終末期の患者さんには

恐怖や悲嘆ではなく、やわらかな笑顔と穏やかな日常を送る方がいらっしゃいます

ご家族も穏やかに…とは限りません

 

治療を尽くして、尽くして、

これ以上は耐えられないと家に帰ってきた笑美さんは末期がん。

今では食べることも動くこともできません。

最近は水を飲むことも難しくなってきました。

それでもご主人が手に入れたサプリメントを頑張って飲み

1日おきに注射もしています。

 

先日娘さんに「私の葬儀はこうしてね」と話し始めました

そんなこと今言わなくてもいいでしょ!そう答える娘さんを見据えて

「大切なことだから、ちゃんと聞いて頂戴」

 

翌日ご主人はケアマネに電話しました

「誰か、死を連想するような話をしたんじゃないですか?

これまでも前向きに、もっと良くなろうねと希望を持ち続けてきたんです。

どうか、希望を失うようなことは本人に言わないでください」

 

僕は笑美さんに聞きました

娘さんにお葬式の話をしたんですって?

「主人や娘が困らないようにね。主人は仕事オンリーの人なの」

体がきつかったら病院に戻ることもできますよ

「ここに居る。娘がいる。。。主人が仕事を終えて帰ってくる!」

 

今日ご主人とお会いしました

『最後まで生きる希望を持ち続けて、頑張ってもらいたいんです』

『なぜ水も飲めないんですか』

『死とか最期を連想する発言はしないでください』

『僕も癌を経験しています。癌患者というのは不安なんです。孤独なんです。

なんでも悪く考えてしまうものなのです。だから言わないでください』

 

ご主人が奥さんを失う悲しみにつぶされそうになるのは当然です。

 

奥さんは孤独も不安も感じていませんよ。恐怖も感じていません。

でもご主人のことが心配で、娘さんや孫さんが気がかりで、寂しく思っています。

奥さんの希望は

退院した日に娘さんたちとみんなでお祝いした”女子会”であり

昨日の51回目の結婚記念日です

今まで通りに仕事に行って、帰ってくるご主人を待つことであり

お孫さんが「ただ今」と帰ってくるのを迎えることです

 

はっきり申し上げて奥さんに残された時間はとても限られています

手が届かない夢を追いかけているうちに

手の中から大切なものがぽろぽろとこぼれていきます

奥さんはまだ死んでいません

奥さんはご主人を娘さんを気遣いながら今日を生きています

 

生きる努力、治療を続けることは尊いことです

しかしそれが苦痛ばかりもたらし、幸せにつながらないとしたらどうでしょう

笑美さんの人生、残された人生を

生きたいように生きさせてあげることはできませんか

 

死の恐怖は、笑美さんご自身よりもご主人の方が強いのかもしれない

笑美さんはもっと激しい感情を、家族の為に隠し通しているのかもしれない

 

「私は主人に感謝しているんです。

 主人にはわがままばかり言って、生きてきたから」