梅之助は新卒の若い頃、発変電所向けのプラントエンジニアでした。

数年で辞めた(別に仕事が嫌になった訳ではなく、向学心の為もっと勉強しようと思った)ので原子力発電の事自体は今も詳しくは分からないのだけれど、素人よりは技術的な意味で関心のある分野です。

だから当時の職場を退職して20年くらい経っていましたが、2011年の福島原発事故発生当時の外部電源喪失事態は本当に心配で心配で心が痛い出来事でした。

報道から伝えられる政府・東電の対策を聞いて、「何故、電源敷設の実施をワンイシューでしか考えない?失敗すれば次の対策までタイムラグが生じる。ありとあらゆる方策を同時並行して実施すべき」と、まあ現場の混乱をよそに勝手に思ったりもしていました。

 

左から4号機→3号機→2号機→1号機 (2011年3月16日撮影 Wikipedia より)

 

なんて言ったって、稼働中だった1~3号機、炉心定期点検中だった4号機、定期点検で完全停止中だった5~6号機のうち、2、3、5、6号機はかつての所属企業が関わっていたから。

当時は各メーカーからも多くの人員が投入されているのを報道で聞きました。もし、そのまま在職中であれば自分も現場投入された可能性も無きにしも非ずです。

 

あの事故は結局、圧力制御が出来ず最もヤバかった2号機が殆ど偶然の産物で決定的な破壊を免れて現在に至る過程を辿りましたが、本当に壊滅状態に至ってそれでも尚かつある程度の最前線に一定の人員を送らなければならなくなったとしたら、

「お前は今の仕事を投げ打って、あそこに行けるか?誰も行く人がいなくて困り果てた国家から要請・募集があった場合に行けるか?もう子供をつくる予定はお前にはないよな?大した事は出来ないだろうが電源ケーブルを引っ張って進む作業くらいはお前にも出来るのではないか?」

と、自問自答し続ける日々だった事を思い出します。

 

さて。

商用原発ですが、原発には色々な分類方法があって、そのうちの一つで分類すると、

・軽水炉原発

・重水炉原発

・黒鉛炉原発

となります。

日本の商用原発は全て軽水炉原発のみで、その軽水炉原発は、

・沸騰水型原子炉タイプ(BWR)

・加圧水型原子炉タイプ(PWR)

に分けられます。

福島原発は沸騰水型原子炉(BWR)で、このタイプは東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、中国電力などが採用しています。

一方、加圧水型原子炉(PWR)は北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力などが採用しており、また外国の原子力潜水艦や原子力空母もこのタイプになります。

BWRやPWRのいずれにせよ、軽水炉原発は核兵器の製造には適していません。

 

尚、メーカーについてはBWRが日立と東芝、PWRは三菱重工となっており、何故このような色分けになったのかは戦後日本の原発導入時の国策によるものです。ただ面白いのは東芝で、今も同社の分割ニュースを見かけますが、東芝経営危機の最大要因となったのが米国の原発会社ウェスチングハウス(以降:WH)の超大型買収の失敗。WH社はPWRのメーカーで、東芝本体とは系統が異なる物件だったのです(参照→「東芝が7000億の損失?~② 中国企業の買収が止まらない」(2017/01/30))。

 

日本の原発がすべて軽水炉原発である事を上で書きましたが、それでは重水炉原発、黒鉛炉原発というタイプはというと、実は核兵器製造に転用が容易で、特に独裁国家がこの手の原発建設を行うと世界中から核疑惑の目を持たれる事になります。

因みに停止して久しいチェルノブイリ原発の原子炉タイプは黒鉛炉原発です。現在ロシアが”ウクライナによる汚い爆弾の製造”を盛んに喧伝しているのはここに理由があります。

これは一応言っておきますが、ロシアの主張を信用している訳ではありませんよ。ロシアがウクライナの核疑惑を言い出したのは侵攻の直前から。IAEA(国際原子力機関)は「その兆候はない」としています。この件に関してのロシアによる主張は稚拙すぎて信じるに値しません。

 

ウクライナ国内の原子力発電所  3月4日 読売新聞 より

 

では他のウクライナの原発はどうかというと、上のザポリージャ、南ウクライナ、フメリニツキー、リウネの各原発は旧ソ連で開発された「ロシア型加圧水型原子炉タイプ」(VVER)と言って、基本的な原理や構造は上で書いたPWRの仲間になります。

 

ザポリージャ原子力発電所  Wikipedia より

 

最後に。

話は変わりますが、梅之助は馬渕睦夫さんによる今回の戦争の原因や背景的な見立ては結構、参考にしています。そういう視点も知っておく必要があるとも思っています。

ただ彼は自説を貫くにしても、あまりに物事を単純化・割り切りすぎてはいないか?

馬渕さんは昨年12月23日の動画で「ロシアによる侵攻は無い」と断言されていたものの、結果は2か月後に東部ウクライナだけならともかく、加えて北から南から全面侵攻です。

同様に最近の3月9日の動画では70年前の話をされて「習近平の台湾侵攻は無い」とも仰っていました(70年前の話をされてもね・・・)。

馬渕さんのロシアに関する軍事予測は完全に外れです。それ自体は多くの識者も外しているのでどうのこうのと言う事は無いですが、当然、彼のチャイナへの予測もありがたく頂く訳にはいきません。

にもかかわらず、3/9の動画のコメ欄を見ると絶賛の嵐。ちょっとこれには引きました。

 

誰もプーチン大統領や習近平主席の頭の中までは正確な予想など出来ません。

ウクライナの原発に不測の事態が起こらぬ事を祈っています。

 

 

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