
1961年発表。。ヒューゴー賞、ローカス賞受賞。
文庫1冊、781ページ
読んだ期間:9日
[あらすじ]
宇宙船ヴィクトリア号で帰った”火星から来た男”は、第一次火星探検船で火星で生まれた、ただひとり生き残った地球人だった。
世界連邦の法律によると、火星は彼のものである。
この宇宙の孤児をめぐって政治の波が押し寄せた。
だが、”火星から来た男”には地球人とは異なる思考があり、地球人にはない力があったのだ。
(巻末あらすじより)
最近は手抜きであらすじを自分で書かなくなってしまい、今回は巻末あらすじを丸ごと写させて頂きましたm(__)m
さて、御大ハインラインが54歳の時に発表された本作は、宗教界に多くの物議を醸した作品。
ハインライン自身はわざとそれをやっているわけで、それは巻頭1ページ目に「この作品に登場するすべての人物、神々、天体は空想の産物である。名前の偶然の一致があったとすれば、あいにくなことである。」と言う1文からもうかがい知れます。
本書の主人公で”火星から来た男”=ヴァレンタイン・マイケル・スミスは20台前半の青年。
あらすじにあるように、最初の火星探検隊の隊員の間に生まれた人間で、長らく火星人に育てられ(作品世界には火星人が当たり前のように存在しています)、地球に帰って来た直後から物語が始まります。
本書前半は、地球も人類もその習俗も何も知らない純真無垢なマイクが、一部の人間たちとの接触を深めて行き、徐々に人類とは何かを知っていく過程。
火星人の考え方が刷り込まれたマイクは、人類の行いが不思議でしょうがない。
火星人の生態の一部まで引き継いだマイクは、仮死状態となって沈思黙考を繰り返す。
言葉を覚える事から人間生活、男女の相違などを徐々に覚えて行き、自分が何を成すべきかにたどり着く。
そして本書後半に、自分の成すべきことを確信したマイクは協力者の元看護婦ジルと共に数々の職業に就きながら経験を積み、ついには「世界のすべての教会」を設立。
教祖として布教を始めるが、数々の宗教から糾弾を受け、最後には怒れる群衆の前に無防備で一人立つ…
こんな流れになります。
(結局あらすじらしき事書いた(^^;)
火星人の生態と言うのがかなり変わっており、死と生の境界がありません。
死は肉体のくびきから解き放たれた最終ステージのようなもので、彼らは長老と呼ばれ、生きるもの達から尊敬され、また彼らを導く存在になります。
そのため、彼らの抜け殻である人体は、その時点でただの肉の塊にすぎないので、生きるもの達はありがたく頂く。
人類では禁忌となる人肉食が当たり前の世界。
また、すべて共同であるため、経済活動が無い、究極の共産主義社会が確立しているので、マイクは最初、お金の概念が良くわかっていなかった。
さらに、火星人は不要なもの(悪)を消し去る力(物理的に物体を消滅させる)や物体を動かす力やテレパシーも持つ超能力者で、マイクもその力を引き継いでいる。
これらの力を奇跡としてあらわす事で、後半の教祖としての尊敬を勝ち取る事にもなります。
後半部で、マイクが説く教義は汎神論。
生きとし生けるものは全て等しく神であるという思想で、キリスト教のような一神論との対立を深めます。
マイクが地球上の父として慕う、弁護士・医師・作家でもあるハーショーは、その言葉の中で聖書の矛盾を激しく非難しています。
この老学者ハーショーはハインラインの映し鏡のような存在に思えます。
さらに経済活動を無意味とし、フリーセックスも否定しない、生きてるうちは楽しく過ごせ的な教義はヒッピー達に大いに受け入れられたそうで。
ラストで、マイクは壮絶な肉体的最期を遂げますが、それを見ているマイクの友人達はとりたててあわてるわけではなく、ひとつの過程が経過し、自分達は新たな任務のため、微笑みながら旅立って行きます。
このあたりのおぞましさは格別。
まぁ、マイクにとって肉体の死は更なる上のステージへのステップ過ぎないし、マイクの友人達(水兄弟と言う)にとっても分かりきった事なので、悲しむべき事と言うよりも卒業を喜ぶようなもの。
とは言え、読んでる方はやっぱり不気味な印象を覚えます。
本書はハインラインが描いた新新約聖書のようなものでしょうね。
ここからはグチです。
本書は決してつまらない小説ではないですが、とにかく読みづらい本です。
1冊で800ページ近い厚さと重さ。
活字が小さく行間が狭いので見るのが大変。
訳が古すぎて台詞に違和感がある。(若い女性が「わたし○○しちまいましたわ。」とか、その当時でも言ってないと思う)
直訳のままっぽい箇所が多く、台詞がくどい。(たぶん"I Think so"を「わたしはそう思う」と書いてある箇所が多い。「そうだね」くらいでいいと思う。)
台詞のやり取りがやたらと多く、言い回しも回りくどいので何が言いたいのかわかりにくい(これも直訳っぽいせいか)。
なので、新訳で活字を大きく、行間広く取って上下巻にしたらかなりの良書になると思うんだけどな。
(この1冊で1680円するんで、1巻800円で2巻で1600円でも良いじゃないかって気がする)
まぁ、古典SFを読む場合は、これは覚悟の上で読むべきだと言われれば、その通りではあります。