ザンボラーの日 その2 | ヤマダ・マサミ ART&WORK 検:ヤマダマサミ

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ザンボラーの日 その2

「果てしなき逆襲」はシナリオ藤川桂介、監督鈴木俊継。

鈴木さんは東宝の特撮映画にも出ていた俳優出身のハンサムな演出家で「ウルトラQ」から助監督として参画、これが監督デビューとなります。スクリプターの宍倉徳子さんが奥様で、70年後期には映画を離れていたそうな。

ぼくはそれくらいしか知識がありません。

奇を衒わない演出で堅実にシナリオを映像化した印象が強くて、たとえばビンさんが主役になった「ウルトラセブン」の「悪魔の住む花」(ダリー)のように、脇役にスポットを当てた功績は大きいと思う。つまり彼自身がメイン監督ではないため自由度の高い話が廻ったのでしょう。

特撮はとうに2班編制になっていてシナリオに編成が刷り込まれています。

手が廻らない事から制作にいた樋口祐三さんが監督に選ばれる前例がありました。「ウルトラQ」から助監督だった鈴木さんが抜擢されるのも当然の成り行きでしょう。

樋口さんは自身の監督作品が終わるとまた元の制作に戻ります。鈴木さんはこの後、70年代までの特撮番組を演出します。

宣弘社やPプロ作品も撮りますから、存命でしたらいろいろ聞いてみたかったですね。ギエロンはとくに、ザンボラーともども、被害者なのに加害者として葬られる無念さをも。

 

この回、シナリオの大事なところがまるまるオミットでされています。あのスペシウム光線のスペシャルな理由もそこに由来します。

その説明の前に、やはりカットされたところ。

 

33 同乗用車内

ハヤタ「パティ。ーーパティ。」

 ぐったりしていたパティ。頭を起こす。

ハヤタ「パティ、君はこの儘池の沢を通って東京へ帰っ

    て下さい」

パティ「ハヤタ」

ハヤタ「私は此処で怪獣を見張ります」

 そういうと車外へ出るハヤタ。

ハヤタ「池の沢から東京へ入れたら大変ですからね。少

    しでも早く発見するために、僕は此処で頑張り

    ます」

パティ「ハヤタ、水くさいぞ!」

 パティは、ホーンを鳴らしてハヤタを振り

 向かせようとするが、彼はその儘、人気の

 絶えたアパート群へ向かって行く。

 やがて、車をスタートさせるパティ。

 

34 池の沢附近のアパート群

 棟と棟の間を歩くハヤタ。突き当りは森の

 ある丘である。

 閑としている空気。

 ハヤタは煙草に火をつけると、辺りを見や

 る。

ハヤタ

の声 「淋しい。人のいない町はまるで死んだように淋

    しい。でも、あゝして広がっている森や林の緑

    をこれ以上失ってしまったら、もっと淋しいに

    違いない。何故って、僕達は生きているからだ」

 その時、丘が揺れ、ザンボラーが現われる。

 

きっと撮っていたとしても入り切らなかったんでしょうね。情緒を感じる良い場面です。

カットは演出上の事なのか、局から注文が来たのか。

加えて、おそらく特撮が用意出来なくて、涙を呑んだだろう、カット。

藤川さんの、グビラの初稿にあたる「科学島脱出」やキャンセル台本「東京危機一髪」の延長に今回があるようにも感じますが、そうであってもなくても、ザンボラーと言う怪獣の尊厳や存在感は独自のものです。

成田さんは、これをライオンの意匠を重ねたそうです。造型はガヴァドンBの改造でした。改造怪獣は乗らないと公言しても、そこは出来る限りの仕事をしたと思います。

高山さんが大変だったのは背中の樹脂成形で、そのままだと重たいから背中に乗せる御輿のような細工をしているようです。発光を際立たせるために、倉方さんがいくつも電球を仕込んでいます。

鈴木組2本同時のもう片方は「禁じられた言葉」のメフィラス星人です。これも電飾が特徴を見せました。どうしても人気キャラクターのせいか、話題はそっちに行きますね。

では、ぼくがシナリオを読んで泣かされた場面を拾ってみます。初稿も決定稿もそう変わらないので、決定稿の方から。

 

43 池の沢

 池の沢と東京を結ぶ吊り橋の近くである。

 ザンボラーはぐんぐん歩いて来る。

 飛来するウルトラマン。その前に下り立つ。

 格斗を挑むウルトラマン。

 ウルトラマンの手がザンボラーの身体に触

 れるやいなや、ジュワと音を立てゝ焼ける

 感じで慌てて手を引くウルトラマン。

 なかなか近寄れない。

 ザンボラーは頭部を真っ赤にして怒った。

 光熱に襲われ倒れるウルトラマン。

 のしかゝって来るザンボラー。

 蹴上げるウルトラマン。

 ザンボラーのひるむ隙に背後へ廻るウル

 トラマン。ザンボラーの頭部を殴打する。

 はね飛ばすザンボラー。吊り橋を進み光熱

 を発する。

 橋を支えている鉄線が溶けて墜落するザン

 ボラー。

 川の水はジュウと唸るようにして蒸発した。

 苦悶するウルトラマン。

 ザンボラーは傷つきながら、丘を這い上っ

 た。

 やっと起き上がると飛び立つウルトラマン。

 

44 丘の上

 丘へ這い上がったザンボラーは、前方をキッ

 とにらんで動かない。

 その目が怒りに燃えてピクピクしている。

 飛来するウルトラマン。

 怒り立つザンボラー。

 ウルトラマンが両手が円を描き、やがて疾

 風の如き早業で右手を振り下すと、凍結液

 を霧の如く吹きつけた。

 それは一瞬のことであった。

 ザンボラーはカチンと凍結して動かなくな

 った。

 ウルトラマンはすかさずスペシューム光線

 を浴びせる。

 ザンボラーは尻っ尾の方から蒸発して消え

 て行く。

 残った首が前方を見詰めて、キッと睨んで

 いる。

 その視線の先に、都会の町がギッシリと平

 和な呼吸をしていた。

 静かに眼を閉じるザンボラー。その目は悲

 し気に震えた。

 

首、というのは頭部の事ですね。

最期、頭だけ残したザンボラー。それでも怒りは人間に向かう。

映像分の、体を一周する火花と炸裂のスペシウム光線は、本来は、ザンボラーの体を凍結してから完膚なく破壊していく強烈な描写の、残像でした。

可哀相です、ザンボラー。

なぜそこまで怒るのか。そんなに必死に戦って。

高潔な最期が、みなの知るところでないなんて。

竹内さんの事だから、とうにザンボラーもジェロニモンもシナリオに目を通して、映像になっていない部分も含めて好きだったんでしょうね。ジェロニモンは配下にレッドキングとゴモラですからね。

ザンボラ~!

彼の名前を、ちょっと叫びたくなりました。

ウルトラマン、この後のシーボーズの回で怪獣たちに罪の許しを乞います。罪は、心ならずも怪獣たちの命を奪った事。だから最終回にゼットンに倒される。どこかに諦めもあったんだと思います。

制作者側にしても、あまりに怪獣を生み出して、あまりに怪獣を死なせて来た行為に対するけじめもあったと思うんです。3クールは、そんな話が多いですね。

 

 

 

 

 

【画像】

 

・成田さんの描き下ろし、67年の現代コミックス「ウルトラマン 8月号」付録「大パノラマ ウルトラマン大怪獣」から、部分。

 

 

・上、ライオンにちなんで、ノーベル書房怪獣大全集第4巻「怪獣の描き方教室」から。成田さんの四つ足怪獣の説明。人間の脚は獣脚の再現が出来ないので、ひざをついたものになる。後ろ脚を立たせると腰が高くなってしまい、人間の体型がそのままになる、と言う内容。下、「大パノラマ」の全体。

 

 

・講談社67年「別冊少年マガジン4月号」から表紙を飾ったザンボラー。改造怪獣なのに一枚看板のスゴサ。やはり当時は珍しい発光体のインパクトで選ばれたのでしょう。

 

 

・講談社67年「少年マガジン 4月9日号」から、カラー口絵。最新怪獣とともに古谷敏さんの紹介。終盤なので、ビンさんへのねぎらいの気持ちもあったのでしょう。

 

 

・講談社67年「ぼくら 10月号」の付録「怪獣図解事典」から。大伴昌司の構成。

 

 

・上、図版の初出はふらんす書房の「カラー怪獣百科」から系列のミュージックグラフのフォノシート。梶田さんの絵。

下、とびだすえほんシリーズ。万創、最初はフジテレビ名義の出版だった。前村さんの絵。

 

 

・再放送以降のアイテムはけっこう、ザンボラーものがあります。ブロマイドはウルトラマンとのからみが格好良いです。下のこいでやツヤマのヘッダー付き商品、パチ感が満載ですが、正規品です。前村さんの絵。

 

 

・上、放映が終わった67年、会津博覧会に展示されたザンボラー。時期的に下の方が後なんですが。下は68年くらい。

 

 

・貸し出し先で大活躍の怪獣たち。上、ガヴァドンBが、下、ザンボラーになりました。

 

 

・拾い画像です。大和銀行の宣伝シール。「ひみつのアッコちゃん」の時期なんでしょうか。68年頃?

 

 

・本文にあるポピーの怪獣軍団。「てれびくん」の仕事で、同人メンバーの松本さんの私物とうちにあったのを合わせて特写。色を塗ったものがいくつかあります。ザンボラーは右の方。安井さんからの仕事。ああ、あの頃は楽しかったなぁ。無限に夢があって。と思わずにいられない。80年頃。これも拾い画像で(折り込み)、どなたかがスキャンしてくれたもの。誌面はもう持っていません。

 

 

・前回のケロニアの項、やっと出てきた画像。小学館の学年誌で連載されていたウルトラセブンの絵物語。「ウルトラマン」の怪獣と戦います。梶田さんの絵。文章の高梨純さん、どなたかのペンネームなんですか?

下のバルタンは、絵本あつかいの「テレビまんが大行進」。「ステッカー版」のシリーズです。