青雲譜3
青雲の志2
翌朝、さあ!出陣!
目指すは、試験場!
ひんやりとした空気。吐息は白い。
快晴だ!青い空、白い雪!
コントラストのすばらしさに舜司の目は輝いた。
明徳荘の玄関から、メイン道路に出た。
マフラーをしたコート姿の受験生がゾロゾロ道路脇を連なって歩いていた。
長蛇の列は、「隣のトトロ」や「千と千尋の神隠し」のまっくろ黒助。
S字状の広い道路は、鉄道の上にかかった高架橋。黒い長蛇の列は遥か1~2キロにわたって続いていた。
舜司は、半信半疑、不安な気持ちで付いて行った。
15分もすると、大学の校舎が見えてきた。
構内は人だかり、全員医学部の受験生のようだった。
すごい数だ!
でも、みんなちびだった。うつむきかげんで顔が見えない。誰一人記憶にない。
1日目、2日目、3日目、あっという間に過ぎた。受けた科目の順番などは忘れてしまった。
でも、英語、古文などは、とても易しかった。
みんなわかるのだ!やったことがあるような問題ばかりで、こんな問題でいいのだろうか?・・・とても不安な気持ちになった。
生物は、2、3個わからないところがあった。後で聞いた話では、生物は難しく、選択してしまった受験生にとっては不利だったそうである。
数学も易しかった。しかし、1問だけは変な問題だった。確率の問題であったが、一行で終わりなのである。余白がありすぎるのだ。もっと、場合分けがあるのだと推測できたが、何故か、面倒になり、もういいや!と、机に突っ伏してうたたねをしてしまった。
日本史、化学は、あまり記憶にない。多分、記憶にないくらい易しかったのだろう?
それにしても、この3日間は不思議な体験だった?
夢の世界にいたのだ!ゾーンの世界だ!
ボーっとしており、見る問題、見る問題、みんなわかるのである。スラスラ解けてしまうのである。あっという間に3日間が過ぎたのだ。
最後の日、答案用紙が集め終えられると、舜司は急に悲しくなってきた。
あまりの手応えのなさに、がっかりしたのである。
駄目だ!駄目だ!
これでは、易しすぎる!
これでは、差がつかない!
確信した!
これでは、受からない!
こんなのでは、みんな受かってしまう!
夕方。田中と帰省列車の時刻を待った。
秋田駅前でパチンコをやり、喫茶店でコーヒーを飲んだ。入試の問題の中身には、一切触れずに過ごした。
みんな田中がおごってくれた。・・・田中君んちは、金持ちだな!うらやましい!
一路、白河へ!
あ~あ、脱力感いっぱいの毎日だ!
合格情報が、毎日、毎日、新聞紙上を賑わしており、悔しい溜息の連続だった。
父親は、毎日、大学合格欄を見ては、驚嘆の声を上げている。
「医学部でなかったら、俺だっていいところに入ってるよ!」
「医学部は難しいんだろうけど、何も医学部だけがいいわけじゃないだろう!別の学部だってよかったんじゃないのか?」
「そうすれば、どっかには入ってるんだって、みんなにわかってもらえたろう!」
その通りだ。間違ってない。
学歴などには全く無縁の父親だった。
だからこそ、学部に関係なく、どこでもいいから東大や東北大などの旧帝大に合格していれば、この上ない喜びを味合わせてあげれたはずである。
「息子さんは、頭がいいですね!」なんて言われてきたが、結局、バカと同じなんだ。
どこにも合格しなかったのならば、“なし”なのだ。“ゼロ”なのだ!
父親には、悲しい思いをさせてしまった。
もう一年、浪人するしかない!
予備校受験だ!東京へ行かねば!
後,後、お袋に聞いた。
父親はあれでも、とても心配してくれていたと言うのである。
自分は尋常高等小学校しか、いっていない!
なんて声をかければいいのかわからない!
教養のない自分では息子にとって、なんのアドバイスにもなるまい。
せめて、定継義兄さんが、あんなに早く亡くならなかったら、東大の医学部を出てるんだから、何らかの話はしてもらえただろうな!
息子さんも、医者になっているが、信州では遠いしな!
できる子供をもつことは、辛いことだ!
親も切ないし、子供にとっても不憫だ!
体が大きいから、石山を継げる程度で、お互い幸せだったのではないのかな?
本当に体を壊さないでほしい!
ノイローゼになんかならないといいけどなあ!
とっても心配だ!と。
母方:右から、次男 小○定継(東大医学部卒 医学博士) 長男 小○定男(福島師範卒 教師)