執筆:1307~1321年頃?
文庫1冊、509ページ
読んだ期間:3.5日
最初は、「神曲」3部をまとめて書こうと思いましたが、長くなりそうなのでそれぞれで別に書くことにしました。
とは言えまずは全体通しての予備知識。
ダンテ(これは名の方で姓はアリギエーリ)はイタリアはフィレンツェ生まれの詩人であり政治家でもあった人。
1265年頃生まれ、1321年、56歳で亡くなってます。
世界史では神聖ローマ帝国の時代、日本では鎌倉幕府の時代。
さすがに歴史を感じさせる時代です。
引き続いて、超簡単なあらすじを。
[あらすじ]
愛してやまなかった憧れの女性、ベアトリーチェの早世(25歳)から10年。
35歳になったダンテは、自堕落な生活を送っていた。
彼の人生を不憫に思ったベアトリーチェは、ダンテが詩の師匠と尊敬のやまないウェルギリウスに、ダンテを天国まで導いて欲しいと依頼。
死後、地獄の辺獄(リンボ)で暮らしていたウェルギリウスは彼女の依頼を受け入れ、暗い森をさまよっていたダンテを天国まで導く。
ダンテは、地獄、煉獄、天国を旅する事で、自分の人生を見つめなおし、信仰と神への愛を新たにしていく…
という内容です。
「神曲」という題名は森鴎外が付けたもので、実際にダンテが付けたのは「喜劇」という意味合いの題名。
最後は天国にたどり着き神の恩寵を受ける、ハッピーエンドの物語という意味だそうです。
ただ、日本人には「神曲」があまりにも定着していますね。
わたしもこの題名好きです。
ではこの後は「地獄篇」について、その構造を「天国篇」の巻末あとがきから転載させてもらった上で、感想などを挙げて行きたいと思います。
<地獄の構造>
9つの圏谷(たに)からなる構造。
ダンテが巡る順に、
①地獄の門
②第一の圏谷(辺獄):洗礼を受けていない者が落ちる
③第二の圏谷:肉欲の罪を犯した者が落ちる
④第三の圏谷:大食らいの罪を犯した者が落ちる
⑤第四の圏谷:金を溜め込んだ者と費い過ぎた者が落ちる
⑥第五の圏谷:怒り狂った者が落ちる
⑦ディースの市(まち)
⑧第六の圏谷:異端の者が落ちる
⑨第七の圏谷:暴力を用いた者が落ちる
…その原因により3つに分かれる
1)第一円:他人に対して
2)第二円:自分に対して
3)第三円:神と自然と技法に対して
⑩絶壁
⑪第八の圏谷:欺瞞の罪を働いた者が落ちる
…ここには罪により10種類の「悪の濠(マルボルジェ)」というものがあります(以下の10種)
・女衒
・阿諛追従
・聖職売買
・魔術魔法
・汚職収賄
・偽善
・窃盗
・権謀術策
・分裂分派
・虚偽偽造
⑫巨人の坎(あな)
⑬第九の圏谷(コキュトス):裏切りを働いた者が落ちる
…その原因により4つに分かれる
1)第一円(カイーナ):肉親を裏切った
2)第二円(アンテノーラ):祖国を裏切った
3)第三円(トロメーア):客人を裏切った
4)第四円(ジュデッカ):恩人を裏切った
⑭悪魔大王
となります。(携帯電話の方、見難くて申し訳ないです)
ダンテとウェルギリウスはここを24時間で巡ります。
①ではあの有名な「われを過ぎんとするものは一切の望みを捨てよ」の文言があります。
また、ここには三途(アケロン)の川があり、渡し守のカロンが亡者どもを恫喝しながら乗せて行きます。
②は実は地獄というよりも、一時待避所のような印象。
緑多い森といったところで別段、住み難くもないところ。
ここには人間は善良ながらもキリスト教の洗礼を受けていない者が落ちています。
主な人物としては、ダンテを導く師匠ウェルギリウス、「イリアム」等の著作で有名な大叙事詩家ホメロス、ソクラテス、プラトン、アリストテレス、デモクリトス、ディオネゲス、ヘラクレイトス、ゼノン、セネカ、ユークリッド、プトレマイオス、ヒポクラテスなどなど。
有名人がたくさんいます。
彼らがなぜこんなところにいるかと言うと、かれらの生きていた時にはキリスト教が誕生していなかったから!
これはいくら何でも酷くないかなぁ、というのが正直な感想。
洗礼受けようにも、キリスト教自体が無いんだからどうしようもないじゃんか!
じゃあ、洗礼を受ける前に死んだ子供たちはどうなるの?
(子供もここにはいます)
ちょっと心が狭くないか、キリスト教。
ただ、「天国篇」ではこのあたりの解釈に一定の回答が与えられています。
③では、罪状認定を行うミノスというのが現れます。
仏教で言う閻魔大王みたいなヤツですね。
ここにいる代表的な者は、トロイア戦争の引き金となったヘレナ、クレオパトラなど。
絶えず吹き荒れる風にさいなまれています。
④では、ケルベロスが亡者を食い散らかしてます。
また冷たい雨や雹、雪が亡者を打ち倒します。
⑤では、吝嗇家と浪費家がお互いに永遠に殴りあいをさせられます。
ここと⑥の間にあるのがステュクスという沼(川)。
⑥ここに落ちた者たちはステュクスの中で泥まみれになりながらお互いを傷つけ合っています。
⑦には悪魔の棲む市(まち)ディースがあり、千人からの悪魔がたむろしています。
⑧ここに落ちた者は、火を吹く墓に入れられたりしてます。
生前に権力を私物化した聖職者なんかが落ちてます。
⑨からは、罪の種類がさらに細かくなり、それによって罰が変わって行きます。
⑨には、ミノタウロスやケンタウロスなど神話の世界の人獣が出てきます。
その中で、第一円に落ちた者は、煮えたぎる血の川に浸けられます(血の池地獄ですね)。
アレクサンドロス大王なんかが落とされてます。
第ニ円に落ちたのは自殺者と財産を食いつぶした者が落とされます。
前者は樹にされ、後者は黒犬に噛み付かれる罰が与えられています。
第三円に落とされた者は熱砂の上で火の雪を浴びせられます。
また男色家もここに落とされており、現世でのダンテの師ブルネット・ラティーノがここに落とされています。
⑩には虚偽瞞着の権化、ゲリュオンという怪物が現れ、ダンテたちは怪物の背に乗って次の第八の圏谷に降りていきます。
⑪にある「悪の濠(マルボルジェ)」は10に分かれており、それぞれに見合った欺瞞の罪に合う罰が与えられています。
女衒の罪には、鞭打ち、
阿諛追従の罪には、糞尿浸け、
聖職売買の罪は、穴に頭から入れられ足に火を点けられ、
魔術魔法の罪は、頭を前後逆(顔が背中を向いてる)に付けられ、
汚職収賄の罪は、煮えたぎる瀝青(チャン=コールタールみたいなもの)に浸けられ、浮かんでくると鬼(下級悪魔)に二股の肉刺しフォークみたいなもので突き刺され押し戻され、
偽善の罪は、金メッキされた鉛の外套を着せられ重さに苦しみ、
窃盗の罪は、無数の毒蛇にかまれ燃え上がったり、蛇に変身させられたり、
権謀術策の罪は、炎に包まれ焼かれ、
分裂分派の罪は、体を二つに裂かれ、
虚偽偽造の罪は、様々な病気が与えられています。
魔術魔法の罪には占いや予言も含まれているので、占い全盛の日本ではここに落とされる人が大量にいそうです。
ノストラダムスもここに落とされそうですね。
ただしあの詩が予言詩ならばですが…
権謀術策の罪にあっている者の中には、トロイの木馬で有名なオデュッセウスとディオメデスがいます。
しかしあれがこんな罪にあうというのはちょっとかわいそうですね。
彼らだって事情があってやった事なんですが…
分裂分派の罪にあっている者の中にはイスラム教の預言者、マホメットがいます。
彼は首から股までを一刀両断されはらわたがこぼれるのを目の当たりにさせられ、直ぐに復活した後、また同じ罰を与えられるというのを繰り返すという過酷な目に合わされています。
キリスト教が他教に対していかに容赦無いかがわかります。
これでは現代に平和は来ないだろうなぁ、とも思いますが、「神曲」はイスラム圏でも出版されているそうです。
どういう心境で読んでるのか…
また、イギリス王室に反目を起こさせたというベルトラン・ド・ボルンは、切断された自分の首を掴んで歩き回っています。
ブロッケン伯爵みたいだな。
虚偽偽造の罪の中で最も重大なのが貨幣偽造の罪。
当時、貨幣偽造により経済が混乱させられたため、特に重い罪になったそうです。
今でも○朝鮮が国策でやってるとか言いますが、○正日はここに行く事に決定かな。
⑫には、ギリシャ神話の巨人たちがうごめいています。
「神曲」の中心はキリスト教ですが、こうやってギリシャ神話も取り込んでいるので、ゼウスなどの話も出てきます。
神が複数いる事になりますが、いいのかなぁ。
ちょっと整理しきれていない感じがこういったところから伺えます。
⑬でいよいよ最後の圏谷に来ました。
ここは悪魔大王(サタン)の息吹と羽ばたきで凍り付いています。
第一円では、氷付けにされ、
第二円では、凍った川の中に額までつけられ、
第三円では、さらに冷え、目や涙までもが凍りつきます。
さらに、現世でまだ生きているにもかかわらず、魂のみが事前にここに送られ罰を与えられています。
第四円は地獄の底であり、ユダの国、ジュデッカと呼ばれています。
全身カチンコチンの氷付けになっています。
⑭そしてここ、地獄の最下層にいるのが悪魔大王=サタンです。
かれは上半身だけ地面の上に出しています。
頭に3つの顔、3対の羽を持つ巨人です。
永井豪の「デビルマン」の魔王ゼノンの容姿ですね。
彼の3つの口には、一人ずつ、大罪を犯した者が噛み砕かれており、
一人はキリスト教最悪の大罪者、イスカリオテのユダ、
あとの二人はローマ帝国最大の裏切り者、ユリウス・カエサルを暗殺したブルトゥスとカシウス。
ダンテにとっては宗教界の最高権威であるローマ教会と、世俗の最高権威であるローマ帝国という2つの権威が最も重要であるとの考え方に則っており、その二つそれぞれに対する大罪者が最も罪深いと考えたようです。
わたしのようなキリスト教信者でない者からすると、ユダはともかくブルトゥスとカシウスはただの政権争いくらいにしか思えないんですがねぇ。
しかし、良く考えると悪魔大王にとってはユダは仲間じゃないのかな?
何かこの変もちょっと微妙…
で、ここで、悪魔大王の体を伝って足のほうへ下りて行き、その下から180度回転すると煉獄の山につながる、というところで「地獄篇」終了です。
「地獄篇」は3部の中でも一番分かりやすいです。
罪と罰が非常に具体的で詩的表現もそれほど難しくないです。
また、地獄というのは大体どこの国、宗教でも似たようなものなので、イメージしやすいというのもあります。
あいだあいだで感想を差し挟んだように、ちょっと考え方に付いていけない箇所もありますが、全体的に面白く読めました。
というところで、次は「煉獄篇」に入ります…
