#5

 

 

『仲間が真っ二つになるのを

目の前ではっきりと見ても

微塵の動揺もなかった。

いくら鍛えられた暗殺者であろうとも

血が流れる人間である以上

あんなことはあり得ない。

一体あれは何を信じ

どんな力を秘そめているのか。』

 

彼女の揺れる瞳孔と

笑って見守っていた男の瞳孔が合った。

冷温動物を連想させる目だった。

血液がすべて抜けたような肌色で髪の毛が赤い男は

腕を組んだまま歩きながら言った。 

      

「何それ?その病気で老いぼれた体で今何をした?

そういえば、さっきも何かそのような技を使ったような気がするな。

さっき死んだ女と

俺が腹立ちまぎれに頭をちぎってしまった子供な。

その時は勘違いかと思ったけど

わあ!今ちゃんと見たぞ。

何をどうした?

あの石より硬い体を

まるで雪だるまみたいに一発で粉々にしちゃったな?

急に殺すのがもったいなくなるね?」 

 

男の話を聞いた少女が

隣に落ちていた剣を握って立ち上がり叫んだ。

 

「お母さん!諦めないでください。

私たちは美霊姉さんが来るまで耐えられます!

少しだけ頑張ってください!」 

 

老婦が首を回して少女を見ると

少女は全身が血まみれでありながらも剣を敵に向け

敵を睨みつけていた。

少女の眼差しには

生まれたばかりの子を守る猛獣のように

一寸の引き下がリもない血気が宿っていた。

 

老婦は心で言った。

 

『痛くないか・・・全身が血だらけではないか。

娘を守らなければならないのは私なのに

私なのに!』

 

白髪の老人は

自分と少女の役割が逆転したような状況に羞恥の念を感じた。

だが老婦が敵に向かって闘志を表せないのは

単純に恐怖に陥ったためではなかった。

 

むしろ数え切れない経験を通じて

身についた不思議な感覚のためだった。

敵と自分の力の差を知る感覚

勝算に対する六感は

目の前の敵を山より巨大な怪物に見せかけていた。

 

『私の娘よ。

立派な精神力だ。

極まりなく素晴らしくて褒め言葉を贈りたいほどだ。

しかし一体どうすればお前を生かすことができるというのか。

私の体が数千回引き裂かれてお前を生かせるのならば、

そうするだろうが

一体どうやればいいというのだ。』

 

 

 

 

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