今回の内容は、
わたしが翻訳・出版している電子書籍の最後のほうに
載せているものです。
2014年、
訳者としてKNラオの書籍を翻訳・出版するにあたり、
はんぶん警告つもりで書いたものです。
昨夜 いち読者から、
「まったく同感だ」
という賛同のメールをいただきました。
触発されて久しぶりに読み返してみました。
いまでも、
これを書いたときの気持ちに
変わりはありません。
むしろ、
危惧していたとおりの方向に
インド占星術の現状が展開していることに
危機感を強めています。
とくに
講座・教室や教材のなかで
KNラオの書籍から多数引用しておきながら
かれの精神や考え方のうち不都合な部分を
大人の事情で意図的に排除し教えている事例がある
という報告をいただくことがあります。
もしそういうことがほんとうにあるとするなら
そういった講座やテキストで
KNラオの占星術を学んでいらっしゃるかたのためにも
ここに掲載して公開しておくことは
無意味ではないだろうと考えました。
長文になりますが、以下に引用します。
※もちろんここに書かれてある内容は、KNラオ的な占星術を学んでいるかたを対象としています。万人を対象として書かれたものではかならずしもありません。
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わたしは、2009年から約6年間、KNラオから直接学ぶ機会に恵まれました。
その目で、日本で広がりつつあるインド占星術の現状を見ると、違和感を感じざるを得ません。
おそらくこのままでは、日本のインド占星術に未来はありません。
違和感の詳細については書きませんが、その代わりインド占星術の習得を目指していらっしゃる読者のみなさんに役立つであろう助言をいくつか紹介します。
それは、インド占星術を学び、実践していく上で、はずしてはいけない六つのポイントです。
KNラオが授業の中で生徒たちに繰り返し説いてきた六つの要諦、ガイドラインです。
1)出所の不明なホロスコープに手を出さない
2)つねにPACを見る
3)ダシャーはレベル3まで見ればよい
4)マーケティングをしない
5)モラルをすべてに優先させる
6)マントラと奉仕だけが身を助く
もし、みなさんがこれらのポイントを守るなら、みなさんのインド占星術の学習はスムーズに進むでしょうし、人生もより豊かなものになるでしょう。
以下、「六つのガイドライン」について詳しく説明しておきます。
インド占星術は前世紀に入ってからヨガの拡散とともにゆっくりと、しかし着実に世界中に広まってきました。とくに80年代以降、欧米を中心とするインド占星術の認知度の高まりには目を見張るものがあります。そしてインド占星術を学び実践していく人たちが増え、いわばインド占星術の裾野が広がっていくなかで、様々な形態のインド占星術が出てきました。
しかし、KNラオが本に書いているように、サンスクリットの伝統が大英帝国の植民地政策によっていわば意図的に根絶やしにされてしまった結果、パランパラと呼ばれる師から弟子へ教えが直接伝承される伝統もほとんと途絶えてしまいました。そして現在、パランパラと呼ばれるにふさわしい伝統を継承するインド占星術は二つしか残されていません。
それは、BVラーマンの系統とKNラオの系統です。
それ以外の系統は存在せず、少し厳しい言い方になりますが、それ以外の系統と呼ばれるものは、新種の突然変異か、擬似的なインド占星術(捏造・偽造・パクリ)であると言っていいでしょう。
日本でも、KNラオの系統を継承すると主張する人たちによってインド占星術が拡散されつつあります。
KNラオのインド占星術の認知度が日本で高まるのはたいへん喜ばしいことですが、その反面、KNラオの意図や思想をよく理解せずに拡散を急ぐあまり、あるいはビジネスに利用しようとするゆえに、彼の本の中で開示されているテクニックや方法論だけが一人歩きし、むしろ本質的な「KNラオ的なもの」が意図的に無視され、あるいは巧妙に排除されつつある現状をわたしは憂慮しています。
6年間、KNラオから直接学んできた者として、インド占星術の習得を目指そうとする読者のみなさんに、KNラオが授業の中で彼の生徒たちに繰り返し説いてきた学習上の要諦、はずしてはいけない六つのポイントを以下に紹介し解説します。
1)出所の不明なホロスコープに手を出すな
KNラオは、自身が担当するリサーチクラスに毎年編入されてくる新入生に向かって開口一番こう忠告します。
「有名人のホロスコープには手を出すな」
「First handのホロスコープだけを用いろ」
First handのホロスコープとは、本人や家族・親族から直接入手したホロスコープのことです。それだけが、信用するに値するということです。
真偽の不確かなホロスコープを使っていくら検証を繰り返しても、スキルが上達するはずがありません。
それは、不純物を多く含んだ試料を用いて実験を繰り返しても、結果が出ないのと同じ道理です。
一方、たとえホロスコープが不正確でも、有名人なら簡単にネットで関連情報を収集することができるし、それをもとに時刻修正をすればたちまち正確なホロスコープになるはずだと信じる人たちが多いのも事実です。
しかしそういう人たちについて、KNラオは以下のように書いています。
K.N.Rao『TEST THESE HOROSCOPES』13 March 2015,Web Site "Journal Of Astrology"からの訳出です。
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「アーム・アードミー党(AAP) のホロスコープをお持ちですか?」
(注:AAPは、近年躍進するインドの政党です)
占星術家だと名乗る訪問者はそういった。
「最初2つだったが、いまは4つある。どれが本物かわからない」
わたし(KNラオ)はそう答えた。
「それなら、どれが本物か検証したらいいでしょう」
その日まで、かれはなかなか賢い占星術家だとわたしは思っていた。
しかし、その言葉を聞いてわたしはかれにいくつか質問し、そして理解した。
かれが、ネット上にたくさん生息する他の「アストロフール(Astro-fool)」のように、疑わしいホロスコープでも一目見てササッと時刻を修正すれば正確なホロスコープになると信じていることを。
いらだちを隠しながら、わたしはかれにこう説明した。
「わたしは、国民会議派のホロスコープが正確だと確認するまでに数年を要したし、その後、人民党(BJP)のホロスコープについてもそうだった。与えられたホロスコープに飛びついてはいけない。とくに政党についてはそう言えます。年数をかけても、じゅうぶんな数の出来事を検証し終わるまでは、慎重を期すべきだ。」
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2)常にPACを見なさい
KNラオといえば、彼のPACDARESメソッドが有名です。
KNラオは、生徒がPACを見逃すと、「PAC、PAC、PAC」と連呼して注意を促します。
Pは、Position(在住)のPです。
惑星がどのハウス、星座に在住しているかを意味します。
Aは、Aspect(アスペクト)のAです。
惑星がどのハウス、どの惑星にアスペクトしているかを意味します。
Cは、Conjunction(コンジャンクション)のCです。
惑星が、どの惑星とコンジャンクトしているかを意味します。
PACを見ずに解釈を行うな、ということです。
たとえば、アセンダントが正しいかどうかを検証するとき、アセンダントの星座だけを見てその人の外見や性格に照らし、アセンダントが正しいとか正しくないとか言う人がいますが、それはダメだとKNラオは言います。
アセンダントの星座より、アセンダントにPACで絡む惑星を重視し、さらにダシャー、分割図も考慮して総合的に判断しなければいけません。
あるいは、月がどのナクシャトラにあるかだけを見て、その人の性格、外見、職業、人間関係など様々なことを読み取ろうとする人がいます。それについても「Don't do that(それはするな)」とKNラオは言います。
それは、インド占星術が有する無限の可能性を27種類のパターンに落とし込み、結果的に占星術を変質化・矮小化させてしまう行為です。それによってみなさんは急にホロスコープが読めるようになったと錯覚するかもしれません。しかし、みなさんのスキルはあるレベルで頭打ちになり、それ以上向上することはありません。そして占星術は簡略化され、縮小再生産されていきます。
その方向に、インド占星術の未来はありません。
3)ダシャーはレベル3まで見よ、それ以上は見るな
タイミングを読み取るテクニックとしてインド占星術には100近い種類のダシャー・システムがあります。
それぞれのダシャー・システムには5つのレベルのダシャー、すなわちマハーダシャー、アンタルダシャー、プラティアンタルダシャー、スークシュマーダシャー、プラーナダシャーがあります。
ダシャーのレベルが高くなればなるほど、すなわちマハーダシャーよりアンタルダシャー、アンタルダシャーよりプラティアンタルダシャー、プラティアンタルダシャーよりスークシュマーダシャー、スークシュマーダシャーよりプラーナダシャーの方がより細かく現象を読み取ることができます。
しかし、KNラオは、普通はレベル3までしか使えないと言います。
正確に言えば、レベル4以上を見るのは勝手だが、それはほとんどの場合、時間の無駄だと言います。
KNラオはこれまでに7万件を超えるホロスコープを見てきましたが、レベル4以上のダシャーが使えたケースは2件しかなかったと言います。
もちろん、レベル4以上のダシャーが使えるように時刻修正してホロスコープの精度を高めることは不可能ではありません。しかしすでに1)で説明したように、皆さんが思っているほどそれは容易ではありませんし、そのレベルの時刻修正には高いスキルと多くの労力と時間を要します。
結論を言えば、その労力と時間に見合うだけの結果はほとんどの場合、期待できません。やはり時間の無駄です。
ちなみにKNラオが2012年に来日したときも、大阪のセミナーで言いました。
「レベル4以上のダシャーを使うな。それが賢明だ」
4)マーケティングをするな
KNラオが言う「マーケティング」とは、販売促進活動のことです。
KNラオは、マーケティングについて、こう言います。
「占星術をプロモートするのはいいが、自分をプロモートすべきではない」
「もし実力がそなわっているなら、勝手に人は集まるようになる」
「誇大広告を打って自分の商売をプロモートするのは問題外だ」
昨今はホームページ、ブログ、ツイッター、フェイスブック、ミクシー、YouTuneなどのありとあらゆるメディアをミックスして鑑定や講座を一般大衆に売り込もうとする風潮がありますが、それについても「Don't do that(それはするな)」とKNラオは言います。
他にも理由があります。
ジョーティシュと呼ばれるインド占星術はヴェーダの一部であり、そもそもマーケッタブルなコモディティ(商品)ではありません。
インド占星術はオカルト・サイエンス(密教・秘学)であり、顕教とは違ってだれでもそれを等しく学んで理解し実践できるようになるものではありません。学ぶにふさわしい人がその縁によって自ら占星術にアクセスし、一定以上の努力と犠牲を払って習得し、そして実践すべきものです。占星術のサービスを望む側から努力して占星術にアクセスすべきであって、占星術のサービスを提供する側が一般大衆にへりくだってまで売り込むべきものではありません。
また、マーケティングは得てして競争の激化をもたらし、その結果、商品やサービスの質の低下・紊乱を招くなどの弊害を伴います。
サービスの質が命である医師、弁護士、会計士、コンサルタントなどのいわゆるプロフェッショナルな職業では、サービスの質の低下を招きかねないマーケティングは長い間タブーでした(最近はすこし宣伝広告が行われるようになってきましたが…)。
それは、占星術についてもあてはまります。
マーケティング活動が激化し、広範に及んでいくなかで、占星術の大衆化がますます進み、縮小再生産が繰り返されていきます。その結果、膨大な体系を誇るインド占星術もだんだんと簡略化され、矮小化され、衰退していくのは火を見るより明らかです。
その先に、インド占星術の未来はありません。
占星術をプロモートしたいのか、それとも自分をプロモートしたいのか?
それがはっきり現れるのが、このプロモーションの問題です。
※この問題は誤解がつきものなので最後にもうすこし補足しておきます。
バーラティーヤ・ヴィッディヤーバヴァンのように占星術の研究やサービス、啓蒙活動の内容を広く一般に告知したり、求めてくる人たちのためにプレゼンスをあるていど示すなどの最低限の行為はもちろん許されるでしょう。
リサーチを進めていくために鑑定サービスの数を増やすことも必要です。まったくなにもするなということではもちろんありません。
結局は常識、バランスの問題だろうと思うし、ある意味つねに葛藤が伴うテーマです。
販促活動はしないが、節度ある情報の提供はする。
大げさな販促活動はしないが、事実にもとづいた節度ある情報の提供はする。
要はなにが目的か? ということに集約されていくのでしょう。
5)モラルがすべてに優先する
優秀な占星術家が備えている要素として、KNラオは次の三つを挙げます。
①テクニック
②スキル
③モラル
テクニックは知識です。それは、本や講座などを通して学んでいくことができます。
スキルは、各自が実践を通して学び、蓄積していくべき経験知とか暗黙知と呼ばれるものです。それは、外形的な知識として人から人に伝えることができません。個人のスタイル、あるいはセンスといっていいものです。スキルは、各々が自ら努力して確立し、一生を通して磨き上げていかなければなりません。
そしてスキルを確立していく上で必須なことは、これまでに述べてきたポイント、すなわち正確なホロスコープを用い、正しい知識を正しく運用することにつきます。近道はありません。
そしてなによりも重要なのは、③モラルだとKNラオは強調します。
テクニックとスキルがあっても、最後は神の祝福がなければなにごとも達成できません。この祝福を授かる必要条件は、高いモラルです。
また、モラルについていえば、占星術家の言葉は相談者の心に深く届きます。
ですから、KNラオは次のように強調します。
「相談者を恐怖させるようなことは決して言うな」
相談者を恐怖させて、高額な宝石やヤッギャ(護摩法)を売り込むのは問題外です。
「それは詐欺行為である」
「そういう占星術家は必ず悲惨な結果を迎える」
「すべて自分に返ってくる」
KNラオの言葉に対して、サプタリシという占星術のオンラインマガジンを発行するサイトを運営するスニール・ジョンが訊きました。
「悪いことをしてもその報いを受けることのない人が世の中にはたくさんいます。なぜ占星術にだけそのような因果応報のようなことが起きるのでしょうか?」
KNラオは答えました。
「占星術家の言葉は、相談者の潜在意識の奥深くに届く。それは必ずしかもすぐに帰ってくる。そういう例をわたしはたくさん見てきた。だから、決して相談者を恐怖させるようなことは言ってはいけない。すべて自分に返ってくる。」
あともうひとつ、モラルにかかわるはなし。
占星術の習得には、最低でも七生かかると言われています。
もしモラルで踏み外し、占星術で人を騙すようなことをすると、次の生で逆の立場になって騙され、占星術の学習は中断するか、大きく後退することになるでしょう。
つまり、占星術に関しては因果応報は厳しく、しかもはっきりと出るということを、肝に銘じておきましょう。
6)マントラと奉仕だけが身を助く
5)モラルとも深く関係するはなしですが、占星術の鑑定の後、ウパーヤ(処方)として高価な宝石やヤッギャ(護摩法)を相談者に勧める人がいます。
それも詐欺行為であるとKNラオは言います。
インド占星術のバイブル『ブリハット・パーラーシャラ・ホーラー・シャーストラ』には、救済法(処方)としてマントラと奉仕だけか書かれてあります。
奉仕とは、この場合、困っている人を助けること、チャリティーを意味します。
そしてKNラオが教えるバーラティーヤ・ヴィッディヤー・バワンのインド占星術コースでは、マントラと奉仕以外の処方を生徒に教えることを禁止しています。
長くなりましたが、この六つのガイドラインにしたがうなら、みなさんのインド占星術の学習はスムーズに進むでしょう。
みなさんが賢明な選択をなさることを祈念してやみません。