人民日報の姉妹紙『環境時報』(Global Times)の記事では、肖波濤(シャオ・ボタオ)教授らの論文が指摘していない施設であるにもかかわらず、なぜ、中国共産党は、武漢ウイルス研究所(武漢国家生物安全実験室、P4実験室)にこだわり言及するのでしょうか。
 
  実は、1970年代から科学者は、遺伝子組換え技術を使ってウイルスの改造等を行い、新しいワクチンなどの研究を行なってきました。ですからウイルスの創製は珍しいことではありません。
 
 こうした遺伝子の操作技術によって作られたキメラウイルス(chimeric virus、2種類のウイルスから遺伝子組換えにより生まれた新たな変異株)は、元のウイルスよりも人類に潜在的な脅威を与えるほど毒性が強いウイルスとなる可能性があります。
 
 2015年には、ノースカロライナ大学チャペルヒル校のラルフ・バリック(Ralph Baric)実験施設において、中国の馬蹄コウモリから見つかったSARSに似たコロナウイルス(SHC014-CoV)が疾病を引き起こす可能性について研究しています。
 
 研究論文は、2015年11月9日に発表されており、この研究ではキメラウイルスを生成させマウスに感染させています。中国ではこの研究を根拠に米国起源説を流布させようとしたきらいがあります。
 ただ、この研究では、人間に感染させ死に至らしめるウイルスを作ったわけではありません。
 
 一方で、この研究には武漢ウイルス研究所の研究者である石正麗(Shi Zhengli)始め2人が加わっており、中国の研究者がキメラウイルスの創製技術を持っているとわかります。
 
 ところが、2020年1月22日に『Journal of Medical Virology』において、北京大学始め4大学の研究者は連名で武漢ウイルスは、コウモリのコロナウイルスと、起源が未知のコロナウイルスとの間で遺伝子が組み替えられることによって発生したとの発表があります。
 
 また、中国共産党の公式軍事ページの『西陸網』において、同日の2020年1月22日に「武汉病毒4個關鍵蛋白被替換,可精準攻擊華人」(武漢ウイルスは4つの主要なタンパク質が置き換えられており、中国人を正確に攻撃できる)のタイトルで「武漢新型肺炎は米国の生物戦の匂いがする」として米国の生物兵器であるかのように報道し、さらに、2020年1月26日の『西陸網』には、武漢ウイルスは「人工的に作成したもので、武漢ウイルス研究所の石正麗研究員とそのチームがウイルスを生成し流出させた」として、武漢ウイルスが人工的に作られ流出したものとしています。ただ、数日後にこの記事は削除されています。

 要するに、中国共産党は、米国が武漢ウイルスを拡散させたと言いたいが為に、武漢ウイルスは人工的なウイルスと主張し、あげくのはてには武漢ウイルス研究所が漏洩したとまで言及してしまったのです。

 このような中国内部の行き過ぎた主張の拡散に自国の首を絞めかねないと、あわてて中国共産党機関紙の『環球時報』(Global Times)において、2020年2月4日付の記事で中国のP4実験室からウイルスが漏洩したのではないと火消しにまわったということです。

 それで『環球時報』では、肖氏が指摘する研究機関については一切言及せず、もっぱら武漢ウイルス研究所のP4実験室に焦点を合わせて漏洩説を打ち消す記事が組まれているのです。

 3月12日には、中国外務省の趙立堅副報道局長は、「武漢に持ち込んだのは米軍かもしれない」とツイッターでつぶやくという姑息な手段まで使ってフェイクニュースを仕掛けています。

 さらに、最近では、武漢ウイルスは中国の武漢ウイルス研究所が感染源であるとのトランプ米政権の見方に対して、WHOでは、中国の意思にそって、4月22~23日、武漢ウイルスの起源はコウモリなどの動物由来で研究所で操作や創出されたものではないとの見解を示しています。ただ先述のとおりWHOは証拠を一切提示されていません。

  時系列で見ると、米国への責任転嫁のため武漢ウイルスを遺伝子組み換えによる人工のウイルスと主張したところから一転し、コウモリ等動物を起源にしようとする過程の中国のドタバタ加減が興味深いです。
 
 ところで、先に紹介した1月22日の『西陸網』の記事には、「武汉病毒」と書いてあります。つまり中国では今回の新型コロナウイルスについて「武漢ウイルス」と呼んでいるのです。フランスの週刊誌「オピニオン」の社説では、「共産主義ウイルス」と呼んでいますが、その後、中国国内では「中共病毒」つまり「中共ウイルス」と呼んでいるようです。WHOは、ご存じのように、日本人にはやや馴染めないCOVID-19と名付けました。
 
  現在、栃木県在住の台湾の医師・評論家・政治活動家で、遺伝子工学を使った糖尿病を研究していた林建良(リンケンリョウ)氏によれば、猫にもエイズウイルスがあり、これが人間に感染しないのと同様に、コウモリのウイルスも基本的には人間に感染しません。
 
 しかし、武漢ウイルスは、スパイク・タンパク質(Spike Protein)を持ち、SARSウイルスとHIVウイルス(ヒト免疫不全ウイルス)を人為的に繋ぎ合わせることによってSARSとHIVの両方の性質を持っているとされ、さらにコロナの突起が人間のACE2受容体と親和性が高くなって人間に感染する能力を有するようになっていると指摘されています。
 
 このコロナウイルスのスパイク・タンパク質(Spike Protein)は、他のウイルスや自然界に存在していないので人為的な証拠とされます。
 ウイルスが遺伝子断片を失い自己をスリム化することは、よくあるそうです。逆にウイルスが遺伝子断片を獲得して自己に挿入するのは難しいようです。
 
米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の資料を基に泉城編集

 SARSは免疫力の低下をあまり及ぼしませんが、HIVは、リンパ球の表面にある突起CD4に結合し免疫システムの要であるCD4陽性リンパ球細胞を減じ、人の感染症に対する防御を甘くさせます。武漢ウイルスでは、このCD4陽性リンパ球細胞を60%減じるとされます。

 平たく言えば、武漢ウイルスはSARSとHIVを人工的に結合させるとともに人に感染するように創製されたウイルスであると林氏は主張されているのです。

  なお、SARSウイルスは、人の細胞に侵入する際に、ACE2受容体に結合すると考えられています。ACEやARBといった降血圧薬を飲んでいると、このACE2受容体が増えて感染しやすくなると思われ、また、抗がん剤などの化学療法は免疫力を低下させる場合があり、やはり感染しやすくなると思われます。タイや日本では抗HIV薬の投与で症状を改善させた例があり武漢ウイルスにHIV的な要素があることをうかがわせます。

 タイで抗HIV薬とともに使用したタミフルは、細胞内で増殖したウイルスを外へ出なくさせる効果があり、いま話題のアビガンやレムデシビルはウイルスの増殖・複製そのものを防ぎます。

 したがって、ノーベル医学生理学賞受賞者の本庶佑(ほんじょたすく)・京都大特別教授(分子免疫学)が感染初期にアビガンを投与するように勧めているのは、私が言うのも失礼ですが、たいへん理にかなっています。
早急に武漢ウイルスの薬として認可して欲しいです。また本庶先生を貶めるようなデマやフェイクニュースがありますが許せません。

  ちなみに、ノーベル医学生理学賞受賞者の山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所所長・教授は、「感染が疑われる方の診断のための検査医師の判断で、速やかにPCR検査が実施できる体制が必要です。」と提言されているのは、これまた私が言うのも僭越ですが、もっともなことで、山中先生の真意をねじ曲げて「検査ありき」と報道するメディアもいただけません。
 
 事実を報道しないメディアに対する不満で横道にややそれましたが、要するにコウモリが保有するウイルスが人に感染したという証拠はなく、人に感染させるには、ウイルスを人工的に改造する必要があるのではないかということです。

 これに対して、石正麗研究員が率いる国際研究チームは、2005年に「SARS状コロナウイルスの自然宿主はコウモリである」とする論文を『サイエンス』に発表し、2013年10月30日に、同じ石正麗研究員が率いる国際研究チームが科学誌『ネイチャー』に示した研究結果は、SARSと似たSARS状コロナウイルス(SARS-like CoV)を中華キクガシラコウモリから分離することに成功できたので、SARSウイルスの起源がコウモリであるとの可能性を示しました。
 
 このSARS状コロナウイルスは、ヒト、サル、ブタ、ハクビシン、中華キクガシラコウモリのACE2受容体に感染することができるため、SARSの場合も中華キクガシラコウモリが自然宿主である可能性はあります。ただ、石正麗チームの研究では96%の同源性があるとされ、あくまでもSARSウイルスそのものではなく、SARSに似たウイルス(SARS-like CoV)の研究結果です。
 
 ご存じのとおりSARSは、2002年から2003年にかけて流行し世界で8094人が感染し774人が死亡し大騒ぎになりました。現在の武漢ウイルスとはまったく影響度が違います。
 SARSは、今でも感染者はいますが、感染者が少ないために、そのワクチンは商業的に成立しないことから作られていません。武漢ウイルス研究所のP4実験室では、このSARSのワクチンを作っていたのでしょうか。
 
  以上のとおり、中国政府・中国共産党が武漢ウイルス研究所のP4実験室にこだわる理由です。

 武漢ウイルスが人工的なウイルスであるとしても兵器用に作られたウイルスであるというのは現実的ではないように思われます。もし、兵器用であれば中国は敵対国の米国に最初にばらまくでしょう。ですから兵器用ウイルスとしても、故意に拡散させたのではなく事故で漏洩してしまったという可能性が大きいと思います。

 ただし、中国やWHOは、米国を始め西欧で感染が爆発的に広まることは予想できたはずですから、情報を隠蔽して、世界の政治・経済・文化の中心地であるニューヨークを始めとして各国の国民に重大な被害と混乱を及ぼしているのは、結果として兵器的に使用したのと同じです。その責任は重いでしょう。

 なぜ、これほど中国政府・WHOは、情報を隠蔽しようとするのでしょうか。
 不思議といえるかどうかはともかく、次回、その理由について考えます。