです。ということで、見事に消化不良に終わっています。まあ、事件がリアルタイムで進行していた上海-北京を結ぶ高速鉄道の受注を巡る政治がらみの部分を引きずっていますからあまり突っ込めないという部分もあるのでしょうがね。

 テーマの設定もこじつけがましく、スパイとして送り込まれていた女の裏切りということになっていますがこの裏切りがどういうものかの真相は明らかではありません。日本と中国のスパイが同時に裏切り行為をするというのも不可解な設定で、ましてや、中国のスパイは殺されずに本国に帰り着くという安直な設定です。つまり、日本で起きたのは身代わり、誤認殺人であったという設定はいいのですが、この殺し屋、上海に戻ってから全然動いていないというのも変な設定です。そして、この男に目を付ける動機というものもいい加減な設定で、読み返してもそういうシーンは出てこないのです。

 最近のストーリーはちょっと雑で、ここでタイトルの上海特急は最後に出て来るのですが、保護を求めた中国側のスパイ、朱麗華を北京から上海への護送で飛行機を爆破するという予告におびえて鉄道での護送ということになって忽然と登場します。これなんか中国の警察組織の中に中国マフィアが根を張っているということで、警察がマフィアに屈しているということを示している屈辱的な状況だと思うのですが如何なものでしょうか。その変更した上海特急もマフィアに襲われ銃撃戦になるのです。なんか、ここはタイトルにあわせて強引に列車仕立てにしたという感じですね。

 上海で殺された女の殺人犯は簡単に捕まりました。あまり十津川警部たちの活躍の場はありません。そして。日本の女子大生を殺しは犯人は、上海特急の中での銃撃戦で死んでしまいます。はたして、本当に犯人だったかということは明らかになっていません。

 しかし、この事件はこれで終了の形になっています。なんか釈然としないものを感じます。それとは別に舞台となった上海-北京を結ぶ高速鉄道は各国の技術協力の融合型ということで落ち着き、今年の4月から営業運転しているそうです。もちろん日本の技術も投入され、東北新幹線の「はやて」型が疾走しています。北京オリンピックや、上海万博の時には大活躍するでしょうね。