赤岳西壁主稜に行って来た | 回顧録ーMemoirs of the 1980sー

回顧録ーMemoirs of the 1980sー

激動の80年代、荒れる80年代。
ヤンキーが溢れる千葉の片田舎で、少年たちは強く逞しく、されど軽薄・軽妙に生き抜いた。
パンクロックに身を委ね、小さな悪事をライフワークに、世の風潮に背を向けて異彩を放った。
これは、そんな高校時代を綴る回顧録である。

赤岳西壁主稜 

  • 2010/02/13-14
  • メンバー
    ふちG・トモ・イカ専務・変態サト
  • ルート
    2/13:美濃戸口~赤岳山荘~行者小屋(幕営)
    2/14:行者小屋~文三郎~主稜登攀~赤岳~地蔵尾根

長い長いプロローグ 

 

 

行き倒れ 

八ヶ岳西面でのクライミングはBCとなる行者小屋、或いは、赤岳鉱泉小屋へのアプローチから始まり、これが丁度良いウォーミングアップとなる。

のは

小屋泊りをする軽荷のブルジョワジーの話しであって我らのような貧困層は当然のことテント泊であり重荷を背負っての苦しい行軍となる。

 

 

ただでさえ重たい冬季キャンプ装備に加えて、ロープだの、バイルだの、あれこれガチャ一式だの、登攀用具満載。そしてBC式と言えばお約束、大量の缶入りアルコール飲料が加わるわけであるから、それは苦行、試練のアプローチ、行者小屋到着時には必ず1人や2人の行き倒れがでることになる。

とゆーことで顔面蒼白、息も絶え絶え変態サト、遺言を残し倒れる。

「もうダメです、先に行ってください、明日は登れません・・・」

 

 

そーゆーことで行者小屋到着、BCを設営完了すると時間は12時半、まだ呑むには早い、10年前であれば

「ジョウゴ沢へ遊びに行こう!」

なんて話しになるのだが俺も歳を取ったもんだ、そんな気は全く起こらず想いは「ビール、ビール、早く酒を呑ませろ!」である。しかし、そこはCLであるからしてグッとこらえメンバーに向け大号令

「取付きやルートが見えるとこまで偵察に行くぞ」

わははははは~

まいったか、流石CL、山屋の鏡だね、お手本だね、立派だね、感心だね

ぐわはははは~

しかしそれは表向き、ザックも背負わずアイゼンも装着せず、片手にピッケル、方手ぶらで出発、文三郎をちょこっとだけ登り傾斜がきつくなったところで

「これ以上行くとアイゼンも無いことだし危険だから下りよう」

なんて、わざとらしい筋書き通り、まあ一応、遠巻きではあるがルートはあの辺りだなぐらいの成果でBC帰還、お待ちかねの酒宴が始まる。

酒宴における会話各種  

テントに入り明日の準備など落ち着いたところでさあ乾杯、と思いきや変態サトから「ちょっと待った」ストップがかかる。この馬鹿ちんが言うには

暫く山に行ってなかった
  ↓
体力が落ちている
  ↓
ボッカが辛い
  ↓
軽量化が必要
  ↓
アルコール等嗜好品は持参してない

とゆーことである。

俺はそんな不届き千万、不届き至極な奴に酒を恵んでやるようなお人好しではない、奴もそんな事は百も承知であるからして俺にたかったりはしない、たかり先はやはりイカ専務である。

「おいイカ、そのワイン呑んでやるからよこせ」

拒むイカの手から無理やり強奪

「素直によこせばよいものを、ぐわははは」

更には強引に奪った酒を口にし

「うっ、不味い、なんだこのワインは」

などとぬかす傍若無人。ここまでやられると平素はフニャフニャ聖人君子と呼ばれるイカであるが流石に切れる。

「馬鹿野朗」だの「この野朗」だの「ふざけんな」だの「死ね」だの怒号が飛び交う険悪な空気。

しかしそこは極端に酒に弱いイカである、怒りながらもワインを2、3口も呑めば顔を赤らめ目はとろーんの上機嫌

「いいよーサト、呑んでいいよーサト、呑んじゃうのかーサト」

いつものフニャフニャ聖人君子に戻るわけである。

場も落ち着き暫くは和やかな時が流れていたのだがそれはつかの間であった。

「これ美味いなー」

と、サトが何やらパクパク食っているのが気になり

「俺にも食わせろ」

と、一枚もらうとそれはゴマ和風味のソフトビーフジャーキーであった。

「おっ、ほんとだ、美味い」

と、もう一枚パクつくとトモも反応

「どれどれ、俺にもちょうだい」

と、サトから袋ごと奪い取る

「おーほんとだ、美味い、美味い」

と、パクパク食いだしたところでイカが異変に気付いた。

「おいっトモ、それ俺のツマミじゃねーか、なに勝手に食ってるんだよ」

トモが冷たく言い放つ

「なんだイカのだったのか、ほれ返すよ」

袋をぽんとイカに投げる、刹那、イカ再び切れる。

「何だよー空っぽじゃねーかー、俺のだぞ、俺が持ってきたんだぞ馬鹿野朗、返せよ、俺のジャーキー返せよ」

トモがおちょくる

「わかったよ、返せばいいんだろ、ほら、ほれ、食えよ」

口から食いかけのジャーキーを取り出しイカの口元に持ってゆく

「ふざけんなこの野朗、死ね」

「俺はサトからもらったんだよっ、馬鹿野朗」

「なにーまたお前か、サト、お前も死ね」

「お前がぼけっとしてるからこーゆーことになるんだ馬鹿野朗」

(以下省略)

ぼちぼち飯の時間 

とは言っても誰かが作ってくれるとか、持って来てくれるとかゆーわけではない、酒ばかり食らっていると飯にありつけなくなる、我らは阿呆ではあるがそれくらいの判断はできる、甚だ面倒ではあるがそろそろ飯作りに入る。本日の食糧担当は変態サト、サトに頼んだのはCLである俺。

カレー鍋1本勝負

なぜ今時カレー鍋なのだ、カレー鍋が流行したのは3シーズンも前の事、現在のトレンドであればトマト鍋、或いはチーズ鍋とゆー選択肢は無かったのか、任命責任を感じたのであるが後の祭りである。まあ仕方があるまい、大嫌いなキムチ鍋でなかったのはせめてもの救いとあきらめよう。とゆーことでカレー鍋製作に取り掛かる。

先ずは各人がサトの指示により持ち寄った食材をテント中央部に並べる。

鶏肉、シャウエッセン、厚揚げ、うどん、エノキ、舞茸、キャベツ、などなど

まーカレー鍋としては正当な具材が並んだのであるが1つ足りないモノがある。

「ネギは誰だっけ、確かイカだよな」

何故かもったいぶるイカ、なかなか出さない。おそらくこの時点で既に自分のミスに気がついていたのだろう。

「おい、イカ、早く出せよ」

ついに観念したか開き直ったか

「ほれ、これが青ネギだ」

怪しい物体を放り投げてきた。3人は目を疑った。そこに出されたものは到底ネギとは思えぬもの。

ひょろひょろっと細長い物体、推定直径5mm、全長400mm、白い茎の部分と青い葉の部分の割合が半々、5本ほどの束になったものを二つ。

3人が一斉に怒号を浴びせる

「おいイカ、それの何処がネギだよ」
「それは万能ネギって言うんだよ」
「お前の家では鍋にそんなもんが入ってるのかよ」
「お前はネギもわからないのかよ」

イカが言い訳を重ねる

「計画書に青ネギって書いてあったからワザワザ探したんだよ」
「ほれレシートだってある、ほれ、ここに青ネギって書いてあるだろ」
「俺は間違ってねーよ、これが青ネギだ」
「だいたいよーサト、そもそもお前が青ネギなんて書くからいかんのだ」
「普通にネギって書けばいいじゃネーか」
「青ネギなんて書いたお前のせいじゃ」

(不毛に付き省略)

↓↓動物園の餌の入ったバケツの様相↓↓

 

↑↑めちゃめちゃ不味い↑↑

とゆーことで夜は更け酔いどれていったのでした。

深夜未明 

猛烈な尿意。何度も、何度も、しても、しても、またしたくなる、小便を繰り返す。夢なのか現実なのか、混沌とした意識はしだいにはっきりし始め、やがてこれは現実だと認識しついに目を開く。

暗闇、ここは何処だ!?

ココハドコ? (゜∇゜; 三 ;゜∇゜) ワタシハダレ?

そこがテントの中であるのに気付くには30秒ほどかかっただろうか。

「もうあかん、限界だ、急いで小便に行かなければ!!」

失禁寸前、慌ててシュラフから這い出す。

(゜ロ゜;)>ノォオオオオオ!!

いつもなら左腕に巻いてあるはずのヘッデンが無い。どーやって寝たのかさえもわからん状態である、暗闇の中では荷物の位置関係もわからん、ヘッデンは諦めテントに吊るしておいたはずのミニランタンをまさぐる、あった、そいつを手に取り点灯。

(゜ロ゜;)>ノォオオオオオ!!

右足のゾウ足が無い、シュラフの中をひっくり返してもない、何処にやってしまったのだ、しかし探している余裕はない、急がねば、右足には運よくそこらに転がっていたゴミ袋を巻きつけた。早く、早く這い出さねば。

「ギャッ、いてーなっ」

誰かを踏みつけたようだがそんなもんかまちゃいられない、急げ、急げ。

そしてようやく外に這い出すことに成功、出入り口前に上がる、一歩たりとも前に出る余裕は無い、慌ててチャックを下ろし、その場で放尿。間に合った、間一髪セーフ、窮地から脱することに成功した。

テントに戻りシュラフに潜り込もうとすると傍らに脱ぎ捨てたヤッケがあった。

「ヤッケ脱いでたのか、そりゃ寒いわけだ」

ボソッと呟きヤッケを着込みシュラフに潜り込む。ようやっと猛烈な尿意、猛烈な寒気との戦いから開放され安堵、再び夢の中へ・・・

朝4時起床 

山では俺の体内時計は正確無比である。呑みすぎだろうが、二日酔いだろうが狂いは生じない、コンプリート。

「おい、野朗ども、4時だ、起きやがれ」

もそもそ起き上がる3名、どーゆーわけか揃って俺の足側に頭を向けていた。まーどーゆーわけもねーんだろな、また寝際、わめき散らす俺がうっとーしくて反対側向いて寝たのであろう、わはは。

シュラフを畳み朝飯の仕度に入ると何やらトモがもそもそ探している。

「あっ!何でアンタが俺のヤッケ着てるんだよっ」

そう言われ見ると確かにトモのヤッケを着ていた、もちろん自分のヤッケの上に。

「ヤッケ2枚重ねかよ、そりゃー温かかったでしょうよ、全くよっ」

わっはっは

「ところで俺のゾウ足かたっぽしか無いんだけど知らねーか!?」

「何だかわからんけど寝る前に片方だけ脱いでましたよ、酔っ払いかまってもしょーがねーからほっときました」

おーそーゆーことだったのか、恐るべし酔いどれの不可解な行動・・・

とゆーことでようやく本題に入る 

 

主稜と言えば八ヶ岳西面を代表する人気ルートである。


それゆえ出遅れれば渋滞にはまること必至、であるから一番スタート目指し暗闇の中をヘッデン朋して出発。


取付きに到着する頃にはちょうど明るくなっていた、完璧。もちろん一番スタートもゲット。




さあ行くぜ!!




 

 

 

実の所、主稜は10年前に登っている、記憶では出だしのチョックストーンの突破がちょいと嫌らしいだけであとはどのピッチも簡単な雪稜とガバガバの壁ばかりで何も苦労した記憶が無い、ただ楽しく遊んだな~みたいな。

 

 

そんなワケで今日のパートナーはトモである、もちろん最初で最後の見せ場のチョックストーン越えはトモに任せる、後進には道を譲らねばならんだろう。とゆーより面倒なところはフォローで楽させていただこうとゆー魂胆バレバレかよ(笑)

そんな楽勝ムードで登攀開始したのであるが数ピッチで一転、決死のクライミングとなった。

ガバガバであるはずの壁は中途半端に雪が詰まり、中途半端な薄い氷、いわゆるベルグラに覆われている。手でホールドすることが出来ず、ベルグラにはピックも決まらない。

しかもプロテクションがない、ランナーが取れない、超ランナウトの連続、緊張の連続。

先行パーティは居ない、もちろんアイゼンを蹴り込んだ形跡も、ピックを打ち込んだ形跡も無い。弱点の見極め、ルートファインディング、頼れるのは自分の感性と本能、そしてこれまで積み上げてきた経験と技術のみ。

 

 

以下、当日、帰京中にブログ向けに書いた手記を転載

 

今日のルートは何度か登っている

赤岳西壁主稜

これまでの経験上いつもガバガバであまり苦労した記憶がない

しかし今日はしょっぱかった

中途半端にかぶった雪

中途半端な薄氷

つかめない

ピック決まらない

ランニングビレー取れない

ちょうランナウト

落ちたら死ぬ

確実に死ぬ

ビビりが入る分、余計に体が動かない

左足を大きく上げてあそこに立ち込みさえすれば

しかし怖い

落ちたら死ぬ

右手を離せない

離さなければ立ち込めない

死にたくない

死にたくない

立ち止まっていても何の解決にならない

行ったれ

心臓バグバグ

恐る恐る右手を離す

そろーっとバランスで左足に立ち込む

はーはーはー

行けた

そしてまたその繰り返し

久々に生への執着心、執念を感じたクライミングだった

生きてて良かった

(゜∀゜;ノ)ノ

 

 

 

ようやく窮地を脱し安定したピナクルでトモのフォローに入るのだが、よほど緊張し力が入っていたのだろう、握力が戻らない。

姿は見えないがトモも苦労しているのが良くわかる、時折テンションがかかる、ギュッとロープを掴むと指がつる、ロープを握りこんだまま指が開かない、開かない指に顎を当て無理やり開かせる、そしてまたロープを手繰り寄せる。

やがてトモが到着しそのままリードに入れ替わる、この先は簡単な雪稜から雪壁となるのでようやく一息つく事が出来た。

トモを送り出すと今度は下が気になる、後続のイカ&サトが心配だ。フリーでは12クライマーのイカであるがここまで微妙なベルグラは初経験のはず「無事に登ってこいよ」祈る気持だ。

暫くすると壁の抜け出しからイカの顔が現れ安堵、イカが情けない声で叫ぶ。

「ランニング取れないんだもん!死ぬかと思ったよぉ~」

ゆっくりとピナクルに近づいて来るイカの目は安堵の涙で凍り付いていた。

また一方のサト、後で聞いた話しだが折れそうになったハートを奮い立たせるのにこう叫んだらしい。

「チカー俺は生きて帰るぞー」(チカ=カミサン)

とゆーことで無事登攀終了。

 

 

 

登攀グレードは状況により大きく変化する。過去の実績や他人の書いたクロニクル、ガイドブックの記述、そんなものはあてにならないのが雪山、冬期登攀である。再認識するに良い経験となった。

 

 

 

コメントしてくか!? 

  • はじめまして!赤岳主稜の登攀記を見に来ましたが,登攀記以前の日記が面白すぎて,大笑いでした。 -- よしき 2012-10-18 (木) 21:46:53
  • よしきさん!あざーす(^_-)また遊びきてください -- ふちG 2013-08-05 (月) 20:10:11