今更言いますが、このブログの記事タイトルはずっと韻を踏んで来たんですが、200回を迎えてから密かにそれもやめました(笑)

理由は読書の感想やオススメアプリを紹介する時、それが何を紹介しているかタイトルだけ見たら分かりにくいから。

なのでそういう紹介や感想をしている記事については、普通に何を紹介してるかをタイトルにします。

そうでないものは今までどおり韻を踏んだタイトルにしようかと思います。


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ということで、今回は久しぶりにミステリ感想。


大山誠一郎『密室蒐集家』感想


密室蒐集家 (ミステリー・リーグ)/原書房
¥1,680
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【Amazonの紹介文】

「混じりけなし、高純度・高品質の密室パズラー集」
綾辻行人氏、麻耶雄嵩氏のダブル推薦!
ゼロを代表する名作短編ミステリ「少年と少女の密室」をはじめ、
密室蒐集家シリーズを収録したはじめての作品集。


すごいすごいと聞いていたので、図書館でないかなあないかなあと時々探しては3ヶ月、ようやく見つけました!

この本にも収録されている作品が入っているアンソロジーが図書館にあったので、きっとこの本も図書館に並べられるだろうと思ってたんだよね!


本書を手にとってまず最初に思ったのが、大山誠一郎っていう名前、何か推理小説の中に出てきそうな作家とか館の主人みたいな名前だなあってこと。

特に綾辻行人の書いた館の主人の名前にありそうだなあ。

それにしても古臭い名前だ。

小説の中じゃなければ昔の作家がつけそうな名前だし、何か今風じゃないよね。


そんな大山誠一郎さんが書いた本書、密室を扱った5編の短編が収められている連作短編集ですが、そのどれもがクオリティ高いもの。

5編中2編は前述した他のアンソロジーに収められていますが、他の3編は全て書き下ろしたもの。


そして連作短編集なので登場人物が共通してるのですが、それは「密室蒐集家」という1人の探偵役のみ。

他は約1人以外全て1つの話にしか登場せず、話の舞台も1937年~2001年とバラバラ。

でも不思議なのがそのように時代設定がバラバラにも関わらず、密室蒐集家は容姿がいつの時代でも変わらないこと!

そう聞くと何だかSFめいた感じですが、SFっぽいのはその密室蒐集家という設定のみで、他は全て「ド」がつきそうなほどの本格ミステリです。


さて、そんな本書を1編ずつ少しだけ紹介していきます。


・『柳の園』 1937年

本書は古い話から順番に新しい話へと書かれていますが、この話が一番古く、1937年が舞台です。

しかし、あまり古く感じず、事件の舞台は女学校ですが、そのまま現代としても通用しそうなものでした。

この話は本書への書き下ろしなので実際に書かれたのは最初ではないですが、密室蒐集家の登場としては最初。

その密室蒐集家、登場した次のページで「真相がわかりました」ですからすごい!


・『少年と少女の密室』 1953年

舞台は戦後で、「愚連隊」という言葉などに時代が伺えます。

この話は衆人環視によってできた密室を扱っていますが、結果的にある1人の人の勘違いによってできた密室だというところがすごい!

ただ、伏線が分かりやすく、実はこうじゃないか?というのが自分はすぐ分かってしまいました。

この話が後にあげる一編とともに読者には一番評価されている感じがしますが、自分的にはそこまでじゃないかなと思いました。


・『死者はなぜ落ちる』 1965年

これも時代が40年以上も昔の感じがしませんでした。

6階のアパートから人が落ちたが、行ってみると、その部屋は窓以外鍵が閉まっており、誰もいなくなってたというもの。

正統派の密室ものですが、ちょっと偶然が大きいかな。

犯人が分かってから読み直したくなる話。


・『理由ありの密室』 1985年

これは読んで「すげー!」と声が出てしまったほどすごい話。

読んでからいくつかネットで本書の感想を探して読んでみたんですが、この話がダントツで評価されてました。

理由は密室を作った理由が「密室講義」とともに詳しく検討されており、その理由が普通は思いつかないものだからだと思います。

そしてその理由とちょっと苦笑してしまいそうなダイイング・メッセージやアリバイがうまく融合して犯人当てに結び付いています。

読んでるうちに頭がこんがらがって来そうな、密室を作った理由、そこに辿り着くまでの論理のプロセスが必見!


・『佳也子の屋根に雪ふりつむ』 2001年

一番現代のこの話が本書に収められている中で一番最初に書かれた作品らしいです。

10数年前の話だけあって「携帯電話」などが登場し、時代を伺わせます。

密室としては雪についた足跡によってできたいわゆる「雪密室」であり、トリックも意外な犯人も面白い。

しかし、さすがにそれはないだろうという偶然に頼りすぎており、いささか強引な気がしました。

この話は密室蒐集家がすぐに答えを言うのではなく、可能性を検討し、話しながら真相に辿り着くというもので、作者も最初に書いただけあって手探り状態だったのかなあという感じ。

ただ、犯人が登場し、少し会話したらすぐに「犯人はあなたですよ」というところは他の話とも共通しています。



という風に「密室蒐集家」という1人の同一人物が異なった時代に現れて、関係者や警察の話を聞いただけで真相を解き明かしてしまうという本書の話。

密室蒐集家は悩んだり、自分で調べたりしないので人間味がなく、何だかロボットみたいだなという印象。

その意味で探偵役の捜査や推理過程が好きな人にとっては本書はかなり物足りないものではないかと思います。

そういう部分を書かなくてもよく、話を聞いただけで、「真相が分かりました」なので作者としても書くのが楽だっただろうなと思います。


ただ、そういう部分を排除してもなお、読み応えのあるものになってると感じるのは、やはり捜査や悩んでる過程がなくとも、論理的推理プロセスが素晴らしいからであると思います。

紹介文にあるように、まさに「混じりけなし、高純度・高品質の密室パズラー集」、興味ある人は一度堪能してほしいです!

少なくともオススメの『理由ありの密室』だけでも読んでほしいです!



2013.2.15読了

★★★★★★★★☆☆ 8点