eスポーツと賭博罪及び景品表示法 | 麻雀プロ弁護士津田岳宏のブログ

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麻雀の話とか法律の話とか

既に海外では一大市場となっているeスポーツは、日本でもムーブメントを起こす可能性のあるものだ。

賭博罪を専門とする私はeスポーツに関する相談を受けることも多い。
 
eスポーツで賞金を出す場合、賭博場開張図利罪との関係で問題になるのは賞金の出所である。
賞金が出るからといって、賭博罪はただちに成立しない。
賭博罪が成立するために、勝者が財産を得て、敗者が財産を失い、さらに勝者が得る財産と敗者が失う財産が「相互的な」関係であることが必要である(相互的得失の要件)。
eスポーツにおいては、参加者の参加費が賞金に充当される場合は相互的得失の要件を充たし賭博罪が成立するが、賞金がスポンサーから出る限りにおいては賭博罪は成立しない。
「お前ら今からジャンケンしろ。勝った方に俺が1000円をやる」
このスキームならば賭博罪は成立しない。
なお、参加費を取ったとしても、それが会場費に充当されており賞金にまわっていない場合は賭博罪は成立しない。将棋のアマチュア棋戦など、このようなスキームでおこなわれている大会は多々ある。
このあたりは、過去記事(賞金付ゲーム大会と賭博罪)で書いたとおりである。
 
なお、賭博罪は風紀に対する罪であるため、対象となっているゲームの性質も問題となってくる。
対象が一般に賭博の道具として使われやすいものであるゲームである場合は問題になりやすいが、そうでない場合は問題になりにくい。
たとえば対戦型格闘ゲームなどは、これが賭博の道具として使われることは一般にほとんどないのであるから、これの大会に高額賞金を出されたとしても当局が賭博罪との関係について目を光らすことは考えがたい。
 
eスポーツにおいては、賭博罪のほか、もうひとつややこしい法律との関係が問題となる。景品表示法である。
景品表示法の趣旨は「一般消費者の自主的かつ合理的な選択の確保」である。風紀の観点から賭博を規制する賭博罪とは全く性質の異なる法律だ。
同法は、「顧客を誘引するための手段として」「事業者が自己の供給する賞品又は役務の取引に付随して」「相手方に提供する経済上の利益」の金額を規制する(上限10万円)。
たとえば、メーカーが自己が販売しているゲームの大会を主催する場合等には、景品表示法との関係が問題になりうる。
 
消費者庁表示対策課長が著した「景品表示法(第3版)」(商事法務)によれば、「付随して」とは「商品の購入により経済上の利益の提供を受けることが可能または容易になる場合」が含まれるとされている。
とすれば、たとえばメーカーが技術を要する対戦型ゲーム等で賞金付大会を主催する場合は、当該ゲームを購入することで賞金を獲得する可能性が高まるともいえ、景品表示法の規制を受けることになりそうにも思える。
 
ただ、eスポーツが景品表示法の規制対象になるという結論は専門の法律家としてはしっくりこない。
景品表示法は、もともとは高度経済成長期に,チューインガムで1000万円が当たる等の過度の懸賞が社会問題になったことを受けて制定された法律である。そこには、懸賞目的で商品を買わせるのは不当である、との思想がある。
たしかに上記のような懸賞は、ガムを買わせるための過度なキャンペーンであった。
しかしeスポーツにおいては、対象となっているゲームを個別のユーザーに買わせる目的というよりは、ゲーム自体の裾野を広げ認知度を高めるという目的が強いであろう。
個別の取引付随性を有せず、商品や事業者の注目を高めるために経済上の利益を提供するのは「オープン懸賞」と呼ばれ、これの懸賞金額に規制はない。上記「景品表示法(第3版)」にもその旨記載されている。
すなわち高額賞金を出す「オープン懸賞」の結果、商品や事業者が結果的に注目を浴びて購入されることは景品表示法の規制対象ではない。
規制対象になるかどうかは、個別取引との「付随性」があるかどうかで判断される。
「付随」とは、主たるものに従たるものがつれること、を意味する。
とすれば、個別の懸賞について取引付随性があるかどうかは、当該懸賞について個別取引が主になっているか、懸賞自体が主になっているか、で判断すべきものと考えられる。
上記チューインガムの懸賞の例は、ガムを買わせることが目的であり、ガムの取引が「主」であることは明らかだ。取引付随性があるのは明白である。
しかしeスポーツにおいては、競い合い勝者を決める過程を客に鑑賞させるという点がメインであり、対象となっているゲームを購入させることが「主」であるとはいえない。
とすればeスポーツの大会について「取引付随性」ありとして景品表示法の規制対象となるのは不当とも考えられるものである。
 
過去記事(景品表示法)でも書いたが、景品表示法は曖昧な内容であり、明確性の原則からかなり問題がある法律である。
こういう曖昧な法律の萎縮的効果によって有意なイベント開催が阻害されるというのは、個人的に不愉快極まりない。
専門家として、不当に思われる規制については積極的に弁護していきたい。
 
なお上記の例は、メーカー自体が大会を主催する場合を想定している。
ゲームのメーカーや販売者以外の第三者が賞金を提供する場合は、事実上当該メーカー等から賞金が拠出されているとみなされない限り、景品表示法の規制対象にはならない。