宇宙大怪獣ドゴラ | 復刻版

復刻版

栄光より挫折、成功より失敗、勝利より敗北…。

古いLD盤を引っ張り出して、
東宝SF「宇宙大怪獣ドゴラ」を観た。
これは、前の東京オリンピックの年、
1964年に製作された。

 宇宙大怪獣ドゴラ

怪獣映画だが、怪獣の本体は、
放射能で変異した宇宙細胞だ。
大怪獣と銘打っているが、
姿ある怪獣は、さほど登場しない…。

出演は、夏木陽介、
中村伸郎、藤山陽子、
小泉博、若林映子、
加えて、悪役は河津清三郎、
天本英世、桐野洋雄、
また、防衛隊幹部は藤田進、
警視庁課長に田崎潤といった
東宝SFに不可欠な、
俳優陣が揃っている。

音楽は、伊福部昭、
照明 岸田九一郎、
監督 本多猪四郎、
特技監督 円谷英二の黄金コンビ。
監督助手に新「ゴジラ」の
中野昭慶が加わっている。

映画の特筆すべき点は
怪獣退治とダイヤ窃盗団の摘発が
同時進行することだ。
窃盗団との対決は60年代の
アクション映画風な魅力がある。

冒頭にも触れたが、
通常の怪獣映画のような
特撮シーンを期待して観ると、
肩透かしを食う作品だ。

ポスターには、
ドゴラが描かれているが、
怪獣の全形が登場するシーンは、
ごく僅かである。

ウルトラQの「バルンガ」同様、
変異した宇宙生命体で、
地球を移動させる、
荒唐無稽な話の「妖星ゴラス」と
並ぶ異色作といえよう。
そして、SF作品的には
結構楽しめるのだ。

私が興味を持って観たのは、
怪獣よりも鉄道だ。
中村伸郎演じる宗方博士が、
移動するのに20系の特急
「さくら」を利用している。

九州行きは飛行機でなく、
寝台列車が主流だった時代の話だ…。
「さくら」は外観のみならず、
車内もふんだんに撮影され、
これまた興味深い。

ところで、北九州が舞台となり、
圧巻は、若松の住民が逃惑い、
パニックになるシーンと
若戸大橋が怪獣に、
破壊されてしまうシーン…。

若戸大橋は今でこそ、
年月か経っているが、
映画製作時は完成から僅か2年で、
当時は東洋一の吊り橋。
でも、無残に壊してしまう。

対空砲火が、昔の都市防空の
高射砲隊みたいなのは滑稽で、
思わぬところで、
怪獣の弱点が見つかる。
これが意外なものなのは、
アメリカの「宇宙戦争」を
ヒントにしたのであろう…。

最後の対決シーンは
架空の東宝自衛隊兵器が登場し、
東宝特撮のこだわりが垣間見れる。
伊福部昭によるバックの曲が
他の使い回しでない、
オリジナル曲なのが好い!

並行する窃盗団とのアクションだが、
石化した怪獣の死骸に
潰されてしまうのが皮肉だ…。
怪獣の残骸の落下シーンは、
円谷英二の技術が屈指されている。

特撮にCGを使っていないので、
近年の作品に比べ、
リアル感が乏しいが、
撮影の苦心が随所に見られ、
逆に感動を覚えてしまう。
何せ、今から約50年前の作品なのだ…。

付記するなら、
中村伸郎の演技が光る。
そして「ヤング・ソルジャー」
という台詞が忘れられない…。
また、この作品も
伊福部節全開である。