統合失調症障害者の家族として(1) | この国のタブー

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素人がタブーに挑戦します。
素人だけに、それみんな知ってるよ?ってこともあるかもしれませんが。
コメント、質問、大歓迎です。お手やわらかにお願いします。

さて今回は、少し勇気を振り絞って、飲み屋でも語ることのない私の中でもタブーなネタを書きたいと思います。それは、2年前に亡くした私の母が抱えていた病、精神障害についてです。


母は、私が物心ついた時から亡くなるまで統合失調症でした。日本では長い間、精神障害はタブーとされてきました。恐らく今も、多くの人がそれを知らないし、知りたいとは考えていません。かつて私の家族もそうだったように、周囲からの差別や偏見を恐れるあまり、当事者や家族の側も事実を隠す傾向にあります。

とは言え、私自身に限れば、今では別に隠したいとは思うことはありません。かつての、コンプレックスのようなタブーのような観念は、かなり昔に克服しましたし、被差別意識などありません。ただ、それでも話題にし辛いテーマであることは変わらないように思います。無為に相手を戸惑わせてしまいたくないので、飲み屋の話題にすることもありません。ある意味ではタブーになっています。

ところが、最近ある本に出会ったことで、その現実を少し変えてみようと思うに至りました。非常に大きなテーマですので、複数回に分けて書くつもりですが、お付き合いくだされば幸いです。




※最初におことわり
・医療情報に関わる内容を含みますが、専門家が書いた記事ではありません。
・作者の個人的意見ですので、この記事を治療や研究の参考にはしないでください。
・差別的表現を含みますが、当事者家族という立場からあえて書いています。


【統合失調症とは何か】
精神疾患のひとつで、かつては精神分裂病と呼ばれていましたが、差別的ということで改称されました。日本人の0.85%(120人にひとり)が統合失調症ですから、特に珍しい疾患ではありません。ちなみに、この割合は異なる地域や人種においても変化が無く、世界中で概ね1%前後という事実は興味深いと思います。
 参考:Wikipedia記事「統合失調症」

【症状と障害】
人によって様々ですが、主に幻覚や幻聴、妄想や暗い気分に悩まされ、結果として引きこもりや暴力行為といった行動の障害を引き起こします。
例えば、いつも誰かに耳元で、「死ね」と脅され続けるという幻聴がある人を想像してください。そんな状況が続けば、どんな人でも正常ではいられませんよね。実際に、ある人はリストカットなどの自傷行為を起こします。ある人は、怒り暴れて家具を壊します。またある人は、警察や市役所に駆け込み「逮捕しろ」と怒鳴り散らします。皆さんも、そのような光景を一度は目にされたことがあると思います。
 参考:こころの健康情報局「すまいるナビゲーター」目で見る統合失調症

さて、こうなってしまうと、本人が通常の社会生活を維持することは困難ですので、多くの人は精神障害者認定を受けます。もちろん、家族にとっても大きな負担となります。子供の障害によって親が働けなくなるケースや、一家離散ということも珍しくありません。その意味で、社会的にもかなり深刻な病のひとつであることは間違いありません。


【なぜタブーなのか】
街中で人が叫び暴れていれば、普通は誰もが恐怖を感じます。それが酔っ払いであれ精神障害であれ、あるいは知的障害であれ、遭遇した人の心情には大差ありません。できるだけ避けたいと感じるのが恐らく自然でしょうし、私も例外ではありません。
ただ、中にはその人を「頭のおかしい人」と安易に差別する人もいます。周囲から白い目で見られるだけでなく、精神障害者は歴史的にも差別の対象となってきました。ましてや、そんな人が家族にいたら大変です。結果として、家族の側もその事実をひた隠しにします。


【精神疾患と人類史】
歴史的に精神病者は、かなり残虐な迫害差別の対象となった時代があります。中世では魔女狩りの対象になったり、各地の優生学では断種対象にされました。日本では明治期に「私宅監禁」というのが認められ、いわゆる座敷牢に閉じ込めるということが行われています。

ただ、明るい側面もあります。幻覚や幻聴で共通するのは、精神病者と薬物中毒者だけでなく、霊能者も同じです。文化人類学上は、精神病者はかつてシャーマンであり、宗教の開祖でもあったと考えられてます。最近では、フィンセント・ファン・ゴッホや芥川龍之介も統合失調症だったと言われていて、ある種の芸術的才能を導き出す病だという可能性もあります。

他方では、精神病理学者の権威である中井久夫が、人類史において分裂病気質は必要だったとしています。彼は、仮に人類が皆同じ行動をする種族であったのなら、ネズミの大行進のような絶滅の危機は回避できなかったはずだという仮説を立てています。少し難しいですが面白い本です。

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【犯罪に関する誤解】
現在、これだけ差別を否定する社会に至りましたが、誤解はまだまだあるようです。
例えば、精神障害者が犯罪を起こしやすいという誤解がありますが、統計上は健常者よりも犯罪率が低いです。殺人事件に限れば、精神障害者や知的障害者の割合が高いのですが、そうしたケースの多くは障害程度が軽度です。私の私見では、精神障害が重いほど犯罪率は低いと思います。
 参考:ニコニコニュース(週刊ポスト2012年6月29日号)「精神障害者による犯罪は少ない」

また、刑事裁判で加害者の精神鑑定がよく行われますが、これを精神障害者は裁かれないものと誤解する人も多いですね。正しくは、犯行時の判断能力、実刑を課された場合の責任能力があれば、健常者と同じく実刑に服します。またその能力がない場合でも、医療観察法によって強制的に入院または通院が課せられます。犯罪が裁かれないわけではありません。
 参考:Wikipedia記事「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」


【統合失調症は遺伝するか】
統合失調症の母を持つ私にとっては、それが遺伝するかどうかは切実な問題です。小学校低学年の頃、母の主治医に尋ねて、心の病気だから遺伝はしないと回答された記憶をよく覚えています。では実際にどうなのかと色々調べてみるのですが、実はよくわかっていません。医者によっても答えはマチマチです。遺伝すると主張する研究者の中でも、統計的な確率が10%と言う人もいれば、40%と言う人もいてバラバラです。当事者にとっては一生に関わる重大事なのですが、随分といい加減で呆れます。


【統合失調症の原因】
ではそもそも、統合失調症の原因とは何なのか。
実は、それもよくわかっていません。
症状がある。でも原因はわからない。でも病気。それが統合失調症です。

歴史上、不治の病はたくさんありました。労咳は結核菌感染症、コロリはコレラ感染症、ハンセン病はライ菌による皮膚感染症でした。リウマチの原因は未だよくわかっていませんが、関節が炎症し痛みます。
統合失調症はどこも痛みません。原因もわかりません。でも病気です。薬はあります。入院し治療もします。でも母は治りませんでした。同じ薬を使って、治る人もいますが、一生治らない人もいます。でも病気です。

・・・て本当に???


医師でもない私には、実はそこが一番ややこしく、今でも一番の疑問です。
そもそも、統合失調症とは本当に病気なのか。
ただ、それを語る前に、まずは統合失調症障害を抱える家族の実態を、少し知っていただく必要があります。次回の続きはそのあたりから再開したいと思います。最後まで読んで下さりありがとうございました。



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