青雲譜47「青雲荘の仲間達」C

「恐怖の館」3

今夜は、芹沢さんの部屋で舜司の引っ越し祝い!

青雲荘は、10部屋を有した2階建で、東向きに建っており、1階の右端の方に正面玄関があり、その左隣に芹沢さん、そして、その隣には坂西の部屋が連なっていた。

2階の西側中央付近に熊君の部屋があり、舜司は、2階の南端で東に面した部屋である。

非常階段がついており、ここから出入りすることが出来、便利のいい部屋であった。

窓から見てみると、青雲荘は、三吉アパートから南西斜め方向80m位のところに位置していた。

田圃越しだが、大声で呼べば、届く距離に感じられた。

秋原、山谷、霜山、藤川達は、1,2階の違いがあっても、皆、南側に面していたので、窓越しに部屋の明かりは良く見えていた。

「今日も、みんな、よく勉強してるようだな!ふむふむ!」

 

「沖田の祝いだ!皆で何かを持ち寄って、食事会をしようぜ?」

芹沢さんが、音頭とりをした。

「坂西は?」・・「何にもないなあー!」「あっ、黄色い米なら少しあるぞー!」

「はあっ?」「黄色いコメ?」「なんだ?それ?」舜司は、思わず声を上げてしまった。

「カビ生えてんだよ!黄色いカビがさ!」

「食えるかどうか?俺は、保証はできないぞ!よかったら、どうぞ!」

「大丈夫!大丈夫!良く洗って、雑炊にすればOKだよ!」

「熊は?」・・「白菜とハムくらいかな?」

「卵はないのかよ?」・・「ないなー!」

「沖田は?」・・「引っ越しだよ!冷蔵庫なんて空っぽだろう!」

「そうだよな!」

「ようし、秋原を引き込もう!卵あるだけ持って来いって!」

「熊さ!呼んで来いよ!」

 

芹沢さんの部屋は、何にもない部屋であった。

電気コタツ一つである。

机も椅子もないんだ!

そして、一番変だったのは、本がさ、一つもないってことだよ!

だからさ、当然、本棚もあるはずがないんだ!

押し入れ?・・ふふっ!・・・布団一式だけだったよ!

『もしかして、この人、天才だったの?・・・・・』

そういえば、“ナポレオン”や“大貧民”なんかのゲームは、やたら強かったな!

逆に、舜司はというと、残念!とても弱かった!

顔に出てしまうんだな!

あれこれ考えることが、頭の浪費のような気がして、適当に運任せにしてしまう傾向が強かったんだ。

 

炊飯器で炊き上げたご飯は、努力の甲斐なく、やっぱり黄色かった!

「いっぱい洗ったんだけど、落ちなかったね!」

「いいよ!いいよ!」

「後は、鍋に、白菜も、ハムも、卵も、あるだけぶっこめよ!」

「グツグツ煮込めば、黄色くて、わかんないって!」

「おおっ!本当だ!結構うまそうだよ!」

「ほんと、ほんと!」

「もう、食えるかな?」

「良く煮込んでからの方がいいよ!」

「そうだ!そうだ!」

「こんだけ、煮込めば、多分問題ないよな!」

非科学的な、非医学的な会話をしながら、全員、不安感を払拭しあっていた。

しかし、この5人で食べつくした黄色いカビ雑炊が、とてもおいしい“黄金の食事”として記憶に残っているのであるから不思議である。

 

「あのさ・・!」

「坂西の後輩がいたじゃん!」

「入学したからって言ってさあ、坂西の高校の後輩がさあ!」

「芹沢さんの部屋に寄ったら、一緒に居てさ、俺に紹介してくれたじゃん!」

「あの娘がさ、朝早く、俺の家にさ、“四国の帰り”だって、寄ってったんだよ!」

「そんで、これ!・・」

「土産!って、もらったんだけどさ、いったい、何なの?これ?・・」

「金冠?蜜柑?皮向いて食べるの?小っちゃいんだけど????・・」

「はははー、沖田は田舎もんだなー!」

「沖田では、貰っても、宝の持ち腐れだよ!」

「“すだち”って言ってさ、高級な料亭では、最近、よく見かけるんだよ!」

「小っちゃくて上品だから、指で軽くつぶしてな、レモン汁みたいに掛けるのよ!」

「九州では、同じようなもので、ちょっと大きめの“カボス”って言うのがあるんだよ!」

「へー?じゃあ、貰っても食べれないんじゃん!」

「参ったなー!この箱見てよ!結構、あるよ!」

「味・・?・・レモンなんだ!酸っぱいのか・・!」

「ホラ、ホラ!洗ったから、食べてみたら!」

「フン、フン!」

「ウワアー、酸っぱい!」

「でも、レモンより上品な味だね!やっぱり品があるわ!」

「だろう!だから、高級料亭って言ったのさ!」

「じゃあ、俺は、持ってても無理!無理!この雑炊に掛けて食べちゃおうか!」

「んーん?・・そうだな!それいいかも!」

 

 

だからこそ、この雑炊は、極上の“黄金の食事”になったのかもしれないな?