ザラブ星人の日 その1 野長瀬さんのこと | ヤマダ・マサミ ART&WORK 検:ヤマダマサミ

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ザラブ星人の日 その1 野長瀬さんのこと

1966年11月13日、「ウルトラマン」第18話「遊星から来た兄弟」の放映日でした。

野長瀬三摩地(のながせ さまじ)の共同脚本(金曜哲夫と共同)と監督作品です。

ぼくが好きな回に野長瀬さんの作品が多い理由は、1965年末に発売された放映前の「ペギラが来た!」「ガラモンの逆襲」のフォノシートを擦り切れるほど聴いたため、「ウルトラQ」ではその刷り込みで野長瀬作品がいまだにダントツなんです。

怪獣映画にも格調めいたものがあります。大風呂敷ひろげた隅々まで嘘のない世界。ドキュメンタリーのようなモンタージュが理想ですが、それでは娯楽になりませんから、ユーモアや直接事件に関係のない描写も要ります。そのバランスが好くて、登場人物も緩急そろっていて緊張とユーモアの度が過ぎない。

野長瀬演出のユーモアと言うのは、例えば、「ガラモンの逆襲」は冷徹な遊星人Qに対してドラックの運ちゃん(沼田曜一)の対比。片やゾッとするほどの美人とト書きにある優男と片やいかにもガテン系。道中、優男に主導権とられるガテン系の滑稽。ガテン系、地球侵略の任務に失敗して処刑される直前の優男に、ついに盗まれたトラックの怒り爆発、このやろ~って(笑)。

非現実と現実が重なれば人間は思いもしないリアクションをする、その間際に人間性が見えるのがいいです。

本多組や黒澤組でチーフ助監督の経験がありますから、深刻な曲面もお手の物なんでしょう。

テレビドラマの監督デビューが「銀座立志伝」と言う昼帯の人情ドラマから始まったので、「東京氷河期」は父子もの、「海底原人ラゴン」は母子もの、と決めて撮ったそうです。

「ウルトラマン」では子供ものの「沿岸警備命令」「大爆発5秒前」「電光石火作戦」が続きました。そういうのどかな物語も好きですが、やはり野長瀬監督と言うと、幻想ドラマ。ぼくの、一番のお気に入りは「バラージの青い石」。

「遊星から来た兄弟」と同様、野長瀬さんと金城さんの共同脚本です。さぞや楽しんで書いたんでしょう。ウルトラマンの先祖というのは、沖縄の自然に潜む神々でもあり、記紀神話に遡る野長瀬氏の歴史だったり、それこそ悠久のイメージが重なります。この話もフォノシートを何度もかけました。6歳のぼくは閉じた瞼の向こうに旅人のように砂漠の蜃気楼を感じたのでした。ホントですよ。

そして「遊星から兄弟」。インチキ兄弟だからブラザーの逆読み。

子供を出すのは局の方針だったのかもしれませんから、その点でもホシノくん大活躍で、幻想性も高い。まさに「ウルトラマン」の中盤を飾るに相応しい見応えのある2本組。これと翌週の「悪魔はふたたび」は本当に大好きで夢中で見ました。

 

で、<第八銀河系>ってなんだ!? てのは置いといて、ザラブ、彼らの言葉で兄弟をさす、しかも自分たちは兄だと語り、地球は幼い弟だと。

彼の使命は、たった1人で自分たち以外の文明を滅ぼしていく恐ろしいもの。

「私の狙った星は、皆互いに斗い、亡んでいった」

「私はそうする為に生まれてきた、そうすることが私の仕事なのだ。只、地球には科学特捜隊とウルトラマンがいる。此の二つをなくしてしまわないと私の思う通りに地球を支配出来ない」

「君はもう私のものだ、ウルトラマン!」

これは、なんだか、カッコイイ!

悪ですよね? 侵略者ですよね?

他の番組では、なぜか、ヒーローと戦う宇宙人はいかにも悪役顔ばかりなんですが、どうしてウルトラマン、ウルトラセブンと戦う宇宙人は格好いいのか、成田さんはこう答えています。

たった1人で地球へ来るのだからその星の勇者に違いないと。

だから、勇者に見合った格好良さがあり、孤高で、強くないといけないです。ザラブ星人、知性と狡猾、そして金属的な、不思議な格好良さです。

青野武さんの声がすごく良い。

光文社67年「少年9月号」付録のソノシートドラマ「ハットリくんの怪獣51匹大行進」で、ハットリくんが次々と怪獣を紹介します(つづけて啼き声が入る)。最後に新しい相棒ジッポウを紹介して終わります。ザラブ星人の啼き声、青野さんのセリフそのまま「第八銀河系の・ザラブ星人・はっはっはっは」というものでした。

セリフをつまんで1つにしたんですが、啼き声じゃないだろ、と思いつつもこれが忘れられません。

当時、大平透さんがゴアを自ら演じたり、愛川欽也さんの下積みで有名なロバくんの例もあったし、青野さん、自身で演じたんでしょうかね。

翻訳機を携えたザラブ星人の自尊心に充ちた表情。

宇宙局で開かれた防衛会議に列席している学者(か?)の1人に、金城さんがカメオ出演しています。自分の印を残したかったんでしょうね。良いシナリオだと思います。

ザラブ星人と対峙する地球の頭脳が土屋嘉男と言うのも贅沢ですね。キングジョーの時もそうでした。ドラマが引き締まります。

また、ムラマツキャップの毅然とした態度。科特隊の存在が試されるため今回はとくに印象深い。宇宙局職員へもザラブ星人にも忖度なし。キリッ。

「たとえ、ウルトラマンでも此の地球で暴力をふるうものとは斗わねばならない」、厳しい言葉ですね。

大人になった目で見ると芝居に唸りますが、ドラマは子供にも分かり易い。

ザラブ星人は人間の性情に迫ります。こんなに正義と悪のハッキリした回はありません。大人たちはダメですね。素晴らしい人もいますが、目の前のエサに弱い。

ハヤタを囚われの身にしたザラブ星人は、人々へ、ウルトラマンが本性を見せて暴れ出した時、科特隊は攻撃をしない、実は双方こそが地球の敵だともっていき、不信と裏切り行為で人間同士を争わせようとします。

彼はハヤタがウルトラマンに変身するにはβカプセルが必要だと知っています。ウルトラマンの能力を事前に研究していたわけです。

運良く(?)、ハヤタはβカプセルを本部に忘れ、ホシノくんが届けに来ます。これを都合よすぎるなんて思ってはいけません。

肝心なものを忘れるのは人間のサガ。かといって、ザラブ星人もハヤタを抹殺していなかったのも彼の落ち度で。その、ギスギスでないところが作品の品位です。で、どうなるかと言えば、

ハヤタの拘束を解けないホシノくんの無念の涙が金属製のベルトを溶かして、ハヤタはピンチを逃れる。

人の心がウルトラマンを手助けするんです。

どんなに科学が高い所へ行っても、人間が自らを高めないと間違いがおきる。その諫めに人間の素朴な心や自然そのものを振り返るメッセージは金城さんの徹底したところでした。

ホシノくんの涙は、ナメゴンに対する海水みたいなもの。ハヤタがβカプセル忘れるシチュエーションはフォノシートにもありました。その辺は、金城さんのアイディアでしょう。

幼少のぼくは1人遊びで、拘束されたハヤタを何度も演じました。縄でないところがミソですよ。涙で切れてしまう、金属のベルト。

 

そして、にせウルトラマンの出番!

これがカッコイイ。

もうね、悪い事をしているから嗤っている。笑うじゃないですよ。あざ嗤う、ですよ。

成田さんににせウルトラマンのマスクは新規なんですか?と聞いたら、あっさり、改造ですよと言うので、ウルトラマンを厚く抜いてガリガリ削ってポリパテで盛り上げたんですが、ぜんぜん似なかった、若かったあの頃の苦い思い出。

真相は、同じ粘土原型をいじったんでしょうね。ウルトラマンの原型は1つと思います。ビンさんのライフマスクに粘土を盛りつけたもの。

シリーズ終了まで、残していたんでしょう。そして石膏をかける度に外す際にエッジが欠けますから手を入れます。

手を入れるのは彫刻家である佐々木さんのやらないと気が済まない部分もあるんだと思います。番組終盤、最終的に満足したCタイプが最終形態です。

Aタイプ、ノアの神、Bタイプ、にせウルトラマン。同じ原型をいじって、ここで、にせウルトラマンの口にアルカイックスマイルが宿った。喜んだのは成田さんだと思います。結果、その路線でアルカイックスマイルのCタイプが生まれる。

そう見ています。

にせウルトラマンは、ウルトラマンAタイプのお古のスーツの流用で、だぼついているのがニセ者ぽい。動きがちょっとセクシーなのも良い。演じた池田文男さんはドラコもやっています。

胸と腹の赤いラインのキワに黒いライン。これはLDくらいまで影にしか見えないでした。ゾフィのトサカの黒もです。デジタル、すごいですね。

83年の成田さんの画集用に描き起こしたにせウルトラマンはちゃんと黒いラインがあって、これは成田さんが覚えていたのではなく、安井さんの指示でした。コマ焼きの写真を渡したんでしょうね。

当時にせウルトラマンはしばらく写真がありませんでした。70年代になって、竹内さんがやった勁文社「原色怪獣怪人大百科」でぼくは初めて見た気がします。

ザラブ星人、どこか憎めません。90年代後半ぐらいの朝のウルトラ怪獣を紹介する番組で、1回目がザラブ星人で、青野さんがナレーションをするんですが、私の作戦は失敗だった、と(笑)。そこまでもっていくかと朝からニコニコ顔で嬉しくなりました。

 

 

【図版】

 

・ザラブ星人のデザイン画。成田亨筆。体はラゴンのスーツの流用なのに、それを思わせない流麗なフォルム。

 

 

・等身大の時は、耳(?)を出しているザラブ星人。銀色に見える塗装はパール塗料です。デジタル画像が美しく、紫のアクセントも分かります。

 

 

・ポリの部分とラテックスの部分が一体化しているのがすごいです。口まわりから下はラテックスです。

 

 

・撮影後の三面写真。著作権申請のもの。紫の塗装はまったく消えています。爪も取れています。耳、凹んでいて、巨大時のまま。

 

 

・等身大の時。あちこち紫の塗装が吹いてあります。ポータブル翻訳機をちゃんと道具としてもって入って来る。腹に一物ある雰囲気が良いです。宇宙局の会議に出席は金城哲夫さんです。

 

 

・ザラブ星人の最後のあがき。口の下までポリのフレームになっていて、上にラテックスを貼ったことが分かります。型は同じ。巨大時の耳はこんな感じ。

 

 

・アトリエメイの風景。うしろ、バニラとレッドキング(アボラスに改造する)。ザラブ星人の頭部。垂れているバンドで脇の下で固定します。

 

 

・にせウルトラマンのアップ。細かい目の覗き穴が分かりますね。DVDでは分からなかったんですよ。デジタルリマスターすごい。

 

 

・にせウルトラマン。上、耳のでっぱり具合が分かります。下、これも目の穴がよく分かります。

 

 

・にせウルトラマン、全身。つま先、尖っています。Bタイプも尖っています。黒いライン、胸と腰のキワにあるのが分かります。体はAタイプのスーツを流用(のちにゾフィのスーツに)。

 

 

・ウルトラマン登場! 捕らわれのホシノくん、ガンバレ。

 

 

・ホシノくんを奪い合う。けっこう興奮して見てました・にせウルトラマンのトサカと後頭部が分かりますね。

 

 

・ニセマンマニアのために写真集めました。帽子の人物が野長瀬監督。なぜか、モノクロ写真の方が黒いラインがハッキリしますね。切れ長の目。もしかするとヒートプレスではなくて樹脂の一体成形かもしれないですね。目の飴色はそのまま樹脂の色ですし。目のところだけグラスファイバーを敷いてなくて。こんなかたち、ヒートプレスをとるのは大変ですよ。はめるのも大変です。

 

 

・にせウルトラマンの肖像。成田さんの絵。画集用に描いたもの。

 

 

・土星探査ロケット。<スペース・ドラゴン>と名前があります。