2011年発表。
単行本2冊、640ページ
読んだ期間:4.5日
[あらすじ]
1951年。
26歳のニコライ・ヘルは戦争犯罪人として裁かれる育ての親、岸川将軍の名誉を守るため、彼を殺害し巣鴨刑務所に収監されていた。
CIAのダイアモンド少佐らに激しい拷問を受けていた彼の元に、同じくCIAのハヴァフォードが訪れある作戦への参加を依頼される。
それは、中ソの連携に楔を打ち込むため、在中国の顧問であるKGBのヴォロシェーニン暗殺だった。
かつてニコライの母への裏切りを働いたヴォロシェーニン暗殺はニコライにとっては望まれるものでもあった。
ニコライはカバーとなるフランス人武器商人になりきるための徹底的な訓練を済ませ中国に潜入する。
しかし、彼の素性は徐々にヴォロシェーニンに知られて行く。
さらにアメリカ側にも彼を嵌める罠が進行していた…
本書は傑作冒険小説、トレヴェニアンの「シブミ」の前日譚。
若い頃、「シブミ」が大好きだったウィンズロウは、出版社からの薦めに従い、ニコライ・ヘルの若い頃の話を書き上げたわけです。
わたし個人は「シブミ」を読んでいないので、本書がどれだけ「シブミ」の世界観や主人公ニコライの人間性などを踏襲しているのか比較が出来ないので、あくまで本書のみの印象をまとめてみたいと思います。
ニコライはロシア人貴族の母親とドイツ人男性の間に生まれた私生児で、生まれは上海、その後日本に渡り、岸川将軍の庇護の下、日本的な精神を心に取り込んで現在に至ります。
「裸-殺」と言う体術の達人で囲碁を嗜む、冷静沈着でものに動じない強い精神の持ち主。
彼が初めて殺めた人は父親代わりの岸川将軍。
あらすじに書いたようにA級戦犯として不名誉な死を迎える事を恥るものの切腹すらままならない岸川将軍に引導を渡した事になります。
そして本書で行うミッションはそんな彼が初めて携わる暗殺作戦。
上巻では美しいフランス語教官ソランジュによる徹底的なフランス人化教育と中国潜入からヴォロシェーニン暗殺までが、
下巻では中国脱出から自分を嵌めた者への反撃までが描かれています。
上巻は比較的ゆっくりとした展開、下巻は激しい戦闘と言うメリハリが利いています。
ウィンズロウは主人公のニコライを若い未経験な暗殺者として描こうとしたんじゃないかと思います。
「シブミ」のニコライは50歳くらいらしいですが、そんな彼の若さゆえも過ちを描くために、ソランジュへの強い愛情を持ち込んだ。
その愛情は、子供じみた嫉妬心につながり、自分の身を決定的な危機に落ち込ませてしまう。
それが「シブミ」とどのぐらいの整合性が取れているのかちょっと気になります。
ニコライが体術の達人なのは記述がありますので理解できますが、小火器の扱いや特殊工作のスキルなどは特に記述が無いので、上巻の暗殺作戦への対応や下巻に出てくる銃撃戦での銃の扱いっぷりの説明がちゃんとついてるのかどうか…
また、謎の暗殺者「コブラ」の意外な正体と唖然とするほどの決着ぶりもどうなのか。
読んでいて頭によぎるのは、最近の007映画。
なんとなくダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドのシーンが浮かんできました。
(「カジノ・ロワイヤル」のポーカーで大逆転するシーンとか)
もしかするとウィンズロウは本書をアクション映画の原作としたかったのかもと思います。
クールでストイックでハンサムな主人公と美しい恋人と激しいアクション。
確かに映画化すればある程度は当たりそうだからそう思っても仕方ない。
まぁ、著者と言うよりは出版社がそれを目指すでしょうけど。
実際、ウィンズロウは前作「フランキーマシーンの冬」が映画化決定してるので、本作も、と望んでもおかしくない。
ただ、何だろう、ちょっと物足りないと思ってしまう。
何と言うか本書の展開は分かり易過ぎる気がする。
思ったほどクセもない。
ボリュームも手ごろな読み安さ。
正直言って文庫化されるまで待っても良かったかも。
「犬の力」ほどのパワーは残念ながら感じませんでした。
今後、ニコライのキャラはウィンズロウが引き継いで続編を書いて行くのかも知れません。
本人はその気満々らしいので、本書が当たり、映画化でもされれば正にそうなると思います。
その時は、読んでてイヤになるくらい深い話を書いて欲しいですね。

単行本2冊、640ページ
読んだ期間:4.5日
[あらすじ]
1951年。
26歳のニコライ・ヘルは戦争犯罪人として裁かれる育ての親、岸川将軍の名誉を守るため、彼を殺害し巣鴨刑務所に収監されていた。
CIAのダイアモンド少佐らに激しい拷問を受けていた彼の元に、同じくCIAのハヴァフォードが訪れある作戦への参加を依頼される。
それは、中ソの連携に楔を打ち込むため、在中国の顧問であるKGBのヴォロシェーニン暗殺だった。
かつてニコライの母への裏切りを働いたヴォロシェーニン暗殺はニコライにとっては望まれるものでもあった。
ニコライはカバーとなるフランス人武器商人になりきるための徹底的な訓練を済ませ中国に潜入する。
しかし、彼の素性は徐々にヴォロシェーニンに知られて行く。
さらにアメリカ側にも彼を嵌める罠が進行していた…
本書は傑作冒険小説、トレヴェニアンの「シブミ」の前日譚。
若い頃、「シブミ」が大好きだったウィンズロウは、出版社からの薦めに従い、ニコライ・ヘルの若い頃の話を書き上げたわけです。
わたし個人は「シブミ」を読んでいないので、本書がどれだけ「シブミ」の世界観や主人公ニコライの人間性などを踏襲しているのか比較が出来ないので、あくまで本書のみの印象をまとめてみたいと思います。
ニコライはロシア人貴族の母親とドイツ人男性の間に生まれた私生児で、生まれは上海、その後日本に渡り、岸川将軍の庇護の下、日本的な精神を心に取り込んで現在に至ります。
「裸-殺」と言う体術の達人で囲碁を嗜む、冷静沈着でものに動じない強い精神の持ち主。
彼が初めて殺めた人は父親代わりの岸川将軍。
あらすじに書いたようにA級戦犯として不名誉な死を迎える事を恥るものの切腹すらままならない岸川将軍に引導を渡した事になります。
そして本書で行うミッションはそんな彼が初めて携わる暗殺作戦。
上巻では美しいフランス語教官ソランジュによる徹底的なフランス人化教育と中国潜入からヴォロシェーニン暗殺までが、
下巻では中国脱出から自分を嵌めた者への反撃までが描かれています。
上巻は比較的ゆっくりとした展開、下巻は激しい戦闘と言うメリハリが利いています。
ウィンズロウは主人公のニコライを若い未経験な暗殺者として描こうとしたんじゃないかと思います。
「シブミ」のニコライは50歳くらいらしいですが、そんな彼の若さゆえも過ちを描くために、ソランジュへの強い愛情を持ち込んだ。
その愛情は、子供じみた嫉妬心につながり、自分の身を決定的な危機に落ち込ませてしまう。
それが「シブミ」とどのぐらいの整合性が取れているのかちょっと気になります。
ニコライが体術の達人なのは記述がありますので理解できますが、小火器の扱いや特殊工作のスキルなどは特に記述が無いので、上巻の暗殺作戦への対応や下巻に出てくる銃撃戦での銃の扱いっぷりの説明がちゃんとついてるのかどうか…
また、謎の暗殺者「コブラ」の意外な正体と唖然とするほどの決着ぶりもどうなのか。
読んでいて頭によぎるのは、最近の007映画。
なんとなくダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドのシーンが浮かんできました。
(「カジノ・ロワイヤル」のポーカーで大逆転するシーンとか)
もしかするとウィンズロウは本書をアクション映画の原作としたかったのかもと思います。
クールでストイックでハンサムな主人公と美しい恋人と激しいアクション。
確かに映画化すればある程度は当たりそうだからそう思っても仕方ない。
まぁ、著者と言うよりは出版社がそれを目指すでしょうけど。
実際、ウィンズロウは前作「フランキーマシーンの冬」が映画化決定してるので、本作も、と望んでもおかしくない。
ただ、何だろう、ちょっと物足りないと思ってしまう。
何と言うか本書の展開は分かり易過ぎる気がする。
思ったほどクセもない。
ボリュームも手ごろな読み安さ。
正直言って文庫化されるまで待っても良かったかも。
「犬の力」ほどのパワーは残念ながら感じませんでした。
今後、ニコライのキャラはウィンズロウが引き継いで続編を書いて行くのかも知れません。
本人はその気満々らしいので、本書が当たり、映画化でもされれば正にそうなると思います。
その時は、読んでてイヤになるくらい深い話を書いて欲しいですね。
