6月、南イタリア・シチリアツアーに参加した。3年8ヶ月ぶりの海外旅行である。

 

 2017年時の5年ぶりの海外旅行ほどの不安はなかったが、8泊9日の長さ、72歳という年齢からくる疲労が気がかりだった。

欧州旅行としては初めての夜出発である。13時間のフライトはつらかったが、夜出発なので以前よりは眠ることができた感じがする。イスタンブール空港にマスクをしている人はいなかった。ここでマスクを外す。イスタンブール空港の大きさや新しさに驚きながらナポリに向かった。飛行時間は2時間15分である。すぐ、ポンペイ遺跡見学であった。

 

 2010年の3月に夫とポンペイを歩いたときは土砂降りだった。夫は杖をついていた。ツアー仲間に遅れないようにするのにイッパイだったので、今回はじっくり見た感じがする。とはいえ、人生のはかなさを感じたという点は同じである。嬉しかったのはナポリの街を歩くことができたことである。前回はカプリ島に行ったこともあり、ナポリの街はバスで通り過ぎただけだったからである。とはいっても、ナポリを感じさせるものは、狭い小路をのぞきこんだときに見える洗濯物であった。ツアーの一人が迷子になった。探すのに時間がかかり、帰りは近道をとらざるをえなくなった。道路下の暗い道である。幅30cmほどの歩道を一列になって進んだ。歩道を外れると次々と豪速でやってくる車やバイクに轢かれてしまう。転ばないように黙々と歩き続けた。20分後に無事通り抜けたときの安堵感、必死で歩いたという思いはツアー13人全員に共通していた。

 

 ナポリ泊の後、250kmをバスで行き、岩を掘って住居にしていた街マテーラの街に到着した。階段の多さは年寄りにはつらいからだろう。「売り家」の掲示が多い。午後は68km離れているアルベロベッロを訪れた。茶色のとんがり屋根と白い壁の街並みはおとぎの国を思わせる。白い壁に沿ってジャスミンが這う小路があった。香りに良いながらの散策となった。

 

 アルベロベッロ観光の翌日、シチリアに向かった。バスで400km、フェリーに20分乗船し、ようやくシチリアに上陸である。そこからバスで224km行き、人口66万人、シチリア最大の街パレルモに到着した。移動だけで1日を費やしたわけである。

 

 シチリアはどこも花に満ちていた。5月に咲かなかった花が6月に一斉に咲いたという。5月は雨続きだったというが、旅行中は晴天続きとなった。地中海最大の島シチリアは、日本の四国の約1.4倍の面積、人口約5百万人で、欧州の小国に相当する規模である。紀元前11世紀から1861年のイタリア統一まで、古代ギリシア人、古代ローマ人、ゲルマン人、ノルマン人、アラブ人などが到来・支配した地域でもある。文明の十字路と言われ、様々な文明が融合し見るべきものが多いとのことだが、このツアーは古代遺跡観光が中心だった。

 

 シチリア観光の最初はゲーテが滞在したホテルがあるパレルモの旧市街からだった。木が多く落ち着いた感じの古都である。ここから丘を上って標高310mのモンレアーレに行く。内部が豪華な大聖堂もいいが、草茂る庭の四方を、2本の柱が1組ずつ合計216本の違う模様の柱が囲む「回廊」が印象に残った。強い日差しを和らげるやさしい風が心地良かったからかもしれない。

 

 翌日はアグリジェンド観光だった。紀元前5世紀から建設されたギリシア式神殿が数多く残る「神殿の谷」を歩く。ガイドは「これらを建設した古代ギリシア人は素晴らしいが、今のギリシア人は怠け者」と解説した。アテネに住むギリシア人の友アンジェラが聞いたら何と言うだろうか。

 

 次に向かったカルタジローネでは、マヨルカ焼のタイルの模様がすべて違う142段の階段を上った。タイル職人の練習だったのだろうか。上りきるとカルタジローネの街を見渡すことができた。バスの乗降場からの往復は、自動車が引っ張る「ミニトレイン」で行われた。復路では、洗濯物翻る薄汚れた感じの建物間の坂が多い狭い小路を巧みに走り抜けた。街中ジェットコースターといえるかもしれない。

 

 翌日の午前中はラグーザを歩いた。街を貫く大通りと直角に交わるどの道も真っ直ぐである。右手は谷、左手は山が消失点となっていた。午後は、シラクーサ観光である。海のすぐそばに水が湧き出る小さな池があった。海の隣が真水というだけでも珍しい。池にはパピルスが育っていた。紙の原料と知っていても本物を見たのは初めてである。そしてアルキメデスはこの地出身であったことも知った。帰国してから見た映画インディ・ジョーンズンの最後のダイアルにはシラクーサが登場する。この地で見学したディオニッソスの耳と呼ばれる洞窟も出てきた。ちょっと興奮することとなった。

 

 旅行最終日となった翌日は、タオルミーナ観光である。タオルミーナの街は山の上にある。警備がしやすいとのことで2017年にサミットが開かれたという。崖の上に立ち地中海を見渡すことのできるギリシア劇場では、この日コンサート開催予定で機材が運びこまれていた。タオルミーナの街だけでなく、今回の旅行は石を描くことをテーマにしている私にとって、画材候補となる建物群の観光となった。

 

 旅行中初めて登場のピザの昼食後、タオルミーナから見える標高3326mの活火山エトナ山に向かった。山に入ると最近の噴火によって埋もれた家、溶岩流の跡などが散在していた。ロープウェイで標高2500m地点まで行く。それなりの装備はしていても寒い。真っ黒い火山灰を踏んでキュッシュキュッシュという音を楽しんでいると雨が降り出した。バスでの下山中は土砂降りであった。もう十分見たからいいでしょう、と言わんばかりに観光中初めての荒天であった。  

 

 日本では「ベジファーストで炭水化物は後に食べる」という流れなのに、イタリア流の食事はパスタからである。ランチと夕食14回のうち、最初にパスタが出てきた食事が10回であった。どれも味が良く、体重を心配しながら毎食完食した。帰宅すると体重は2kg増えていたが、幸いに2日後には元に戻っている。 

                         

 久しぶりの海外旅行は、ツアー仲間にも恵まれ、楽しかったという思いで終了した