「家では全然言うこと聞いてくれないんですよ」というのは、よく聞く声のひとつです。
このような、「どんなにトレーニングをしても、アドバイスを実践してみても、家でやるとできない。どうして?」という悩みは、犬を飼っている人にはよくある悩みです。
その原因は大きく2つにわかれます。
1つはトレーナーの実力不足の場合。
もう1つは飼い主が変わろうとしていない場合です。
1つ目については、トレーナーの実力が乏しければ身に付かないのは当たり前です。たとえ知識はあったとしても、それに見合った実力がなければ犬は言うことを聞きません。
2つ目については、トレーナーが犬をどれほど仕上げても、飼い主が今までの飼い方や接し方、扱い方をしていては、また今までのように犬は戻ってしまうのです。
これは人間のダイエットや肉体改善などで考えるとわかりやすいと思います。
例えば、自分の家族の誰かが、とても太りすぎてしまい、生活習慣病のリスクが高いと医師に指摘されたとしましょう。そこでジムなどに行き、トレーナーの指導を受けてみることになったとします。
トレーナーの指示通りに食事や運動、毎日の過ごし方を意識して過ごせば、数か月後にはその成果が体に現れます。しかし、体が仕上がったところで、再び家で元の生活に戻ってしまったらどうなるでしょうか?
おそらく、指導を受ける前の体に戻ってしまいますよね。
そもそも病気のリスクが高まるほど太っているのは、それまでの生活習慣になんらかの問題や、体質に合わない生活をしていた可能性があります。
ですから、その「もと」を直さなくては最終的な効果は得られません。
ただし、それは規律でがんじがらめにしようというものではありません。
気になる点をひとつずつ改善し、その人にとって必要なことを体質や性格に合わせて少しずつ取り入れていけばよいのです。
その考えや行動が当たり前になっていけば、「厳しい」とも「かわいそう」とも思わなくなります。
シンプルな味付けで野菜の味を楽しめるようになったら、大量のマヨネーズをかけなくてもおいしく食べることができます。毎日の習慣になっていれば、歯磨きをしないで数日を過ごすのは落ち着きません。
このようなとき「歯磨きを面倒くさがっているのに毎日させるのはかわいそう。」とはならないですよね。
その人の将来も含めた長い目で考えて、その人の性格や習性を考慮しながら、家での習慣や常識を少しずつ変えていけば、「我慢をさせている」「かわいそうなことをさせている」とはならないのです。
同じように、犬を飼うことについても、その子にとってベストな飼い方、接し方、扱い方が存在します。そのベストな方法でトレーナーは犬を仕上げていきます。
そのあと、飼い主のあなたにできることは、これまでの飼い方、接し方、扱い方を見直すことです。それは飼い主のやる気と気持ちが重要になります。
この気持ちがなければ、できるはずのことも、できるようにならないのです。
もし、やる気と気持ちを維持し、これまでの飼い方を見直すことができれば、あとは自分の家に合うような飼い方に応用していくことができます。
家の中で放し飼いにしたいのであれば、しっかりと「ハウス」を教え、犬自身が眠いと思ったら自分から入るようにしつける、犬と一緒にランニングを楽しみたければ、まずは横について歩けるようにしておく、などです。
犬がトレーニングを経ていろいろできるようになっても、また元に戻ってしまったら、もうそこには言い訳は通用しません。
戻ってしまうのは、考え方や習慣を変えられない人間の責任です。
ただしそのときに、どうか「どうせ素人にはできない」と諦めないでほしいのです。
犬は「マテ」や「フセ」といった指示を行動に移すことも、ルールを決めて動くことも、どれもとても練習して、頑張ってできるようになったのです。
犬にとって頑張ったことを一番理解してほしい相手は、飼い主であるあなたです。もしそれを理解してあげられなければ悲しいことです。それこそ、とてもかわいそうなことです。
技術も大事ですが、必要なことであれば何がなんでも身につけさせようという気持ちこそ大事なことです。「この子が人間社会で快適に過ごせるように、よりよくトレーニングをしよう!」という飼い主の思いは犬に伝わります。
その気持ちを受けて、犬自身も大好きな飼い主のために頑張ろうと思うのです。
私はお預かりした犬を本気でよりよくしようと思って接しています。
だから、できるのにやらない場合は本気で叱るし、できたときは心から褒めます。
それは飼い主であるあなたにもできるはずです。必要なのは難しい技術や知識ではありません。あなたの気持ちなのです。