青雲譜48「青雲荘の仲間達」D

「恐怖の館それから」4

四月!授業終了後に、青雲荘に立ち寄ってみた。

1階芹沢さんの部屋から、何人かの笑い声が響き渡っていた。

「ドン、ドン!」

「何してんの?」

「おお!沖田!入れ!入れ!」

「坂西の後輩が来てんのさ!」

「初めまして!相沢塔子と言います!よろしく!」

これが、彼女との最初の出会いであった。

四国の坂西の高校の後輩だそうだ。

医学部に来るくらいの女の子は、芯が強く、物怖じしないようである。

男だらけのアパートに、後輩と言うだけで、リラックスして雑談に興じているのであるからビックリ!

髪は、ロン毛でもなく、ショートでもなく、丁度中間で、カールが、かかっていた。

水沢アキと南野陽子を足して2で割ったような、活発な、かわいい娘である。

篠ひろ子のような、口元の“ほくろ”が、印象的であった。

秋田の医学部でのあり方を、冗談交じりにワイワイ紹介しあっていたが、坂西は、幾分先輩風を吹かせている感があった。

そんな中、唐突に、

「沖田さんの出身は?」

「沖田さんの趣味は?」

「沖田さんは、今、何処に住んでいらっしゃるんですか?」

彼女から、矢継ぎ早に、質問が飛んできた。

舜司は、みんなの手前、躊躇して、ぎこちない返答を繰り返すしかなかった。

「ええっ、わかりますよ!そこなら!」

「確か、“駅から下宿に行く途中にある”と思うんです!」

「1,   2年のうちは、教育学部に近い所の方が、都合いいですよね!」

「それは、そうだね!」

「じゃあ、私は、しばらくは、今の所に居ることにしようっと!」

 

「ところでさ、大学病院って、卒業するまでには、出来上がるのかな?」

「いや、俺たちは、今の県立中央病院のままみたいだぞ!」

「ふーん!・・・そうなんだ・・!」

「でも、授業は、臨床講義室だから、医学部の校舎に行かなくちゃね!」

「午前中は、県立中央病院、午後は、医学部校舎か・・・!」

「沖田は、車あるんだろう!もう、お化け屋敷から脱出したら!」

「ここでも、2,3部屋空いてるぞ!」

「へえ、そうなの!」

「・・じゃあ、・・そうするかな?・・」

「でも、やるとしたら、連休あたりしかないね!家賃は、日割りにしてくれるかな?」

「交渉次第!交渉次第!」

「そうか!・・じゃあ、やってみるか!」

「これで、とうとう、俺も、青雲荘の住人になるって言うことか!・・」

こんな流れだったので、塔子さんは、ギリギリで、朝早く舜司の部屋を尋ねることが出来たという塩梅だったのである。

 

青雲荘に移ってからも、時々、塔子さんは、坂西を訪ねてきていた。

その都度、青雲荘の住民は、芹沢さんが居れば、芹沢さんの部屋に、居なければ、坂西の部屋にと、集まって来ていた。

そんなある日の事、

「沖田さんの部屋も、見てみたいな!」

「引っ越してきたんだから、是非、見せてくださいよ!」

「ネ、いいでしょう!」

と、頭を傾けながら、哀願されてしまった。

「芹沢さんの部屋って、何にもないじゃないですか!」

「坂西先輩の部屋も、何にもなくて、医学生らしくないんですもの!」

「沖田さんの所は、どうかな?って、興味あるんですよネ!」

「ええっ?残念だけど、何にもないよ!」

「いいんです!いいんです!早く!早く!見せてくださいヨ!」

逆に、舜司が手を引っ張られて、2階に上がって行くような状態であった。

 

『関西の女の娘って、結構、割り切っていて、積極的なんだな・・・!』

『でも、ちょっと、俺、気まずいな!・・・皆の手前!』

 

「ふーん!」

「下の先輩に比べれば、少しは医学生っぽいですね!」

「え・・?そうかな・・?」

「でも、先輩方って、みんな、ちっとも医学生ぶったところ、ないんですね!」

「ん・・?これでも、精一杯ぶっているんだけどな!」

「そうですか?・・」

「あ~あ、でも、私、心配だわ!」

「秋田なら、こんなもんでいいんですかね?本当に、心配になっちゃうわ!」

「・・・・・!」

「・・・・・!」

「そうだね!本当に心配だよね!」

「ベッドはビールケースだし、医学書もあんまりないし!」

「勉強している雰囲気0(ゼロ)だもんな!」

「まったく、君の言う通りだよ!」

「こんなんで、ほんとは、“いい”わけないじゃん!」

「あのね!マジで、俺たちの“マネ”しちゃだめだよ!俺たちは、優等生じゃないんだから!」

「ふーん・・!」

「でも、先輩方は、“気さく”だって言うのかな・・?」

「なんか、気持ちが、ちょっと楽になるんですよね・・!」

「んーん・・?・・なら、苦しい時は、こうして、息抜きに来たらいいじゃないか!」

「そうですよね!」

「私も、遠い、遠い、秋田に、来ちゃっているんですから!」

「落ち込むことだって、ありますよね!」

「まあ、・・そりゃ、そうだよね!」

「でも、塔子さんは、これからが、“スタート”だろう!」

「偉そうなことは、言えないけどさ、・・一つだけ!」

「授業は、きちんと出たほうがいいよ!」

「俺たち、サボったから、もう大変!後でさ、しっぺ返しが来るから!」

「ふふふー!」

「わかりました!大丈夫ですよ!十分に、反面教師にしますから!」

 

『医学生らしい医学生って?』

『医者らしい医者って?』

 

『優等生らしい優等生って?』

『利発的な、利発っぽさって?』

 

舜司には、まったく良くわからない単語の羅列であった。