宇輪とクラッシュホーン | ヤマダ・マサミ ART&WORK 検:ヤマダマサミ

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主に仕事に関わる、特撮、怪獣がらみのブログです。
ときどき、猫が登場します。


80年頃。朝日ソノラマの本で高山良策さんが紹介された後、では成田亨さんは?という期待が高まりました。
成田さんは彫刻家なのにデザイナーとして、初期のウルトラシリーズに参加。高山さんは洋画家なのに造型として参加します。
その組み合わせが面白いわけです。もちろんその事は、それまでのメディアできちんと紹介されたわけじゃありません。
2人とも、作家としては、いわゆる具象ではありません。
成田さんは新制作協会の協友で新進気鋭の彫刻家であり、10才上の高山さんは前衛美術会から参加している齣展の創始メンバー。
どちらも参加審査はとても厳しいのだという。
成田さんの作風は、ご自分では前衛、抽象ではなようなニュアンスでしたが、常に造形的でフォルムの追求をテーマにしていた感があります。
高山さんの絵は、人間の記憶や深層心理、社会風刺のメタファーが多い。魑魅魍魎がそっと画面に出て来て、それは社会的弱者のようで、訴えかけて来ます。
お2人の作品展は何度も行きました。
怪獣が目的で関係が始まっても、だんだんその人の作品、作風に触れて、影響されて行きます。
すると怪獣抜きの話になります。
成田さんの海、その波頭、雲などの、画面を削り込んだような画風に惹かれます。アルバムにあったパースのついた逆三角形の彫刻も感化されました。
高山さんに到っては、晩年にずいぶんお邪魔したので、作品が生まれていく経過を見せてもらえました。
今頃になって、ああ、絵描きになれたらなぁと思いますが(笑)、お2人の影響ですよ。簡単になれませんけどね。

ところで成田さんは引っ越し魔で、高山さんも連絡先が分からない。ぼくらは怪獣の同人誌をやっていて、武蔵美の学生が居たので、学校のリストで調べられないかやってもらったけど、不明。
ある時、ライターの師匠に当たる安井尚志さんが、山田くん、成田さんと会う? と聞くので、ええーッ!と焦ったものでした。
安井さんが成田さんをどうやって捕まえたのか、分かりません。東映の劇場作品で特撮美術をやっていた頃なので、そのツテでしょうね。
ソノラマのビルの地下にある喫茶店で成田さんにお会いしたのが最初です。その後、高井戸のお宅へ2回、日野へ移ってから2,3回、伺っています。画廊でも数回。

成田さんの画集をつくる頃、ぼくは安井さんともめてしまって、疎遠になります。そうでなかったら、手伝わせてもらったはずです。「宇宙船13号」の成田特集はやらせてもらいました。
どうしても成田さんの彫刻作品を載せたくて、頼み込んで入れてもらいました。
あの号、常連ライターの造型教室という企画があって、ぼくは大魔神のラテックス人形を作っています。
で、カラーページに登場した頭に輪っかのある怪獣のインパクトに、やられましたねぇ。
頭が輪っかですよ!
そのルーツは、70年代の企画書「Uジン」にありました。

「Uジン」のキャラクターは、決定稿としての内容は1つもありません。要するにデザイン画は企画書のための寄せ集めで、やりたい事の柱に添えた感じでした。
成田さんがやりたかったのは3次元を越えた世界、つまり4次元の不思議さをビジュアルにする事で、成田さんは頭が良すぎて、周りが着いていけなかったんだと思います。
また、大人が着いていけないものを子供が理解するか?という危惧が、制作側にあったんでしょう。
実際、子供はそんなことなく、難しい事こそ、考えずに、心で感じてくれると思うのですが。
それはさておき、「Uジン」のキャラクターが「宇宙船」でリニューアルして紹介されました。この怪獣・宇輪も、あとでクリンナップする形とちょっと違います。

さらに、84年、海洋堂の企画のために、成田さんが描いたのがクラッシュホーンです。ガレージキットで登場して話題を集めました(近年、青森でやった成田さんの個展の際に、販売用に新規造型のフィギュアが用意されました)。
ネットで検索すると、自分で作っている方は他にも居ますが、版権が成田さんにあるので、商品としては手順が要るんでしょうね。
ぼくが依頼されたのは個人からです。ですので、商品じゃありません。
もしどこかで商品化してくれたら有り難いですが、その際は、きちんと成田家と契約を結んで下さいまし。
クラッシュホーンのルーツは宇輪や「円盤戦争バンキッド」の宇宙人にあります。クラッシュホーン自体の古い絵はありません。完全に、海洋堂の依頼に沿った新規制作だったんでしょう。

この輪っかの発想なんですが。
たぶん、「宇宙船」に載ったヒーロー・Uジンの解説にあるように、成田さんが産み出したウルトラマンやウルトラセブンに角を付けた事への反発があったんではなかろうか。
ウルトラの父もウルトラマンタロウも、ファンには馴染みのある格好良いデザインなのに、産みの親としては嫌悪されるものだったんでしょう。
宇宙時代の角はこんな風だ!と描いたのだと説明がありました。
Uジンの角と同様、クラッシュホーンや宇輪も、その時点で、もっとも成田さんが彫刻したかった形、という発想で産まれたんだと思います。
もしいまご存命なら、いま求めている形で描かれているはずです。

ちなみに、成田さんと安井さんの関係が良かったので、90年代、バンダイの「模型情報」や「Bクラブ」で成田さんの連載が展開しました。
その頃、デザインの素になった素材をまとめたスクラップを見せてもらいました。たとえば、タツノオトシゴの写真とバニラ、と言う風に。
そういうのを本にしたら面白いのに。
ぼくなら、もっと主観の構成を入れてしまいます。
イソギンチャクをモデルに成田さんが描いたブルトンを、高山さんは心臓に見てて、静脈と動脈の青と赤で効果を付けている。
フォルムに効果や物語性が加わって、常識を越える異次元の怪獣が産まれ、アンドレ・ブルトンから名付けられた怪獣の妙になっている。そういうデザインと造型からの分析は、当時まだ出来てません。

長くなりましたけど、これから作るのはクラッシュホーンで、宇輪じゃありませんが企画書に載っていた宇輪も紹介しておきます。$ヤマダ・マサミのブログ
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