先日のブログで「しぐさオチ」について書きました(^^)
詳しくはこちら↓
落語にはいろんな落ちがあります。
下げ(サゲ)とも言いますが、わかりやすいオチからちょっと想像力のいるオチ(『考え落ち』なんて言います)もあったり、今回のしぐさオチも含めて
◯□落ち
というもので分類されています。
どれがどのオチかと話し出すと非常に長くて難しい話になりますし、中にはどれに分類されるのか議論がわかれるようなものも多い❗️
なのでそういう小難しい部分は置いといて、今回はわかりやすいところをちょっと知って頂くことにしましょう(^^)
しぐさ。仕草ですな。
まぁ簡単に言えば言葉でなく動きが落ちになっているというもの。
代表的なものとしてご紹介するのがこのお話。
死神です☠️
今回はこのしぐさ落ちを説明したいがためだけのものです。笑
江戸落語でも人気のストーリーとなっております♫
〜ストーリー〜
「何にもうまくいかねぇなぁ。
もういっそのこと死んじまおう」
男が1人。
遊びが過ぎて金もないどころか借金だらけ。
妻には散々罵倒された挙句、出ていかれる。
世を儚んで、今まさに首に縄をかけ、自ら命を絶とうとしています。
「おい、まぁそう早まるなよ。」
「わっ!なんだ、爺さん。
どこから出てきたんだよ」
気付かぬうちにやけに眼光の鋭い老人が近くに座っていました。
「へへ…オレはなぁ、死神だよ。
あのな、お前さんはまだ寿命じゃないんだ。
そういうのに勝手に死なれると、何かと面倒なんだよ。
お前さん、金が稼ぎたいんだろ?
ならいい方法があるから教えてやるよ…」
「死神〜?
なんだ…オメェがいるからオレがこうやって死のうとしてるんじゃねぇのか?
そりゃ金は欲しいけど…いい方法ってなぁなんだい?」
「オマエさん、これから医者になれ。」
「医者なんか何にも知らねぇのにできるわけねぇだろ⁉️」
「まぁ聞けよ。やり方はな…」
死神が言うにはこれから医者としていろんなところへ行き、寝込んでいる病人をよく見てみろと。
そこには必ず自分と同じ仲間の死神がいて、病人の枕元か足元のどちらかに立っているんだと言います。
「それで足元に立っている時にまじないを唱えるんだ。」
「まじない?…なんて?」
「よく聞けよ。
アジャラカモクレンテケレッツのパー
これを唱えて手を2回パンパンと叩け。
そしたら死神は消えちまって、その病人は助かる。
それで金を稼げばいいじゃねぇか」
「ホントかよ…。
まぁ死神本人がそう言うんなら信じるけど」
「ああ、ただし…いいか?
足元にいる時だけだぞ。
枕元にいるやつはもう寿命だから助からないんだ。
絶対に枕元にいるやつには手を出すな」
「なんだよ、急に怖い顔しやがって…

わかったよ。足元だけだな。
よし、なになに…アジャラカモクレンテケレッツのパー。
で、手をパンパン👏…か」
そう言って手を叩くと死神の姿が見えなくなりました。
「あれっ?おーい、死神さん?
…ホントに消えちまった。
う〜ん…ま、どうせ1回捨てたような命だ。
ちょっとやってみるか!」
そう言って男は家の前に医者の看板を立てますが、そう簡単には人は来ません。
ところがある日。
1人の男が駆け込んできました。
「あ、あのっ!
ここにはお医者様がいるんですかい?」
「えっ?あ、ああ、いますよ」
「よ、よかった…!
実はウチの旦那様が寝込んじまって、明日をも知れない命かもしれないのに、どこの医者も出払ってていないんです!💦
お医者様はどこです?」
「どこって…目の前にいるじゃねぇかよ」

「えっ?…あ、あなたがそうなんですか?
とてもお医者様には…あっ、いやいや!
とにかくウチに来て診てやってください!
お願いします!」
男に着いていくといかにも大富豪という豪邸に入りました。
奥の座敷に通されると、この家の主人が寝込んでいます。
ふとその寝込んでいる主人を見ると足元にあの死神の爺さんが言ってた仲間の死神らしきものが立っている。
しかしその姿は自分以外には見えていない様子です。
それが時折、グッと眼の力を強めると主人がうぅ〜っと苦しみ出します。
「ほぉ〜…あれかい?
ホントに足元に立ってる…死神なのか…」
「せ、先生。早く診てあげてください」
「あ、ああ…わかった。
ただ他のものは皆出て行ってくれ」
部屋から使用人達を出し、自分と主人、そして死神だけです。
「よ〜し…頼むぜ〜。
あ…アジャラカモクレン、テケレッツのパー!」
パンパンと手を叩くと死神が驚いた顔でシュッと消えてしまいました。
するとこの豪邸の主人の顔色が良くなっていきます。
「う…うぅ〜ん。よく寝たなぁ。
久しぶりに気分がいいし、腹が減った。
おーい、誰かおらんか?」
その姿を見た使用人達はビックリ❗️
涙ながらにお礼を言い、男に大金をくれました。
「ホントかよ…⁉️✨
こんなにうまくいくとはスゲェなぁ。
死神様様だぜ♫」

これを機に男の医者としての評判は街中の噂となり、毎日あちこちから病気を治してくれと依頼が殺到!
しかし男がやることは変わらず、足元にいればまじないを唱えて死神を消してしまう。
枕元にいれば「これはもうダメだ」と言ってその場を去りますが、本当にその後すぐに患者が死んでしまうので、さらにこの男の評判は上がりました❗️
そうして大金を手にした男は以前にも増して金の使い方が荒くなり、しばらくは医者もやらず酒に女に博打と遊んで暮らします🥳🍶🤑
しかし悪銭身につかずとはよく言ったもんで、そうしているうちにまた懐具合が寂しくなってきた男。
また医者の依頼を待ちます。
すると評判がいいものですから、すぐに依頼が来る。
「ウチに来てくれませんか⁉️」
「よしよし。どれどれ…」
病人のいる家に行ってみると枕元に死神が立っています。
次の病人の家に行く。…また枕元です。
その次の病人を診に行ってもまた枕元。
とにかく行く先行く先みんな枕元続き…☠️
そうなると患者を治すことはできない。
何もできないとなると金は稼げません。
「なんだよ…こりゃマズいなぁ」

そう思っているところにまた1人。
また別の大家から診察してくれと依頼がきました。
「今度こそは頼むぞ〜…どれどれ…」🫣
奥座敷を覗くと、大家の主人が寝ています。
年配のお爺さんですが、苦しそうです。
そして死神の姿はまたもや枕元…。
「何だよ、ちきしょうめ…。
また枕元だよ❗️」

「まくらもと?何のことです?」
「えっ?あぁ、いやいや、こちらの話だ。
ダメだ。これは助かりません。それでは」
「お、お待ちくださいませ!
今お医者様に見放されてはこの家は大変なことになります。
せめて大旦那が今後を託すような遺言をする、ほんのひと時だけ命が延びればいいんです!」
「そんなこと言ったってねぇ。
ムリなもんはムリですよ」

「そっ、そう言わずに!
もしもそのためのほんの少しだけ命を延ばして頂ければ…お医者様には千両差し上げます!
ですからどうかお願いです!」🙏
「せっ、千両だと…⁉️
いや、でも約束が…でも千両かぁ…!
ちょっ、ちょっと考えさせてくれ。
とりあえずみんなこの部屋から出てくれ!」
1,000両。
当時、丁稚奉公でもらえた給金がたった2両。
今で言えば目の前に10億円置かれたぐらいの気分でしょう💴
しかしあの最初の死神には
『絶対に枕元のやつには手を出すなよ』
と念を押されました。
必死で悩んだ男にある閃きが💡
使用人を呼び、
「ちょっとこの家の使用人で、力のある屈強な若い衆を4人集めてください」
「?…わ、わかりました。」
すぐに集められた4人は主人の寝る布団の四隅に配置されます。
「ちょっとみんなこっちに…。
いいか。
これからどのくらいになるかはわからんが、オレが『今だっ❗️』と合図をしたら四隅で布団を持ってグルっと頭と足をひっくり返すんだ。
絶対に失敗するなよ」
こうしてじっと待ちます。
枕元の死神は時々グッと眼に力を入れ、その度に大旦那が苦しみます。
どのくらい時間が経ったか…そうこうしていると、死神にも疲れのようなものがあるのか、少し動きが鈍ってきます。
どことなくウトウトしているような雰囲気です😴
そしてしばらくしてほんの一時だけ、眠って動かなくなったようになりました。
「今だっ❗️まわせっ‼️」
4人が一斉に布団をグルっと回し、枕元と足元が入れ替わります❗️
「アジャラカモクレンテケレッツのパーっ‼️」
素早くパンパンっ❗️👏
と手を叩くと死神が今までに見たことのないような驚いた表情で消えてしまいました

「…き、消えた…!
は、ハハ…やってやったぜ。
どうだ❗️ざまあみろぃ‼️」
すると大旦那が目を覚まして元気に立ち上がります。
家の者達は歓喜して礼を言い、男に千両の金を渡しました✨
男が帰って小判をニタニタと見ていると…

「おい…おい…!
おめぇ…やりやがったな?」
「ハッ!し、死神さんじゃねぇか。
な、なんだい、怖い顔して…」

「なんだいじゃねぇ…ちょっとツラ貸しな」
「ど、どこへ行こうってんだ?」
「いいからついて来いよ。
ほら、こっちだ」
「な、何だよ…悪かったよ。
謝るからさぁ、勘弁してくれよ」
「うるせぇな。
取って食ったりはしねぇ。早く来い。」
物凄い形相の死神を前にしては逆らえません。
死神の後ろをついて行きます。
「…ここだ。この階段を降りるぞ」
「な、なんだよここは…?」
階段を降りると岩の中をくり抜いたような広い空間に出ます。
そこには何千、何万というロウソクが立っていて、その全てに火が点いています🕯🔥
「ここで止まれ。
…ったく。あれほど言ってやったのに。
オマエ…枕元のやつ消しちまっただろ?」
「いや、だからさぁ…悪かったよ。
ゴメンゴメン!人助けしたんだしさぁ。
今回だけは許してくれよ」🙏

「バカやろう…それがマズいんだよ。
とにかくここのロウソク見てみろ。」
よく見てみると、ロウソクでもいろんな長さのものが立っています。
「おお?なんだい。いろいろあるねぇ。
しっかり燃えてるけど…このロウソクが何?」
「ここのロウソクはな…人の寿命だ。」
「寿命だって⁉️
じゃあこれ全部…人の命なのか?」

「そうだ。
あのひと際長いのは産まれたての赤ん坊。
隣のちょっと短い2本がその親だ。」
「な、なるほど…何でオレをこんなとこに連れてきたんだ?」
「そこのロウソクだよ」👉
ふと見ると1本のロウソクが力強く燃えています。
「元気に燃えてるじゃねぇか。
これ、誰だい???」
「へっへっへ…。
これは今日オマエが助けたあの爺さんだ」
「えっ、これが⁉️
なんだよ、こんだけ強く燃えてるのに何で枕元に死神が立ってたんだ?
寿命はまだ長そうじゃねぇか❗️」
「それじゃその隣を見ろ」
「んっ?隣?
あちゃ…随分短くなってるねぇ〜。
こりゃダメだ。もうすぐ消えそうだな。」
「…それがオマエの寿命だよ」
「なっ、何だと…⁉️
何であの死にかけだった爺さんがこんなに長いのに、オレのはこんなに短いんだ⁉️」

「へっへっへ。バカだなぁ、オメェは。
金に目が眩んで、オメェはあの爺さんと自分のを入れ替えちまったんだよ」

「何だって⁉️そんなバカな‼️
…たっ、頼む。助けてくれよ❗️
死にたくねぇよ❗️」

「だから絶対に手を出すなって言ってやったろ?」
「知らなかったんだよ…そんなことになるなんて!

いい閃きが浮かんだんだ!
わかるだろ⁉️」
「何言ってんだ。
『まだ寿命があるから』閃いたんだよ。
まだわからねぇか?」
「なな…なんてこった…。
頼むよ!この通りだ!
せっ、千両…この千両あんたにやるから❗️」
「千両なぁ…ヘッヘッヘ。
それだけありゃ随分遊べるんだろうな」

「なっ、だから頼むよ!助けてくれよ❗️」
「しょうがねぇなぁ…。
じゃあこの千両もらった礼だ。
ほら、このロウソクをやるよ。
これにそのロウソクの火が移ったら、それはオメェのもんだ。
それがオメェの寿命になるぞ」
「ほ、ホントか…⁉️
あっ、ありがてぇ。はぁ、はぁ。
こっ…この火が、点けばぃいいんだな?」
「ああ、そうだ。
早くしねぇと消えちまうぞ。ヘッヘッヘ」
「わ、わかってるよ…!はぁはぁ。
てて、て…手がふ、震えて、う、うまくいかねぇんだよ…」

「ほ〜れ、どうした?
消えるぞ…消えるぞ…」

「ちち、チキショウ…横からご、ごちゃごちゃ言うんじゃねぇよ…。
ふ、震えが…ひっ、火が、つ、つかね…ぇ…」
「ほら…消える…消えるぞ…」

「…あ…ぁぁ…」

…ドサッ…
〜終〜
さて、いかがでしたか?
初期の解説にもありますが、もともとはグリム童話のお話だったものを三遊亭圓朝という高名な噺家さんが日本の落語に作り直したものです。
オチにはいくつかパターンがあります。
・ストーリー通り火がつかずに死ぬ
・火が付いたのに死神に吹き消される
・火が付いてホッとした自分の吐息で消える
・火が付いて洞窟から外に出た時の明るさでつい消してしまう
・死神が「今日はオマエの新しい誕生日だ」とハッピーバースデーを歌った後に自分で吹き消す
いずれにせよ主人公は助からず、最後はこの落語を演じている噺家がドサッと倒れ、暗転して終わりという演目です。
一説には漫画で少し前に大人気になり、映画にまでなった「デスノート」🎥
実はこの演目が元ネタなのではという声もあります。
(真偽は定かではありませんが)
さてさてしぐさオチの演目はまた1つ出したいなと思っているものがありますので、そちらもお楽しみに♫
ではまた(^^)