土と人を繋ぐフレームワーク |  みどり色の地球

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国立環境研究所の村田智吉さんに「土と人を繋ぐフレームワーク」と題しまして、「土壌保全基本法」の草案についてお聞きしました。(動画はこちら↓)

  

土壌はいのちの基本の「基」

水、大気と並んで、これがなくては生物は地球上で暮らせません。土壌は生態系ピラミッドの最下端にあり、自然の豊かさを守るためには最も堅持しなくてはならないものです。公共財であり、また未来の方々との共有財でもあります。

また、土壌とは農産物の生産の場という意識が強いと思いますが、衣食住に必要な資源の多くは土壌に依存して生産されています。私はちょうどマット・マッカーシーの『超耐性菌』という本を読んだところなのですが、その中で「多くの抗生物質は土壌の中から発見されている」と書かれていました。予想外の宝が土壌には眠っているようです。

土壌とは「地球の表層にしかなく、近く表面の生物圏に育まれた空間」と話されましたが、語源がすべてを物語っていると思います。

 

「土」と「壌」の語源

○上の横棒ー有機物が蓄積している表層土

○下の横棒ー褐色味を帯びた下層土

○縦の棒 ー植物

つまり、下層土より下に植物が生えないことがわかっていたんだと知り、感動するものがありました。逆に言うと、生き物がいる場所を土と呼んだのかもしれませんが。

また、日本には大きく分けて10の大群で、細分化すると381に分類できるそうです。それぞれの土壌に適地適作・適地適木・適地適用があります。

 

土壌を豊かにするための法律をつくろう

土壌に関しては農林水産省・環境省・国土交通省が関わりますが、どれも汚染対策や生産性など、管理体系であり、土壌を豊かにする法律ではありません。

村田さんのお話で、土壌を豊かにしていくための国際的な盛り上がりは2015年にむけて高まっていたということを知りました。村田さんたちSSIL(Soil Survey Inventory Forum)の皆さんも2013年から「土壌保全基本法」草案に向け取組まれました。その夢、熱意に触れることができたのは今日の一つの収穫です。法律とは無関係の専門家が集まって、一からつくった草案です。

 

健康な生活は健康な土壌から。スポーツ推進基本法のように、健康になることを目的に誰もが共感できるような罰則等なしの基本法を目指しました。水や大気同様、土壌に対する公共財としての価値の認識、土壌への理解、そして人との関係の有り様について明文化していきました。

土壌の豊かさの大切さや、守っていくための共感を開発者にも農業者にも得て、国民まるごとで取り組めるような素案づくり。現在、メンバーのご不幸などもあり、活動休止中、残念ながら草案の実現には至らず現在があります。

 

国際的にも2015年をピークにトーンダウンに

トーンダウンは国際的な動きでもあります。

1982年にFAOが「世界土壌憲章」を公表し、初めて土壌保全に関する世界的コンセンサスがとれました。その頃はまだ人口増に対する「生産性」のためのものでした。

2000年以降はFAO、IUCN、UNCCDなどが世界の土壌保全枠組みづくりを牽引していき、

2013年には世界土壌デー(12月5日)が制定され、2015年を「国連国際土壌年」とすること、2015年に「生産性」という視点から「共存・共生」の観点が盛り込まれた「改訂世界土壌憲章」を公表することを決定しました。

しかし、その前年2014年にEUの「土壌枠組み指令案」を英独仏蘭が反対し否決。一番の否決の理由は、汚染土壌の修復に関して、対策案が行き届いていない国にはいいが、既にある国には更なる対策にお金がかかることが懸念され、政治家が反対したようです。

2015年には当たり前のように「国際土壌枠組み条約」が制定されると期待されていたけれども、このEUでの否決で空気がガラッと変わってしまったのです。

 

SSIF(Soil Survey Inventory Forum)の活動

活動は2013年から2017年(2013-2015はトヨタ財団研究助成プログラム)。土壌学、土壌分析・調査・分類学、倫理学、時には地理学、哲学など、様々な大学教員、また公務員、出版業界、大学院生なども巻き込みながら皆で考える場を作ってきました。

①土壌を理解すること、土壌を知ること。

②土壌を仕分けること、土壌の価値を見出すこと。

③人と土壌の関係のありようについて考えを展開すること。

を大きな3つの柱として活動し、その具体的成果として「土壌保全基本法」の草案をつくることとしました。

他国の先進事例や日本の多様な地勢条件に適した土壌保全のあり方など模索していきました。

まさか2014年、EUで土壌枠組み指令案が否決されるとは思わず、同年4月に大々的な国際ワークショップを東京で開催しました。そこでは国際土壌年2015に向けたアクションプランの検討なども行われました。2015年も京都でミシガン州立大学のトンプソン教授をお招きしてシンポジウムを開きました。

村田さんの取材されたタイの自然資源に対する先進的な姿勢が意外でした。東南アジアの中ではかなり先進的な部類に成長しているそうです。法制度やその設立背景などを取材したそうですが、土壌のインベントリーの確立もされ、土壌の博物館もあるということで、学術的にも私の関心が高まりました。

 

「土壌保全基本条例」草案

前文だけご紹介します。もっとお知りになりたい方はDMでコメントください。限定で動画もありますし、土壌保全基本法草案他、様々資料も頂いています。

このような法制度や行動計画が制定されれば、それを所管する部署ができます。部署が設置されれば、様々な施策・仕事が生まれます。

 

土壌に関するこれから

ここにきて、土壌が劣化してきていることが随分とニュースになっています。1分で17haが失われているそうです。失ったり、少なくなったものは市場原理では価値が高まるはずです。いえ、そうでなくては困ります。劣化していると言われる土壌に関しては、これから価値の再認識の気運が高まってくるに違いありません。専門家らの再燃に期待しつつ、私たちのような一般人の(そうだ!政治家も)意識の醸成をはかり、周りからも盛り上げていかなくてはなとも思いました。

気候変動のように危機になってから動くのではなく、予防原則、計画的な取組みが必要です。

村田さんのお話をお聞きして、やっぱり水・大気同様、土壌の豊かさを守るべき法律が必要だと思いました。