宮藤官九郎×大泉洋が破壊力のある化学反応を起こしてくれた。
21日に放送されたテレビ朝日系「終りに見た街」を視聴した。
開局65周年の特別企画ドラマとして制作したこの作品は、
「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎たち」などで知られ、昨年逝去した脚本家・山田太一(1934~2023)が、
1981年(昭和56年)に「別冊中央公論」で発表された小説をベースに、
翌年、テレビ朝日系「ゴールデンワイド劇場」向けの2時間単発ドラマとして、細川俊之主演でドラマ化。
家族内で問題を抱えた放送作家一家が、運命の悪戯からか近所の一家族とともに、
1944年(昭和19年)にタイムスリップしてしまい、
一億総玉砕の風潮の中、終戦日を知る彼らはそれまでを必死にしのごうと努力するが、
現代に帰った途端、新たな核爆弾が投下された後、全てが死に絶えた東京の姿でシメる衝撃的な結末は、
未来の日本を暗示するようで、今思うと衝撃的。
その後、2005年(平成17年)に中井貴一主演で、同じテレビ朝日系の特別企画ドラマでリメイク。
山田太一が現代の情勢に合わせ脚本を再構築した。
昭和、平成と作られたこの「終りに見た街」が、宮藤官九郎の脚本、大泉洋主演で蘇る。
山田太一を尊敬している宮藤官九郎が、
昨年公開の山田洋次監督の映画「こんにちは、母さん」で、
吉永小百合とのW主演を務めた大泉洋と共演した縁で意気投合し、
(「こんにちは、母さん」は、テレビ朝日が製作委員会に参画し、出資している!)
山田太一の原作小説の良さを活かしつつ、主人公に大泉洋を起用することを想定して当て書きしたり、
令和の社会情勢を盛り込んでいるところがクドカンらしい。
キャリア20年、代表作なしの売れない脚本家・田宮太一(大泉洋)は、
大黒柱としての威厳など欠片もなく、子どもたちにはウザがられがちの、家庭内カースト最下層。
ある日、プロデューサーの寺本(勝地涼)から「終戦80年記念スペシャルドラマ」の脚本を無茶ぶりされ、
断り切れず引き受けることに。
自宅に送られてきた戦争に関する膨大な資料に目を通しながら寝落ちしてしまった太一が、
衝撃音で目を覚ますと・・・そこは太平洋戦争まっただ中の昭和19年6月の世界に、
家族ごとタイムスリップしてしまった!
そこには、太一の亡き父の戦友の甥・小島敏夫(堤真一)と、
息子の小島新也(奥智哉)親子も一緒にタイムスリップしてしまうことに。
来年、終戦から80年を迎え、第二次世界大戦、太平洋戦争、広島と長崎への原爆投下、
東京大空襲の悲惨さを知る”生き証人”が次々と亡くなり、戦争体験を伝える機会が次第に減っていき、
戦時中コンテンツが、あらゆるメディアでコンプライアンス上アカン類に入っていることに歯がゆさを感じている。
今回、平成、令和のマニアックな知識を脚本に織り込んでいる宮藤官九郎が、
令和の時代に合わせ、スマホ、はま寿司、YouTuberも織り込み、ブラッシュアップし、
令和の家族が戦時中にタイムスリップし、終戦の日、1945年8月15日まで生き抜き、
絶対に現代に帰るんだと必死にもがこうとする姿は、今の日本に戦争体験を伝える絶好の機会やなと。
そして、こういったタイムスリップものによくある、未来改変の代償も。
クドカンの脚本は、キャストの良さを引き出していてて、
このドラマでの大泉洋は、昭和版の細川俊之、平成版の中井貴一を超越したと!
制作に協力した角川大映スタジオの仕事っぷりにもあっぱれ!と。
多分正味90分だと思うので、テレビ朝日とKDDIの協業による動画配信サービス・TERASAで、
未公開カットを加えたディレクターズカット版を独占配信してほしいわ。